第30話 リリン
ディアナは真夜中に目を覚ます。
酷く爛れた夢を見た。
「はっ、はっ……」
快楽に溺れていく夢だ。
あり得ない。
あり得てはならない。
「違う……カレンはそんな事、言わない」
彼女は清廉なのだ。
このような夢を見るなど罪深い。
だと言うのにディアナは興奮を覚えることを隠せなかった。
「熱い……」
身体が熱を帯びる。
全身から汗が吹き出す。ピチャピチャと湿り気のある音が暗い部屋に響く。
「んっ……ぁ、はっ……はぁはぁ……んんぅ」
本能的な動きが止められない。いけないことだと頭では理解しているのにディアナは堕ちていきたくなる。
「ふっ……ふっぐぅ……あっ……」
ピチャリ。
ピチャピチャ、水漏れの音か。
グチョグチョと濡れそぼった淫気な音がこだまして、部屋はより一層に空気感を変える。
「あっ、はぁ……はぅううっ! はっはっ、はぁ……」
ディアナの身体が痙攣する。顔は赤く染まり目は虚に。ゾワゾワと背中を走る感覚は罪悪感か、快感か。
「ああ、あっ」
身体の震えが止まらない。
「ふうっ……はっ、ふっ、ぅっ」
ダメだ。
まだ足りない。
快楽へと手が伸びる。
ディアナの理性がこれ以上はしてはならないと咎めているのに知った事かと。
欲望を抑えつける事が出来なくなる。
「カレ……ン、カレン……カレンカレンカレン」
名前を呼べば脳裏に彼女の顔が浮かぶ。
ああ、実に背徳的だ。
違う。
それは彼女を汚す事に。
それでもいいじゃないか。
どうせは、夢の中なのだから。
汚してしまえ、犯してしまえ、堕ちてしまえ。
「カレン……!」
2度目。
雷の突き抜けるような快楽にディアナの脳が痺れ、真っ白に染まる。
『それで良い』
快楽に浸り切った身体でディアナの身体は糸が切れたかのようにベッドに倒れ込む。
何かが囁いたような気がして、また快楽の夢へと誘われる。
『儂の夢は幸せだろう。溺れろ、溺れてしまえ』
クスクスと女の声が囁く。
夢に落ちていく。
快楽へと堕落していく。
「ねえ、ディアナ……」
夢の中のカレンは衣のひとつも纏わずにディアナにしなだれかかり、耳を甘噛みしてからか細い声で囁く。
「私のこと、嫌い?」
どうして。
どうしてこんなにも。
「あ、ああ……」
罪深い。
雪のような肌。恐る恐るとディアナが肩を撫でればカレンはクスリと笑って。
「くすぐったい」
と、身を捩るのだ。
「カレン、カレン……!」
縋るように、追い求めるように、貪るように。ただ彼女は目の前のカレンの身体を抱きしめていた。
「好き! 好きなの! 私はカレンが……好きなんだ!」
吐き出した言葉に応えるようにカレンが抱き締める。これはディアナの理想でしかない。現実とはかけ離れた夢の世界。
快楽へと落とし込む悪魔の仕業。
彼女は夢を見せ、歩みの停滞を齎す者。
彼女はリリンと呼ばれる淫魔だ。
「私もディアナの事が好き」
カレンの姿を模ったリリンはディアナの身体を押し倒す。
崩れていく。
グチョグチョに。
壊れてしまう、理性など。
夢から夢へと渡り数多の人間を壊してきた。快楽へと溺れる姿を見てきた。
「ねえ、ディアナ」
艶のある唇が開き鮮やかなピンクの舌が覗く。
「……受け入れて」
カレンの顔が近づいた。
ぼうっとした頭はもう、彼女を拒むことはない。抱きしめて受け入れて堕ちていく。
悪魔の術に狂わされていく。
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