第28話 2人1組
アルバにグラウンドに行くように言われ、クラスの全員がゾロゾロと教室を出る。
グラウンドに来てみれば、どうにもアルバのクラス以外にももう1クラス分の生徒がいた。
「今日の魔法基礎学はイェルク先生の4組と合同で行います」
成る程。
生徒全員も得心がいった。
「リースもいんのか?」
合同で授業をするのがイェルクのクラスということもあり、生徒の中にリースは居るだろうかとガリウスがグラウンドを見回す。
「あ」
見つけた。
リースは担任のイェルクの直ぐそばにいた。恐らく彼が逃げ出さないようにという意味もあるのだろう。
「この前言ったように魔法の詠唱省略の実践です。安全性に考慮して今回も水魔法のウォーターボールで行います」
流石に火属性の魔法を放つわけにはいかないのも仕方がない。教育上、怪我をさせては家族に申しわけがつかない。
「既に詠唱文は配ってあります。一先ず、私がお手本を見せましょう」
彼女は詠唱省略の文を既に暗記している。教師だから当然か。スラスラと淀みなくウォーターボールの詠唱を始める。
「祈る、水の精霊よ。応え給え、我に弾を与え給え……ウォーターボール」
出来上がった水の球の大きさはバスケットボールよりも一回り大きい。教師としてこの程度は当然。何よりアルバの得意属性であるのだから出来ない方がおかしい。
「詠唱省略でもこのように問題なく魔法が使用できます」
出来上がった水の球はグラウンドに落ちて水飛沫を上げた。
「では、皆さんもやってみましょう。2人1組を作ってください」
お互いに監視し合い問題が起きたら報告する体制を作るためだろう。アルバとイェルクも授業をしっかりと見ているが効率を考えた結果か。
「よ、リース」
早速、ガリウスはリースに声をかける。
「…………チッ」
「一緒にやろうぜ」
彼に断られてしまうとガリウスもなかなか相手を見つけることができない。頷くことを願うばかりだ。
「まあいい。お前のが他の奴より楽だ」
リースも周囲の様子を考えてガリウスの誘いを受けることにした。他人から好奇の目を向けられてはストレスだ。
なら、ガリウスと組んだ方が気分的にはマシだ。
「祈る、水の精霊よ。応え給え、我に弾を与え給え……ウォーターボール」
気怠そうにリースが右腕を突き出しながら詠唱すると、彼の掌の下にバスケットボールほどの大きさの水球が出来上がる。
「チッ……水魔法苦手なんだよ」
直ぐに腕を振ってウォーターボールを落下させる。
「うっわ、すげぇな……」
ガリウスにはここまでの大きさのウォーターボールは作れない。省略なしでも野球ボール。
「馬鹿にしてんのか」
だがリースはガリウスの魔法の能力を何も知らない。
「してねーよ! いいか! よく見てろよ!」
魔法の詠唱を始める。
「祈る、水の精霊よ。応え給え、我に弾を与え給え……ウォーターボール!」
出来上がったのはゴルフボール程度しかないウォーターボール。
一応はガリウスには予想できていたことだ。
「お前……それはアレか。圧縮してんのか?」
「そんな高度なことできるわけねーだろ!」
リースとしても信じられなかった。
まさか、魔法科のガリウスがここまで魔法が使えないとは。
「お前……木剣使ってたな」
「…………」
「何だ、まあ……今からでも武術科とか考えたりしないのか?」
珍しくリースが憐れむような顔を見せる。
「ねーよ!」
水球が弾けた。
「つーか、一応は詠唱省略は終わったんだし別に良いだろ。俺のウォーターボールが小っさい事くらいなぁ……!」
やはり気にしていないわけではない。
周囲に比べてひと回りどころでは済まないウォーターボールの小ささは精神的に来るものがある。
「ガリウスとリースか」
イェルクが2人の前にやってくる。
「ちゃんと授業受けてる?」
尋ねられてすぐにガリウスは横にいるリースに目を向ける。
「言われてんぞ」
「ああ? お前もだろうが」
2人の言い合いにイェルクは口を挟む。
「いや、取り敢えず僕の前でウォーターボールの詠唱省略をやってくれればいいから」
先程やったばかりだというのに。
教師とは証拠を求めるものだ。主に努力の証拠を。
「祈る、水の精霊よ。応え給え、我に弾を与え給え……ウォーターボール」
リースが何ともないように唱えれば、何ともないようにウォーターボールが発生する。
実際に困難な事でもない。
「い、祈る、水の精霊よ。応え給え、我に弾を与え給え……ウォーターボール」
若干の声の震えがあるがガリウスが詠唱をすると、先程と大きさの変わらない水球が現れる。
「……一応、できてはいるみたいだ。一応ね」
イェルクからの視線に気不味さを感じ、ガリウスは明後日の方向に目を逸らした。
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