第27話 釘を刺す
「じゃあ、リースくんが気になってるオーバーリミットについて説明してあげよう。ついでにガリガリくんに説明し忘れてた事がもう一個あるから、それもね」
まだ何かあったのか。
ガリウスは席についたマリエルを半目で見るが、彼女は大して気にしたそぶりを見せない。
「まず、リースくん。オーバーリミットは魔王国側の技術です」
これはリースも既に知っている。
と言うのはガリウスとウィスパーのやり取りから簡単に導き出せるからだ。
「それを私が勝手に使って、ガリウスくんに教えたんだ〜」
ヘラヘラと笑って彼女は言う。
「どこで知った」
「ん〜とねぇ……色々あるんだよ。ほら、戦争中でしょ? そう言うのでさ、相手がどう言う技術を使ってきたかーとか」
「なるほどな。それで人間の方も利用しようと」
「そう! そう言う事!」
随分と上手く思考を誘導した物だ。
思わず感心してしまう。
人間は自分の思考で導き出したものに一定の執着がある。当然のように正しい部分があると思ってしまう。
自分なりに噛み砕いた解釈が1番理解しやすいと考えるように。リースは自らで考えて、答えを用意した。
「で、どんななんだ?」
「別にリースくん使っても意味ないと思うけどな〜」
例えばガリウスのように、自らの力が足りていない様なモノが使う裏技。
だが知ってしまった以上、釘を刺さなくてはならないのも事実だ。
「マリエル先生、ちゃんと教えてくださいよ。コイツが使わないように」
内容を知らなければならない。
危険性も、効能も。
危険物とはそう言うものだ。
「……それで」
ガリウスの言葉に対してリースも思う所もあるがグッと飲み込む。
「使わないで欲しいんだ」
「そりゃあ、あんなもん使ったらヤバいでしょ。てか、できればマリエル先生も使わないでくださいよ」
誰かが死ぬのも、自分が死ぬのも怖いから。
「へ〜」
ニヤニヤと意地の悪い。
「早く教えろ」
話が前に進まないことにリースは苛立ちを覚えて急かし立てる。
「リースくんが怒っちゃった!」
マリエルは態とらしく言うが余計に神経を逆撫でする。
「それじゃあガリガリくんには既に説明してるんだけどね。オーバーリミットは魔法の威力をあげられます!」
リースの中に思い浮かんだのはファイアランスを相殺して見せた第3位階闇属性魔法のシャドウスラッシュ。
「……成る程な」
あれは第3位階の威力ではなかった。
オーバーリミット。
ウィスパーが使った物。
「生命力が代償として削られるけどね」
「……ああ、そう言うことか。なら、透明クズの生命力が削られなかったのは……」
答えは簡単。
「魔法を唱えたのはあの悪魔でも、魔法を行使した身体は彼女のものだったから、だね」
下衆にも程がある。
自らは使ったとしても苦しまない。コルネリアの身体で使っても使い捨ての身体としてしまえばいい。
「それでガリガリくん」
「んぁ? 何すか?」
「こっからは話忘れてたことだね、想像はつくと思うけど」
マリエルはガリウスに話しかけて聞くように呼びかけた。
「オーバーリミットは本来使えない位階の魔法まで使えるようになる」
威力の底上げだけではないのだ。
「例えば、リースくん」
「ああ?」
「君は第4位階のファイアランスまでが使えるけど、オーバーリミットを使えば第6位階もできるんじゃないかな?」
マリエルはリースを見つめながら告げる。
「────」
オーバーリミットには使用可能な魔法の位階を大きく引き上げる力があるのかと驚きを禁じ得ない。
「……マリエル先生」
ガリウスは何を言い始めているのかと不審なモノを見るような目になる。
「ガリガリくん、分かってるって」
マリエルも何故、彼からこのような目を向けられるかは理解できている。だから、最後にはしっかりと注意する。
「でも、気をつけてね。生命力を削るってことは単純に死に近づくってことなんだから」
マリエルによるオーバーリミットの説明が終わり3人は指導室を出る。彼女は指導室の鍵を閉めて2人に振り返り「じゃ、2人とも。午後も頑張って〜」と言って、職員室に戻っていく。
彼女にはリースを捕まえると言う考えはない。だからリースを見ても何もせずに職員室に戻ったのだ。彼女が捕まえるつもりなら既に、と言う話だ。
「…………リース」
マリエルを見送った後でリースが教室とは別方向に向かおうとしているのがガリウスの目に入った。
「帰んのか?」
ガリウスがリースの方へと身体を向けずに尋ねる。
この後、リースがどうするつもりなのかはなんとなくだが理解できた。
「用は済んだしな。これ以上学校にいても意味がねェ」
このまま学校にいても無為に時間が過ぎるだけだ。リースにとって魔法基礎学の授業は退屈なものでしかない。受ける意味が見出せない。こんな事では兄のようにはなれないのだ。兄には届かないのだ。
「お前さ……せっかく学校に来たんだからなぁ」
別に学校は勉強のためだけという場所でもないだろう。友人を作るなり、図書室で本を読むなり過ごし方は色々とある。
「どうだって良いだろ」
お前には関係ない。
「どうだって良いってなぁ」
確かにガリウスはリースの家族でもない。
共通認識の友達でもない。
単なる知り合いだ。
少し話をしたくらいで生活に口を出されるなど気持ちが悪い。
「指図すんな。お前は俺の何だよ」
リースが辟易とした様子で尋ねる。
「……あー、分かったよ。好きにすりゃ良い」
やれやれ。
仕方ない。
別にガリウスがどう思っていようとリースには関係ない。友達だとガリウスが思っていたとしても、リースには受け入れる義務はない。彼の言葉を飲み込む必要はさらさらない。
どうにかなるものか。
結局はそれぞれの感覚だと言うのに。
「チッ、気に入らねェな……」
1歩引いて見せたガリウスの態度が大人な対応といった感じで腹立たしい。自分の小ささが際立ってしまうような気がして受け入れ難い。
だから余計に素直になれない。
リースはさっさと出てしまおうと廊下を早足で歩いて行こうとして、ガリウスが呼び止めた。
「リース」
関係ない。
無視して帰ってしまおう。
「あー……まあ、学校も楽しいぞ?」
呼び止めたは良いがなんと続ければ良いのかが思い浮かばず、ガリウスは適当な言葉を掛ける。
一瞬だけ止まった足を、舌打ちと一緒に再び動かした。
「まったくなぁ……」
ここまで来てしまったら意地の部分もあるだろう。中途半端では格好のつかないという感覚なのか。
「つっても、どうせ帰れないと思うけどな」
まずリースの行動は簡単に推測できる。昼休みを設けたなら確実に彼は逃げ出し、学院から出ようとすると。
当然、この通りになった訳だ。
サイモンら教職員は予想できないわけがないのだ。リースは反抗的な行動をするが、だからこそ行動は分かりやすい。
「流石にサイモン先生だぞ……」
もう少し先の窓から校門近くの様子は見える筈だ。
ガリウスは廊下を駆け足で進み、窓から校門近くの様子を観察する。
「やーっぱ捕まってんじゃねーか」
待ち伏せをしていたサイモンの魔法によりリースは見事に捕らえられてしまっていた。朝と変わらぬチェインによってだ。
「ま、今日は放課後まで帰れないだろうなー、アイツ」
クスリとガリウスは笑いながら教室に早足で戻る。そろそろ昼休みも終わりだ。急がなければ次の授業に間に合わない。
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