第25話 家族の心配
「ただいまー……悪りぃ親父。色々あって木剣買えなかった」
帰って扉を開けるなりガリウスが告げる。
「おかえり。色々言いたいことはあるが……まあ、わかった」
ドミニクも何かがあったことを既にわかっていたのか、ガリウスに詰問することはなかった。
「…………」
「どうした?」
「や、てっきり怒るかと」
一体何をしに商店街に出かけたのだとかと言われる物だと思いながらビクビクしながら帰ってきたと言うのに。
「商店街の方で色々あったらしいな」
ドミニクも流石に騎士隊の剣術指南役だからか話が届いているようだ。
「お前が帰ってくる前に騎士の1人が伝えにきた」
「随分とはえーな、おい」
恐らくは事情を説明して直ぐにドミニクの元に伝えにきたのだろう。ガスターという名前に覚えがあったというのは簡単に理解できる。
「……騎士も色々いるんだな」
ヘルゲのような悪人も存在してしまうような組織。
「戦時中だからっつーのもあるが、内部の監査が甘くなってるのかもな」
騎士は戦争に行くことが当然のようで、内部に残った騎士が増長するなどで問題を起こすことも少なくない。
「幻滅したか?」
ドミニクは椅子の背もたれに寄りかかり、玄関近くに立ったままのガリウスに顔だけを向ける。
「色々いるんだなって」
ガリウスはドミニクと対面するように椅子に座る。
「ただそれだけ」
別に対して騎士に対して期待などしていない。犯罪を起こす人間も一定数いる。前世の警察組織も似たように。
組織に問わず、似たような輩はいるのだ。
「……俺は色々気にしてんだぞ」
「何が?」
ドミニクも気にするようなことがあったらしい。
「わかるか? 2回とも連続で騎士隊の不祥事で、しかも2回とも息子が巻き込まれてる」
「あー……」
よく考えるまでもなく異常な事態だ。
同業が息子を襲うなど恐ろしいにもほどがある。
「俺の方が騎士隊に幻滅しかけてんだよ……」
ドミニクから考えても騎士隊に対する信頼が揺らぎかねない事件が起きている。何より1人の親としては当然の思いだ。騎士隊の一員ではあるが、親の情は別だ。
「でも、親父だって騎士隊だろ」
ドミニクがヘルゲの様に性根が腐った人間ではないことをガリウスだって分かっているつもりだ。彼は真っ当な騎士なのだと、ガリウスは分かっている。正直訓練は厳しいため好きにはなれないが、ドミニクの善性を判断する上では関係のないことだ。
「……うるせー、バーカ」
ドミニクはガリウスの言葉が少しばかり気恥ずかしく感じて、失笑しながら目を伏せた。
「へいへい」
ガリウスは適当な返事をしてゆっくりと息を吐く。
「あれ、ガリウス? 帰ったの?」
2人の話し声が聞こえてユリアが扉を開けて食卓のある部屋に入ってきた。
「あ、ただいま、母さん」
「おかえり。……良かったわ。パパすっごい心配しててね」
ずっと食卓で待ってるくらいだし。
呆れた様にユリアが言えば「言わなくて良いことを」と思い、ドミニクが渋い顔をする。
「それで、お腹は空いてる?」
「あー……うん」
結局、ガリウスは何も食べずに金貨を使わずに帰ってきてしまったのだ。
「直ぐ用意するわね」と言ってユリアはキッチンの方へと歩いていく。
「ユリア、俺の分も頼む。ガリウス待ってたら腹が空いた」
帰ってくるまで無事だとは分かっていても不安があったが、ようやくドミニクも緊張が解けた。
「はいはい」
仕方ない。
どこか楽しそうなユリアの声がキッチンの方から響いた。
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