第23話 どうにもならない状況

「……すんませーん」

 

 騎士隊詰所にガリウスとジョージが入り込む。

 

「はい。名前をどうぞ」

 

 中年の男性騎士が詰所に突然やってきたガリウスの対応にあたる。

 

「ガリウス・ガスターです。ちょっと事件に巻き込まれて」

「事件ね、事件。具体的には?」

 

 騎士の男はまだ事情がわからないからかガリウスの言葉を話半分に聞いている。

 

「それが子供に金を盗られて……」

「あー、はいはい。よくある事だよ。運が悪かったって事で」

 

 彼としても面倒なのだろう。

 この町の治安は良いとはいえない。だから物を盗まれたなどと言う話は別段珍しくもない。

 

「取り返したんすけど」

「良かったじゃないか。それで事件解決だ」

 

 ほら、帰った帰った。

 露骨には態度に出さないが言外に告げている様に思えてガリウスも面白くない。

 

「……問題はその後で」

 

 本題に入る。

 

「何か、薄汚れた男に突然襲われたんですよ」

「…………なるほど。で、特徴は?」

 

 突然に騎士隊の彼は真摯な対応を始める。何だと言うのか、この豹変の仕方は。

 

「黒髪で多分年齢は……あー、と30くらい。灰色の外套、身長は180以上。髭も伸ばしっぱなしって感じで……痩せ気味だったような」

 

 ガリウスの説明に騎士は黙り込む。

 

「ありがとう。騎士隊で調査をしてみよう」

「あの……子供のリーダーみたいな感じだったんですけど」

 

 ジョージが話に入ってくる。

 

「リーダー……」

「はい。子供の集団に色々と指示を出してるようで……」

 

 いまいち騎士の彼が理解できていないと考えてかジョージは詳しく説明する。

 

「……すまないが襲われた場所に連れて行ってもらえないか?」

 

 彼の提案にジョージはガリウスに「どうしよう?」と困った様に視線を向けてくる。

 

「あー……まあ、良いですけど。連れてくだけで良いんですよね? ジョージ、大丈夫だよな?」

「え、ああ、うん」

 

 とことん今日を楽しむはずだったと言うのに。仕方がないか。

 「少し待っていてくれ」と言って騎士の男が準備を始める。

 

「さて、行こうか」

 

 準備を終えた彼を迎えて、先ほどの場所に向かう。

 

「君たちはこの辺りに住んでいるのかな?」

「あー……いや、今日はちょっと」

 

 ガリウスは質問に答える。

 

「そうか。出かけて襲われるとは……災難だったね」

 

 騎士は失笑する。

 

「まー、そっすね……」

 

 否定しない。

 ガリウスは道を辿る。細い路地に入っていく。騎士も2人の背中を追って入っていく。

 

「そうそう、君たちには申し訳ないんだけどね」

 

 ガリウスは振り返る。

 

「その薄汚い男ってのは私の知り合いなんだ」

 

 目に飛び込んできたのはジョージが勢いよく蹴り飛ばされる光景だ。

 

「ジョージ!」

 

 突然のことにガリウスは驚きながらも、ジョージのもとへと駆け寄る。

 受け身は無事に取れた様で大したダメージともなっていない。だが、この男のした行為は到底許容できるものではない。 


「……どう言うつもりだ、騎士様」


 ガリウスは睨みつけながら尋ねた。

 

「おい、ガブリエル!」

 

 騎士の男が名前を呼ぶ。

 狭い場所に追い込まれたガリウスとジョージの前に見知った、いや先ほど出会った覚えのある顔が現れた。

 

「ツいてねぇなぁ……お前らよぉ」

 

 ゲラゲラとガブリエルが嗤う。

 武器は持っていない様に見える。

 

「おい、ヘルゲェ……剣寄越せ」

「ふんっ」

 

 腰に帯びていた剣を騎士ヘルゲはガブリエルに投げ渡す。

 

「はっはっは……騎士がどいつもコイツも善人かと思ったかよぉ」

 

 ガブリエルからは寒気がするほどの殺意が迸っている。

 

「ガブリエル……しっかりとやれよ」

 

 ヘルゲはガブリエルに告げる。

 ガブリエルが目撃されたのは問題だが、目撃者であるガリウスとジョージは消せる。この後も彼らが犯罪によって手に入れた金を少しだけ貰える。

 騎士の給金とガブリエルからの金。

 

「金の亡者だなぁ……ヘルゲくんはよぉ」

 

 ケタケタとガブリエルは皮肉のように。

 

「ヘルゲ……つったか?」

 

 最早ガリウスにはヘルゲに対する敬意など欠片も存在しない。

 

「アンタ……とんでもねぇクズだな」

「……まあ、なんだ。お前らは本当に可哀想だと思うよ」


 運がない。

 こうしてガブリエルという犯罪者と通じている騎士がいる所に来てしまうなど。


「とは言えだ」

 

 今回に関してはガリウスもジョージも武器がない。対して相手は。

 

「大人も必死なんだよ」

 

 剣を持った男が1人と騎士が1人。

 鞘に収まっていた剣が抜かれた。

 身体を芯から冷やすほどの恐怖がガリウスの身体を貫く。

 ガリウスの身体は動きはするが、緊張によってガチガチに固まってしまっている。

 

「は、ははは…………」

 

 脳が麻痺する。

 笑いが漏れる。

 ガリウスの前に剣を引き抜いたガブリエルが立っている。

 

「クソ……が」

 

 勝てるものではない。

 学生2人、武器もなく。

 ガリウスの魔法はやはり使い物にならない。

 

「らぁっ!」


 ブゥンッ!


 ガブリエルが剣を振るう。

 見えないことはない。


「……っ!」


 大袈裟に避ける。

 ギリギリの回避に努めるほどガリウスの余裕がない。


「やぁっぱ、お前。目が良いなぁ」


 ガブリエルの目がガリウスをじっとりと見つめる。


「んじゃ……こっちからやっかなぁ」


 グルン。


 ガブリエルの身体がジョージに向く。


「あ……ああ、あ」


 ジョージの怯えた様な声が響く。

 こんな事態に巻き込まれて、命の危険に怯えるなど当然だ。


「止めろ!」


 ガリウスの声など無視してガブリエルはゆっくりとジョージに近づいていく。確実に殺せる方から。


「──あーあ、聞いちゃったな。ぜーんぶ」


 騎士の背後から男の声がする。

 薄暗い場所に青い髪の男が現れた。


「ああ?」


 もう1人、ガブリエルが消さねばならない存在が増えた。



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