第20話 約束

「あ、リース!」

 

 帰る途中にガリウスはリースを見かけて声を掛ける。

 

「あの後すぐ帰りやがって」

 

 別に気にしたつもりもないが。

 

「騎士に捕まんのも、あの場に残ってんのも面倒だろうが」

 

 リースの言わんとしていることはわかる。とは言えガリウスも昨日は騎士に軽く事情を話した程度。その時には既にリースはいなくなっていた。

 

「あー、分かんねーことはねーな」


 警察に事情聴取されるのと似たような物か。逃げようとはならないが面倒と感じるのは納得できる。


「……まあ、お前に会えたのは好都合だ。聞きてェことがあんだよ」

 

 仏頂面でリースは呟く。

 彼にとってガリウスと会ったことで都合のいいことなど何があるだろう。

 

「お前、あの透明クズが使ってたオーバーリミットってのを知ってるみてェだな」

 

 ジロリとリースの目が向く。

 

「テメェ、何知ってる」

 

 リースの指先が向けられる。

 

「……リース、野蛮な事は止めようぜ?」


 魔法でも使う気なのか。


「あぁ? 野蛮だと……俺はテメェに指先向けてるだけだ」

 

 武器など見当たらない。

 リースが指先を向けたからと言ってどうなのか。たったこれだけで周囲は何も判断はできない。脅迫が適応されるのか。

 魔法も放っていないと言うのに。

 ガリウスが勝手に脅迫されたと認識しているだけだと、リースは言い張るつもりだ。

 

「あー、もう……」

 

 説明しようにもマリエルの事情が関わってくるかもしれない。簡単に話して良いものか。彼女の許可を得られなければガリウスも話せない。

 

「リース」

「……んだよ」

「そうだな、うん。そう……お前が学校に来たら教えてやる」

 

 マリエルに直接会わせてしまえばいい。許可云々が全部なくなる。何より色々と問題が解決する。

 

「──断る、今教えろ。面倒臭え」

 

 即答だった。

 

「譲歩しろよ! こっちだって悩んだ末の交換条件だっつぅの!」

 

 ガリウスも流石にリースの自分勝手さに腹が立ち叫んでしまう。

 

「知らねェよ、んなモン」


 リースは目を伏せながら言う。


「分かれっての。あー、クソ……俺だってこれなんて言って良いか知らねーんだよなぁ」

 

 別段、オーバーリミットの説明をするのは難しい訳ではない。ただ、問題は自然とマリエルの話に繋がる可能性がある事だ。マリエルが自らの過去に対してどんな思いを持っているかが分からない。

 どのような思いで向き合っているのかをガリウスは勝手に解釈して他者に話すなどできない。分かりもしない彼女の感情を理解した気になって、彼女の過去を無闇に広める訳にはいかない。

 

「……お前が学校に来てりゃ話しは早えーんだよ」

 

 別にリースにいじめられる不安などありはしない筈だ。彼であれば実力で文句を捻じ伏せることもできる。

 彼の性格を考慮しても泣き虫だとか弱虫だとかになるはずもない。

 

「チッ…………クソが。仕方ねェのか」

 

 リースは舌打ち混じり、小さく溜息を吐く。

 

「おい、ガリウス。学校に行きゃあ良いんだな」

 

 リースはガリウスを睨みつける。

 

「え、お、おう。来るのか?」

「テメェが来いつったんだろうが、殺すぞ」

 

 指先で力強くリースはガリウスの胸元をグッと押して突き飛ばす。


「痛って! 何すんだ!」


 プイとリースはガリウスから視線を外した。


「…………」

 

 そして、何も言わずにリースはガリウスに背中を向けて行ってしまう。


「はあ……」


 ガリウスの口から吐息が漏れた。

 

「ったく……リース、学校でなー!!」

 

 ガリウスの声が聞こえているのかどうか。リースは何も返さない。

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