第11話 カレン・ハンネスの友情

 翌朝。

 節々の痛みに気怠そうな顔をして登校路をガリウスは歩いていた。

 

「ふぁあああ…………ってぇ」

 

 欠伸の一つでも腹筋にダメージが入るあたり筋肉を酷使しすぎている事がよく分かる。サボってしまおうかと思うほどにガリウスの身体は疲弊しきっていた。

 

「大丈夫か、我が友?」

「……全然大丈夫じゃない、死ぬかもしんない」

 

 学校に着いて授業が始まった瞬間にパタリと意識が途絶えても不思議はない。ドミニクは今日も当たり前に仕事があると言うのに平気な顔をして早朝に家を出た。

 改めてドミニクが怪物だと感じる。

 

「魔法使いの手じゃねぇよ……」

 

 ガリウスの手はたこが潰れてボロボロとなっており、包帯がグルグルに巻かれている。

 

「朝から満身創痍ね」

 

 聞こえた声にガリウスが視線を上げるとカレンが立っていた。

 

「あー……うん。カレンさんか」

 

 ガリウスに声をかけるなど奇特な存在はジョージとカレンくらいのものだろう。あとはグレムリンか。

 

「おはよう」

「おはようございます」

 

 カレンの挨拶にガリウスは自然に返す。

 

「ジョージ、おはよう」

「おはよう!」

 

 これ以上の会話が生まれない。

 ジョージもカレンが登校に加わった事によりガリウスを声をかけるのを躊躇しているのか話出そうとしない。

 カレンもジョージとガリウスの中でどのような会話を日常でしているのかもよく分かっていない。

 

「……あー、カレンさん」

「何?」

 

 カレンはすました顔をしている。まるで疑問に思うことなど1つもありはしないかのように。

 

「何か一緒に登校してる感じなんだけど……いつまで一緒に歩いてんの?」

「え……?」

 

 何故だかカレンは純粋にポカンと口を開けて不思議ですと言った表情になった。

 

「ほら、学校まで道同じだし……!」

 

 ワタワタと忙しなく手を動かしながらカレンが理由をらしく説明する。

 

「歩く速さは別に一緒じゃなくても良くないか?」

 

 ガリウスはなんとなくで口にしてみたが考えてみれば意地悪な事だと理解できた。しかし、口に出してしまった手前飲み込むことはできない。

 

「うっ……」

 

 ガリウスの言ったことは間違ったことではない。冷たいような気もするがガリウスの考えも1つの考え。

 カレンには否定できない。

 

「あっ、カレンさん……その、ごめんな。悪気はなかったんだ」

 

 カレンの交友関係に関してを考慮していなかった。彼女もガリウスと同じであまり友達がいないのだ。

 

「な、何が!?」

 

 突然の謝罪にカレンの声が裏返った。

 ガリウスに何かを見透かされたような気がする。

 カレンが教室で話しかけるのが苦手なことだとか。ジョージくらいしか話ができていないことだとか。

 友達が全然できていないことだとか。

 

「これから仲良くしような」

 

 苦労することもあるだろうけど。

 ガリウスは心の中で付け加えた。

 

「……ええ、関わる機会も増えると思うし」

 

 ガリウスとカレンは固い友情の握手を結ぶ。2人の間に生じた雰囲気にジョージは置いていかれたような気がした。

 

「わ、我も! 我も、ガリウスの友だぞ!」

 

 置いていかれるのは寂しいと思って、ジョージはガリウスを上目遣いで見つめる。

 

「ジョージはガリウスが好きね」

「当然だ! 友を嫌いな者などいる訳がなかろう!」

 

 ザクリ。


 「ゔっ……」と呻めきがガリウスの口から漏れそうになる。心臓の辺りが痛い。邪気のない言葉だからこそ殺傷能力が高い。

 もう少しだけ上手く宗と付き合っていたのなら、何かが変わっていたのか。

 

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