第10話 勇者部隊とは
「がっ……はぁっ、ひゅっ、はあ」
口は酸素を求めてパクパクと開くが、喉の奥がひくついて上手く空気を取り込めない。
「はあ……はあっ、し、死ぬっ……!」
帰宅後に始まった剣術の訓練を終えてガリウスは仰向けに身体を投げ出した。
「ハッハッハッハ! 大袈裟だな、ガリウス!」
「…………」
言い返す気力も湧かない。
初めのうちは全く追い付かない剣の動きも少しだけ見えるようになったが、反応など出来るわけもない。
「人間はその程度じゃ死なん!」
「人間、舐めんなぁ……!」
4時間も休みなしでぶっ通しで動き続ければ気を失ってもおかしくない。
「つ、つれぇ……」
身体を起こすことは不可能。
「そんなんじゃ騎士隊の足元にも及ばないぞ」
「及ばなくて良いんだよ!」
叫び声を上げながらガリウスは上体だけ起こした。
「はっ、はぁ……そ、そういや……なあ、親父」
「おう?」
「ふぅー……勇者部隊って、見たことあるか?」
ガリウスは今朝のサイモンとの面談で聞いたことを思い出してドミニクに尋ねた。
「勇者部隊か」
「…………」
「興味あるのか?」
「ねぇよ。ただ見たことあんのかなーって話だよ」
入りたいだとか思うわけもない。
「そりゃー……まあ、見たことあるな。噂もヤベェぞ? 1年もあればメンバーが全員変わるだとか」
ドミニクも流石に国軍に属しているから勇者部隊の存在は知っていたようだ。
「どんな奴が勇者部隊に入るんだ?」
サイモンから聞いたのは才能を欲しがられるという事だけだ。才能があるからと言って部隊を編成できるほどの人数が簡単に集まるのだろうか。
「どんな奴? あー……俺もあんま詳しくは知らんがな?」
前置きをしてからドミニクは続けた。
「ほら、国の為って奴だろ? 国への忠義が厚い奴だとか」
後は。
「家関連だな」
ガリウスの頭の中には疑問だけだ。
なぜ、家が関係あるのか。
「まあ、あれだ。今、俺たちの国はイディス魔王国と戦争してる状態だ。イディスは魔王ってのが統治してるんだが……勇者部隊はその魔王を討伐、殺すための部隊だ」
敵国に入り込み、首魁を討つ。
考えるまでもなくリスクが大きい。
「で、優秀な子供が産まれた家の親は思うわけだ。『魔王討伐に貢献できたら、より良い待遇を得られるのでは』ってな」
「うっわ……」
最悪も良いところだ。
「勇者の一族として後世まで伝えられるだろうしな。まあ、そんな思惑とかもあったりするわけだ」
何とも嫌な話だ。
嫌悪感が拭えない。
「ほら、ここいらだとファーバー家はなんかそう言う話もあるってのは聞くな」
「ファーバーって……ファーバー?」
「ああ。ここいらじゃデカい家のな」
あれのことか。
と、ガリウスもドミニクが言っている家が思い浮かんだ。町の中の大きな白い壁の洋風建築。
「あそこの長男坊は優秀だって話で」
「……グレムリン・ファーバー」
ガリウスはファーバーの兄の名前を呟く。
「お、知ってんのか?」
ドミニクの反応からするとグレムリンがファーバー家の長男で間違いないようだ。
ガリウスの胸がざわつく。
グレムリンに勇者部隊の話が出ているなど知らなかった。リースはこの話を知っているのか。
「まあ、家の事情っつうのはそれぞれのモンだ。俺が口出すとかはないけどな。ただ……まあ、あんま良いもんだとは思えねぇな」
「…………」
ガリウスも勇者部隊参加者のあまりの恐ろしさに何も言えなくなってしまう。
肝が冷えるような話だ。
「──ヘックシ……!」
「あー、汗かいたからな」
汗も乾いてきたからか体も冷える。
「さっさと流しちまえ」
ドミニクは先に家の中に入ってしまった。
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