第7話 退屈な授業

 魔法基礎学の授業は化学基礎の授業を思い浮かべてもらいたい。基本的に座学で授業は進み、時折に実践演習が行われると言った形式だ。

 1、2年次はこの魔法基礎学を習い、全ての魔法に必要な知識を高め、3年でより具体的なコース選択となる。

 前提はこんな物だ。

 一般的な感性の少年が、魔法という魔法の言葉で奇跡的に好奇心を刺激される……事はなく、刺激も何もあった物ではない退屈な授業の幕開けだ。

 ガリウスは大きな欠伸を噛み殺すこともできなかった。

 

「ふわぁああ…………」

 

 黒板を白い文字が埋めていく。

 板書を取る。

 教師の話を聞く。習う物が変わっただけ。ガリウスもテストがあるからと筆を取っているがチラホラとうつらうつらと舟を漕ぐ生徒がいるのを確認できる。

 前日のあれはオリエンテーションだった。生徒にこの授業は楽しい物だと思わせるための。

 

「…………」

 

 クラス担任であり、このクラスの魔法基礎学担当のアルバも例年を考えてこうなる事は分かっていた。とは言え、一々注意していたのでは授業の進みに支障が出る。

 

「では、マリーさん。これは何の魔法詠唱でしょう」

 

 黒板に書かれた文字は長くはない。

 前日のウォーターボールの詠唱文と比べ短くなっている。

 

「ウォーターボールでしょうか?」

「そうです。これはウォーターボールの詠唱を短縮した物です。これをこのままテストに出すかはわかりませんが詠唱短縮に関する問題は必ずと言って良いほどに出題されます」

 

 要学習です。

 黒板に向き直りウォーターボールの文字を書き込んだ。

 

「形式的には……『祈る、水の精霊よ。我に弾を与え給え「ウォーターボール」』となります。具体的に祈りは一度のみ、加護に関する願いを省略し最後の詠唱に入ります。これは多くの魔法で応用されます」

 

 重要なのは短縮した際に文法的に成り立つかの修正なのだろうとガリウスは考える。とは言え、この詠唱省略を十全に使えるのかと問われればガリウスには難しい。

 

「詠唱省略を行うと魔法の威力は弱くなります。当然、発動までの時間は早くなりますが」

 

 問題はこれなのだ。

 ガリウスが詠唱省略した場合、ゴルフボール程度のウォーターボールしか発生しない可能性が大きい。圧縮したわけでもなくこれなのだから頼る理由がなくなる。

 魔法を使う上では重要なスキルではあるがガリウスにとって然程重要とは言えないスキル。

 

「…………」

 

 なんとも言えないが授業で出た以上は覚えなければならない事だ。

 

「何度か授業を進めたら、詠唱省略の効果を確かめる為に実践も検討しています」

 

 アルバが授業に関する情報を伝えると「では今日はここまでです」と締め括った。

 

「……ああ、そう言えば。授業とは関係ありませんが来月に武術科との交流会があります。お互いの授業の進展を確かめる物、と言うことになっています」

 

 一ヶ月そこらで身につく物など特には無いのだが、らしい理由付けというものだ。

 

「とは言え別に試合などはしません。単純な立食パーティーですね。問題は起こさない様に」

 

 アルバは今度こそ伝えるべきことを伝え終え「では失礼します」と教室を出ていった。


「交流会、ね……」

 

 ガリウスには何となく結末が見えている。

 恐らくはジョージがいつも通りに話しかけてきて、流れでカレンと合流。

 

「俺って、既に交流してるんだよなぁ……」

 

 魔法科に友達がいないが武術科に友達ができてしまったというのは珍しいことだ。叶うのであれば魔法科に友達ができることを、とガリウスは胸の内で願った。

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