第2話 魔法基礎学
「魔法基礎学では魔法の理論の基礎を学びます」
聖慶悟が転生して13年。
彼の知る世界は3年前まで酷く退屈な物であった。
自分の足で歩き回れるようになった時、彼は自らが住む町を冒険したのだ。
確かに慶悟の知る世界とは違っていた。高校生の頃、教科書で見たことのあるような西洋の街並み。
だが、それ以上はない。
町並みを見慣れてしまえば、退屈でしかなくなる。好奇心も失せてしまうほど、慶悟はこの世界の日常に浸りきっていた。
「まず初めに……魔法は剣とは違い学問です」
剣は知識も必要だが技術に左右される。
魔法は技術も求められるがなによりも知識を用いなければならない。
「剣の知識に関するテストはないですが、魔法は学問である以上テストが存在します」
高校生風に喩えるなら、剣に関する知識は体育の授業の一環であり、魔法は国語や数学の様な主要科目にあたる。
「テストに関しては……今は説明を省きますが時期が近づいたら説明しますね。それで」
慶悟が教壇に立つ胸の大きな女性教師の説明を頬杖を突きながら聞いていると突然に名前を呼ばれた、
「ガリウス・ガスター」
「はい?」
「魔法は全てで6属性あります。全て答えられますか?」
ガリウスと言う名は今世の慶悟の名前だ。
指名されたガリウスは考える素振りを見せてからスラスラと答える。
「土、水、風、火、光、闇ですね」
この辺りは魔法があると言うことを知りガリウスも最初に調べたことだ。知識としては当然に覚えている。
「これくらいは常識ですし、退屈なのは分かりますが場合によっては授業態度から点数を引きますよ」
「すみません」
魔法には興味があるが学問となると話も変わってくる。ガリウスは前世で学校の授業はどうも好きにはなれなかった。
先生との相性もあったのかもしれない。
ただ、どうしてもガリウス、──聖慶悟という人間は誰かに何かを強制されるのは嫌だと思ってしまうのだ。
「では、話を続けます。……とは言っても今日は魔法のざっくりとした知識と低級の水魔法を使ってみる程度ですが」
彼女は失笑する。
「ええと、まずは魔法のランクについてです。魔法は第1位階から第8位階まであります。位階が上がっていくごとに魔法は複雑に、そして効果が強い物になります」
これも知っている人は既に知っている知識だ。
「そして、今回皆さんに発動してもらう水魔法ですが低級魔法に該当する第2位階魔法のウォーターボールです」
説明を終えた先生は「では」と教卓の上に両手をつく。
「校庭にいきましょうか」
*
エーレ総合学院は町中では大きな建造だ。
目立つ巨大な白い洋風建造。
「今年の新入生からは勇者部隊入隊者は何人出るかね」
老人はエーレ総合学院の校庭に出た生徒を学長室の窓から見て、長く伸ばした白い髭を撫でる。
「どうかな、サイモン・シエン。君は入試の担当者だったろう?」
学長室には1人の老人と、サイモンと呼ばれた30代後半の男性。
サイモンは黒色の髪をキッチリと整え、後ろで結び、格好も折り目正しい印象を与える洋装。
「勇者部隊……ですか。あんな物、只の突撃兵ではないですか」
小馬鹿にするようにサイモンが笑う。
勇者部隊は精鋭戦力であるという特徴から所属人数も少ない。結果として、戦争での行動は極めて少人数となり危険性も跳ね上がる。だが、学院としては間違いない実績として考えられる。
大手企業への就職者の排出率と同様のものと考えても良い。
「魔法科、武術科……双方の有望な人材を君の目ならば見抜けるだろう?」
学長、ブレロー・クラウンは不安を感じさせるような笑みを浮かべてサイモンに向き直る。学長の机から数メートル。
ゴクリとサイモンは唾を飲む。
「元魔法騎士隊副隊長サイモン・シエン」
サイモンはブレローが苦手だ。
何かを企む人間というもの、自己利益だけを追求する者は苦手なのだ。
他者を道具として見て、自らの評価を前提に動くのだから。
分かりやすい行動理念だ。
だが、だからこそ邪悪であるとも思う。
「……武術科はカレン・ハンネス、魔法科ではリース・ファーバーの実力が抜きん出ています」
どちらも入試の成績は首席。
教師からの期待も厚い。
当然、サイモンも彼らの実力を高く評価している。
「入学して直ぐではこんなものか……」
「…………」
「ふむ。まだこれからと言ったところか」
願わくば有能な生徒を育て、学園の評判を上げたいところだ。
「そう言えば、だ。サイモン」
「はい」
「勇者部隊に配属になったグレイくんはどうなったかな。最近は連絡も付かなくてな」
ブレローの言葉にサイモンは感情が込み上げてくる。
「彼はマメな性格であったな。よく学園に手紙をくれていた。だが、先月から手紙が届かなくなった。気になっていたのだ。知っているかね?」
グレイという少年が勇者部隊に配属されて1年と少し。
長く保った方だ。
「彼は……死亡致しました」
そうか。
ブレローは特に感情も見せずに納得したように振る舞う。
「…………っ」
サイモンは目を見開いてブレローを睨む。
信じられなかった。ブレローという男が、ここまで感情が出ないということが。
「ふむ……。ああ、サイモン。君はもう退室しても構わない」
「失礼します」
文句を言えるはずもなく、気難しそうな顔のままサイモンは学長室の扉を開いた。
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