友人の恋愛に巻き込まれて死んでしまった男、異世界でのリベンジを誓う
ヘイ
第1話 注意はしたが、まさかの事態へ
「それ、何人目?」
「四人目」
「……いつか背中刺されるぞ」
「別に俺はどうでもいいし、彼女もそれで納得してるはずなんだけど」
「うざっ。てか、俺の前でやんのやめてくんね? シンプルに殺意湧く」
カフェテラスで辟易とした表情の金髪の青年が、スマートフォンに目を下ろす黒髪の青年に告げる。
「彼女作ればいいだろ、お前も」
「できたら苦労しねぇわ」
金髪の青年、
毒気のないような顔をしている癖に彼女は10人もいるような節操なし。これは恋人、交際関係に限定された話であり肉体関係であるのならこれ以上。
初めて会った時、慶悟も宗がこんな人間だとは思わなかったのだ。
「……昨日の『メガ恋』見たか?」
「あー、まあ」
「…………」
慶悟は分かりきっていた答えを聞いてテーブルの上のアイスカフェラテをストローで啜る。
メガ恋。
『俺と女神の恋愛事情』と言うラブコメディアニメーション作品であり慶悟が毎週楽しみにしているアニメだ。
「お前さ……本当に最悪だわ」
先程の宗の反応からして見ていないであろうことは慶悟には分かるのだ。
「なんでだよ」
「見てないなら見てないって言えよ」
「じゃ、見てない」
これだ。
これが気に入らない。宗は否定しないのだ。相手の反応に任せるのだ。だから、彼は彼女たちの好意を受け入れる。ただ、それだけ。拒絶もしない。当然、惚れた女は彼を否定しようなどとは思わず好意的に解釈する。
気味が悪い。
新手の宗教団体かと思ってしまう。
「俺もう帰るわ」
「あー、おう」
1000円札をテーブルに置いて慶悟は店を後にする。結局、引き留めようともしない辺りに宗の人間性は確認できる。
相手を否定しない事が美徳だとされるのは世界的には当然だ。だが、否定しないにも形はあるのだと慶悟は思う。
「気分悪りぃ……」
腹立たしいことだ。
自らの主張を持たないことは。意見を出さないことは。流されているだけだ。他人様の言う通りにして。
これを否定しない人間の一つの例とするのなら、きっと良くない例の方だろう。
「聖慶悟……」
「最悪の気分だ」
慶悟は宗の交際関係は大凡でしか把握していない。何度か本人に注意をしているが、かと言って全てを理解しているわけではない。宇宙の面積を現在進行形で把握できないように、気がつけば宗の交際関係は拡大している。
そのうちの一人が嫉妬深く、独占欲の強い女だとしてもおかしな事はない。一人とは限らないのかもしれない。
「宗は私との時間を作ってくれないのに」
彼女が手に持っているのはナイフ。
茶髪のロングヘアー、胸も大きく美人と呼べる程の女性。彼女が慶悟に嫉妬するほど宗に好意を覚えているのは理解できた。
羨ましい、と言う気持ちは凶器を向けられた慶悟には既にない。
「慶悟なら今は1人だ」
必死に助かる術を探す。
銃刀法違反だ、警察を呼んでくれた人はいる筈だ。なんと思われようと構わない。時間をどれ程稼げれば良いのか。
「そこのカフェにいるよ」
「本当なら……私がデートするはず、だったのに」
「デートなんて今からでも……」
「デート、なんて?」
地雷だった。
「デートは一ヶ月に2回だけ。2回だけなの! それを! それをお前が台無しにしたんだ!」
ヒステリックを目の当たりにした。
対処の仕方など知らない。
逃げればよかった。
「──あ」
逃げられたなら、こんな事にはならなかった。興奮した彼女を諭そうだとか、考えてはならなかった。
慶悟は一般人で、特別に刃物への対処の仕方を習った訳ではない。
胸の少しした辺りに突き立つ一本のナイフ。溢れ出る温かな鉄臭い液。刃を伝ってポタリと地面を濡らす。
慶悟も友人の交際関係で、嫉妬に狂った女に腹を刺されるなど考えてもいなかった。
「い、づっあ…………!」
無理矢理に女性を押し退けた。
経験したことなどない痛み。
鋭く鈍く、熱く。
ガクガクと膝が震える。カクンと力が抜けて倒れてしまう。
「あ、あ、あ…………ぐぅうううっ…………」
慶悟の目から涙が溢れる。
周囲は痴話喧嘩だとかと納得するだろう。男にも責任があるだとか。シャッター音がなる。写真が撮られる。
「け、いさ……つは」
サイレンの音は未だに聞こえない。
意識は朦朧とする。
人集りばかりが目に入る。
雑音だけが耳に残る。
視界はボヤけてグラリと落ちた。
「残念ながら、と申しておきますか。不幸ですね。ええ、同情してしまうほどに」
ハンカチで目の当たりを拭う女性が1人。彼女が着ている物はとても薄い白い布。
「……また、か」
「何がまたなんですか?」
「宗関連だろ、どうせ」
目の前の時代錯誤な格好には違和感を覚えなくもないが、どうせ宗が関わっているに違いない。何せ彼は否定しないのだから、どのような趣味であっても受け入れてしまうだろう。
「頼むから1人にしてくれ」
「1人、ですか? と言うか記憶ないんですか?」
「…………なにが」
「あなた、死にましたよ?」
「……あー、クソ。何だよそれ」
納得がいかない。
できるはずがない。
「クソが。クソだ。クソ過ぎる……。何だよ、俺の人生クソ過ぎるだろ」
どこかで間違えた。
人生でやり直しが効くなら慶悟はきっと宗と関わらない世界を選ぶだろう。
宗と関わってしまった事が彼の最大のミスなのだ。
「なんで……何で俺なんだよ! 俺だって……やりたい事あったんだよ! 好きなもんだってあるんだよ!」
未練はタラタラ。
「ちゃんと大学出て……親父と酒飲んで。母ちゃんに……ありがとうって。姉貴だってゲームで泣かしてやるって思ってたのに……」
項垂れる彼の口から出たのは本音だ。
誰にも言わなかった弱々しい本音。将来の事などあやふやだった彼のやりたいこと。本当にやりたかった事。
「何で……なんであいつに人生壊されてんだよ!」
本音があるからこそ恨みも募ってしまうのだ。
「……それが不満ですか?」
「不満で済んだらな」
ヤケになっている。
不満などという言葉で収まるなどあってはならないと慶悟は思う。これはもっとどす黒いものだ。怨念の類だ。
「吐き出しただけで満足できる訳ないだろ」
「でしょうね」
彼女は分かっている。
「とは言え、あなたは死んでしまった。それでは彼に仕返しなど出来はしません。家族に会うこともできません」
「……俺が死んだっていうなら、アンタはなんなんだ」
ようやく疑問が浮かぶほどに慶悟にも周りが見えて来た。
此処は見覚えがないのは当然。
周囲は宇宙の様な濃紺が広がる。星々の煌めきの様な光が散りばめられた遠近感が狂ってしまう世界。
目の前の女性だけが此処にある。
「私は女神アルフ。今回のあなたの転生を担当します」
「……転生、ね」
知識として持っている。
慶悟は大学デビューで髪を金髪にしたが、根っこの部分はアニメ好き。
異世界物に関しても理解はある。
「チートか? ハードモードか? それとも普通に生きろと?」
「どうしたいですか?」
「どうしたい……って」
選択肢があるのだろうか。
「まあ、普通に……特にないですよ──」
「恋愛」
「──ね?」
「恋愛したい」
アルフも驚きだった。
「あ、あんな事があったのに?」
「……あれは恋愛じゃないから!」
「そうですね。えーと、恋愛がしたいと言われても……」
「いや、別に何かを求めてる訳じゃなくて……単純に、転生お願いしますって事です」
何かしらの才能だとか、そう言うのを貰って恋愛をしては自らの本質は伝わらない。ならば真っ当に生きて認められて恋愛をして。
「良いのですか?」
「転生は確定事項だろ? ……仕方ないし、俺もリベンジするんだよ。できれば姉貴より先に結婚してざまぁみろって笑ってやりたかったけど」
仕方ないさ。
慶悟は湧き上がる感情を噛み殺して、笑顔で塗りつぶす。
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