水葬輪廻

佐藤菜のは

水葬輪廻

産まれたばかりの赤ん坊の口に鱗を含ませ

そして水に沈めるのだと祖母は告げた


そんなことをしたら死んでしまうよと

少年は言った


大丈夫、鱗が守ってくれる

赤ん坊はみなそうやって一度水に還すしきたりなのだ


少年の手を握り祖母は言う

鱗の加護を信じなさい


先日産まれた弟を抱いた父が泉の縁へ近づく

眠っている弟は身じろぎもしない


母は病みつき、還元の場に来ることもできないという

少年は弟が誕生した日から一度も母の姿を見ていない


もし弟が戻ってこなかったら

水面に影が飲み込まれたままになってしまったら


だってここは

昨年亡くなった祖父を沈めた場所だ


亡骸の口には石を詰める

浮き上がってこないようにするため


祖父はいまも泉の底に沈んでいるのだろうか

それともすでに朽ちて魚の餌食と成り果てたか


死者を葬る泉に弟は差し出される

その口には一枚の鱗がある


鱗の加護を信じなさい

赤ん坊は祝福と共に再び産まれてくる


祖母は繰り返す

少年は目を閉じた


還って来なかった子どもは水の中

鱗を吐き出し石を喰う


やがて小さな骨は魚に飲み込まれ

鱗となり赤子の口を満たす











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水葬輪廻 佐藤菜のは @nanoha_

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