第4話

 「あれは何だったんですかね?」私は首を傾げました。「結局、何も起きなかったじゃないですか。やっぱり、単なる僕の妄想だったのかなぁ。そうだとしたら、馬鹿みたいだな。せっかく大阪まで来たって言うのに……」

すると、それまで黙っていた真吾さんが口を開きました。「いや、あの女の言葉が本当だとしたら、彼女は確かに幽霊について知っているはずだ。それに、彼女が俺の目の前に現れたのだって偶然とは思えない」

真吾さんの表情は真剣そのものでした。

「そういえば、さっきもそんなこと言ってましたよね。どうしてですか?」

「それは――」と言いかけたところで、急に大きな音がして、私たちの声はかき消されてしまいました。

何事だろうと思って窓の外を見ると、空に向かって巨大な火柱が噴き上がっていました。それは天高く昇りながら、赤々と燃えさかっていました。

私たちは顔を見合わせました。「今のって、まさか……」

「ああ、間違いない。霊導師が霊を呼び出すときの儀式だよ」と真吾さんが言いました。「きっと何かあったに違いない」「霊能者って本当にいたんですか?」

「ああ。少なくとも彼女は本物の霊能者のようだ」

「でも、一体、何をするんですか?」

「おそらく除霊じゃないかな。あの煙は、悪霊を追い払うために焚いているものだから」

「除霊って、霊能者がやるんじゃないんですか?」

「霊能力者は、あくまでも霊に呼びかけるだけで、直接手を下すことはしないんだよ」

「へえ、知らなかったな」

「でも、もし霊が取り憑いていたとしても、あんな儀式をすれば、たいていは逃げて行くと思うんだけど……、どう思う?」

真吾さんは、不安そうに眉根を寄せました。「ひょっとすると、別の問題があるのかもしれない」

「別の問題?」

「うん。霊が逃げるのと同時に、何か他のものも一緒に連れ去ってしまう可能性が考えられる」

「それって、どういうことですか?」

「つまり、呪いのようなものをかけられた人間がいるんじゃないかってことだ」

「なるほど」と私は呟きました。「それなら、さっきの女の人が何かを知っているかもしれませんね」

「よし、行ってみよう」

と真吾さんは立ちあがりました。

私たちは急いで部屋に戻ると、さっそく先ほどの女性を捜しに行きました。しかし、いくら探しても見つかりませんでした。

「おかしいな」と真吾さんは首を捻りました。「この辺には隠れられるような場所はないはずなのに」

そのとき、突然、背後で物音がしました……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る