第3話

 しばらくして戻って来ると、「では、こちらにどうぞ」と言って、私に椅子に腰掛けるように指示しました。

「目を閉じてください」

言われた通りにすると、女性は何かブツブツと唱えはじめました。まるで催眠術にかけられたような気分になり、頭がぼうっとしてきて、全身が熱くなってきました。

どれぐらい時間が経ったでしょうか。「もう大丈夫ですよ」と声をかけられたので目を開けると、女性はニッコリ笑っていました。「ありがとうございます」私は礼を言いました。

「いえいえ」と女性は再び笑顔を見せました。「これでもう安心ですね」

「そうですか?」

「はい」

「でも、まだ不安が残るので、もう少しここにいてもいいですか?」

「ええ、もちろん結構です」

「あと、他にも相談したいことがあるんですけど……」

「どんなお話でしょう?」

「実は最近、妙な夢ばかり見るんです」

「どんな内容の夢なんでしょうか」

「それが、はっきり覚えていないんですよ」

「それなら、どんなことでも思いつくことを言ってみてください」

「じゃあ、一つだけ……。僕は森の中にいるんです。辺りは真っ暗なんです。でも、なぜか僕の前に一本の道があるのが見えるんですよ。そして、その道を歩いていくと、一軒の家に着くっていうストーリーなんです」

「家には誰がいるんでしょうか?」

「分かりません。誰もいないのかもしれないし、誰かいるのかもしれません」

「他にはどんなことがありましたか」

「いや、それだけです」

「そうですか」と女性は考え込むように顎に手を当てました。「これはちょっと厄介かもしれませんね」

「そうなんですか?」

「はい。普通、そういう夢というのは、心の奥底にある願望とか、抑圧された感情とかを表していることが多いんです。だから、そういったことを思い切って口に出してしまえば、すぐに消えてしまうと思いますよ」

「なあんだ」私はホッと胸を撫で下ろしました。「てっきり、また病気にでもなったのかと思いました」

「でも、そういうふうに思い詰めると、かえって症状が悪化するかもしれませんから気をつけてください」

「分かりました」

「よろしかったら、コーヒーでも飲んで行かれませんか? サービスさせていただきますから」

「いいんですか?」

「ええ」

女性は私を連れて部屋を出て行きました。

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