7
冷たい風が体を撫でる。
星がまばらに浮かぶ夜空が、広がっている。
暗い、寒い、夜。
私は未だに、深い紫色の煙に覆われていて、何とか薄目から景色を見ている。
そこには、子供がいた。
独りで、道端に座り込んでいる子供が。
思いついたように子供は顔を上げる、目が赤くなって、頬には涙が、何万回も通った後が残っている。
何故、何万回も通ったと思ったのだろう。
子供が見上げているのは、窓だった。
オレンジ色の明かりが灯った窓。
こぼれてくる、人の笑い声。
うっとりと、しかし心を殺して、窓を眺める子供。
私は思った。
これが、この子供の人生なのだと。
思い出した。
これが、この子供が。
目を瞑ったまま、意識が起きる。
背中から伝わるひんやりとした感触、体を撫でる風も清々しい。
耳を澄ませば、水が凪いでいる。
もう、ここがどこか分かっている。
すくっと立ち上がると、目の前に誰かがいる。
いや、嘘だ。
誰かなどでない。
忘れたフリをしていた。
あの人だ。
だが、駄目だ。
頭を下げて手の平を見れば、それはどろりとした黒い溶岩に覆われている。
胸の内からこぼれ出て来る、深い紫色の煙。
足に纏わりつく、灰色の砂。
ようやく、覚めたような気がする。
ああ、風が、心地良く冷たい。
踵を返して、独り歩き出す。
私の視界の、遥か遠くに、赤い星が、か細く光った。
「行ける所まで、行ってみよう」
夢色八景 あべくん @amespi77
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