そういえば。

 後ろを振り向くな。


 この電車。

 振り向くな。


 後ろはどうなって。

 見るな。

 見たくない。

 考えたくない。

 思い出したくない。


 体が引っ張られるような感覚。

 前へ、上へ、下へ、右へ、左へ。

 後ろにだけ、決して行かない。

 それでも頭をゆっくり横に向けてみる。


 体が燃える。

 酷く熱く、苦しい。

 それでも体ごと動かして、後ろを振り向いた。

 瞬間、私の体が白い電車から投げ出された。


 何も無い。

 深い紫色の空間に。

 何も無いのに、ハッキリしている事がある。

 私は、ここが嫌いだ。


 息が苦しい。

 よく見るとこの空間は、煙だ。

 深い紫色の煙が、充満している。

 何で、何も無いと思ったのだろう。


 ここには、まだ何かがあるはずだと思えば思うほど。

 口から入って来る煙が、私を蝕んでいく。

 頭が割れるように痛い。

 全身の関節が思うように動かない。

 目も充分に開けられず、かろうじて薄目。


 何かがあるはずだ。

 薄目から見える景色が。

 見ようとすれば、薄目でも、見えるはずだ。

 「最後までやりなよ」

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