ふと気が付くと、そこは白い電車の中だった。

 がたん、ごとん。

 酷く、頭が痛い。

 私は何を、していたのだろう。

 とにかく立ち上がった。


 この電車のように、前に進もう。

 後ろには何もないのだから。

 濁りの無い白一色、何だか距離感がつかめない。


 後ろには何もないのだから。

 覚束ない足取り、震える手でドアを開く。


 後ろには何もないのだから。

 次に私は、灰色の砂漠に立っていた。

 次に、どろりとした黒い溶岩が街を燃やしていた。

 人も、私自身も。


 なのに何故だろう、私は燃えている気がしないのだ。

 見て見れば確かに燃えているし、熱さも感じている。

 でも、一番大事な事が分かっていない。

 故に、燃えていないと思える。


 試しに誰かに、黒い溶岩を浴びせる。

 身を悶えさせて苦しみ、動かなくなった。

 やはり、熱いのだ。

 やはり、燃えているのだ。


 そんなはずはない。

 だって、これは。

 「普通だから」


 気が付くと、白い電車の中に立っていた。

 小さな隙間から流れ込んでくる風は、冷たかっただろうか。

 体を覆う、どろりとした黒い溶岩は、私を燃やしているのだろうか。

 灰色の砂は、行く足を蝕んでいるのか。

 あの景色が、思い出せない。


 前を見ても、濁りの無い白一色。

 なんにでも色を変えられるだろう。

 なんにでも染まるだろう。

 白のままでも良いだろう。

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