私は歩いた。

 何もない、灰色の砂漠を。

 心身を押しつぶそうとしている曇天を、意に介さないよう心掛けて。


 辛くなると私は、目を瞑った。

 ぼんやりと、徐々にはっきり。

 あの人の笑顔が見えて来る。

 深く深呼吸をすると、肺に冷たい空気が入り、頭を冴えさせてくれる。

 ゆっくり息を吹きながら、どうにかして、目を開く。


 中々開こうとしない目を。

 このまま瞑っていれば、あの人が見える。

 開いてしまえば、灰色の砂漠が見える。

 意を決して目を開く。

 灰色の砂漠は、いつもと変わらず広がっている。

 これが当たり前なのだ。

 足に纏わりつく砂の一つ一つは小さいのだが、歩くにつれてそれは、徐々に量を増して足を重くさせる。

 私が重くさせているのだろうか、砂のせいなのだろうか。


 「最後までやりなよ」

 どこからともなく、声が聞こえた。

 間違いない、あの人の声だ。

 聞き間違えるはずもない。


 曇天を斬り裂くように、赤い星が灯った。

 代わり映えの無い灰色の砂漠の中で、赤い星はとても眩しかった。

 あの光に向かって歩けば、何かが変わるかもしれない。

 そう思えば思うほど、赤い星は輝きを増す。

 長い間歩いても、思ったように距離が縮まらないので、あれに何の意味があるのだろうとぼんやり考える。


 考えれば考える程、赤い星はか細くなっていく。

 最初は舌打ちを打って、後ろを振り返ったり、違う方にふらっと歩いたりした。

 でも、やっぱり。赤い星をちらっと見て見る。


 そういう時に限って、ひどく眩しい。

 なんだかおかしくなって、星に向かって、酷い言葉を浴びせてみる。

 一言一句が飛ぶにつれて、か細くなる星。

 逆の言葉を浴びせると、力強く光る、赤い星。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る