第24話 夏の終わり最初のキス

どうして俺は…

どうして私は…

     こんなにも緊張してるんだろう…

 

初めてじゃ無いデート…何回もしたはずなのに緊張が止まらない鼓動もずっと速いままだ


 沈黙したまま歩き続け祭り会場へと着いた俺達は辺りを見渡した。

「結衣…何か食べたいものとかあるか?」

「りんご飴とチョコバナナが食べてみたいな」

「定番だな。まぁ美味いから毎回祭りとかあると食べたくなるよな。」

「そうなの?」

「…?」

「食べたことないのか?」

「うん…」

「食べたことない無いんて珍しいな。

 美味いぞ?」

「あ…ほら話してたらあったぞ。買うか?」

「うん!」

  


「美味しい…」

「そんなに急がなくてもりんご飴は逃げねぇよ」

 俺は、急いで頬張っている彼女の姿を見ながらクスッと笑いながら見ていた。

にしても祭りか…久しぶりだな。小学生以来だな二人で来るなんて。

 瞬間昔の記憶がフラッシュバックした。


 

「ゆーくん見て‼︎チョコバナナあるよ」

「うん買おうよ!おじさんチョコバナナ2つちょうだい!」

「あいよ!にぃちゃんあの子のこと好きなのか?」

「…!」

「あはは、顔に出やすいなにぃちゃん。それじゃあ好きですって言ってるようなもんだぞほらチョコバナナ」

僕は咄嗟にお金を出そうとした。

「あーにぃちゃんいらねぇよサービスだサービス。まぁ痛手だかなハハ。まぁ俺みたいなオッサンよりも、にぃちゃん見たいな若いもんが楽しめればそれで俺は十分なんだよ。

だから他の屋台よりも安くしてるんだわ。

 男ならあの子守ってやれよ?おじさんと約束だぞ?」

「うん!約束するよ!」

 彼女が待っているところに、走っていきながら精一杯声を出し感謝を伝えた。

「おじさんありがとう!」


「ゆ…くん…ゆーくん」

「あぁ悪い…食べてる所見てると昔を思い出してな。」

「何の思い出?」

「ん?屋台のおっちゃんとの約束だよ。」

 「そうなんだ…!ゆーくん!チョコバナナあるよ買いに行こう!」

「あ…走ると…」

 その後ろ姿は、昔の彼女そっくりだった。

気になることがあると突っ走る。

「ここだけは昔のまんまだな。」

俺も走り彼女の後を追った。

「遅いよ〜」

「あーわりぃ…奢るからそれで許してくれ。」

「本当?」

「俺が買って行くから向こうのところで少し座ってたらどうだ?」

「じゃあお言葉に甘えて…」


「浴衣姿の結衣本ッ当に可愛すぎるだろ…」

俺は顔を手で覆いながら照れている自分を隠した。


「はいよ〜」

「ありがとうございます。」

チョコバナナを買い結衣が座っている所に急いだ。

「結衣買ってきたぞ〜」

「ありがとう」

結衣は手に持ったチョコバナナをじっと見つめていた

「結衣?どうしたんだ?」

「あ、いや何でもないんだけど。初めてみるから」

「そうか。まぁ早く食べないと今日暑いしチョコ溶けるぞ?」

「ハッ!そうだね。じゃあいただきます。」

「ん〜美味しい!」

彼女の目はキラキラ輝いて笑顔で食べている姿はとても愛しくてまるで天使様のようで、そこにいた通行人と俺を含めみんな結衣のことを見ていた。

「ゆーくんは食べないの?」

「!あぁ食べるよ。」

夏祭りの味だ。

甘い食べ物のはずなのに、どこか酸っぱく感じる不思議な味。俺はそんな不思議な味を

一口また一口といつもより早く食べていた。


 結衣も食べ終わったタイミングで俺は手を差し伸べた。

「?」

「ほら棒…危ないだろ?捨ててくるよ」

「あ、ありがとう。」

 

俺は心臓の鼓動を落ち着かせる為に逃げるように歩きゴミ箱へと捨てた。

「じゃあまた歩こうか。」

「うん!」

そして今度は彼女の手を握る為に手を差し伸べた。


「人増えてきたな」

「うん。花火の時間も近いしね」

俺は、腕時計を見て確認する。

   19時30分

「ヤバ…」

花火開始時間は20時

残り30分

「なぁ結衣…」

「なに?」

「少し行きたい場所があるからそこに今から向かっても良いか?

「いいよ。でもどこに行くの?」

「それは、着いてからの秘密と言うことで」

俺は少しだけ結衣の手を少し強引に引っ張り二人で行きたい場所へと向かった。


「はぁ…はぁ……ゆーくん疲れないの?」 「まぁこの道は何度も来てるから…って着いたぞ」

「え…?本当にここなの?私の間違いじゃなければ、鳥居と階段があるんだけど…」

「あぁ、鳥居と階段があるな。」

「まさか登るの?」

「そうだけど…」

「えぇぇぇ!!!ゆーくん無理だよぉ足腰限界だよ私。」

 俺は、結衣に背を向けてかがんだ。

「どうしたの急に?」

「背中に乗って。」

「え…?」

「ほら、早くしないと花火始まるぞ?」

「じゃ、じゃあ…」

彼女は俺の背中に乗りおんぶのような形で階段を登っていく。

「あ…ゆーくん本当に大丈夫?体細いのに」

「まぁ確かに体は細いけど、一応それなりの筋肉はついてるしそれに重くないから安心して。」

 一段…また一段…確実にゆっくりと自分のペースで安全に登っていく。

今何時だろうか…もしかしたら登ってる最中に花火が始まってしまうかもしれない。

辺り周辺木々で覆い尽くされて街の景色は、まだ見えない…

「はぁ…はぁ…」

 体が熱くなっていく…額から地面へと汗がポタポタと数的垂れる。

「もう少しで着くよ結衣。」

「うん。」

何段登ったのかわからないけど月の反射の光で頂上に近づいているのがわかる。

 木々がなくなり街の景色が見え始め頂上にあと一歩というその時…

         パァン

花火が一つ上がった。

 

「はぁ…やっと着いた…」

「ゆーくんあそこにベンチがあるよ。座ろう。」

「そうだね…」

俺は結衣を背中に抱えたままベンチまで歩きそっと下ろした。

 花火は続々と上がって音を出しながら空高く舞い爆発して綺麗な模様を作っていた。

「花火綺麗だな…」

「うん…凄く綺麗…」

 座ってる結衣の左手を俺は右手で優しく握った。

「夏…終わっちゃうね…」

「あぁ…早かった。」

「プール楽しかったね」

「あぁ…あいつらに会ったのは意外だったけど」

「でも…とっても楽しかった。」

 俺は彼女の顔を見た。

その顔は笑っているはずなのにどこか寂しそうで泣きそうな顔をしていた…

「…結衣…」

一際天高く登る花火があった。

   きっと今年最後の花火だろう…


       パァン


音が鳴ると同時に俺は彼女の唇にキスをした



夏の終わり…

君と最初のキスをこの時初めてした…

その感触はきっと忘れないだろう…










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