第10話 言葉には責任を持って

俺はこれでもか、というぐらい息を吸った。そして…

「俺は天乃さんの事を手放したりなんてしない。これだけは約束する。」

「え?」

普段なら絶対に言わないであろう、言葉が

腹の底から貯めた空気を吐き、言葉を発する為に吐いた空気が、声帯の薄い膜を振動させて、そこで初めて【声】になった。

  

パチパチパチ

最初は弱かったが、段々強くなり、そしてどこか羨ましそうな拍手が起きていた。

「カッコいいぞ〜」

「わたしもあんな事言われてみた〜い〜」

完全に忘れてた、1組の教室内だった……という事に。

「もう逃げられなくなったね。」

の耳元で優しく、どこか嬉しそうなそんな声で彼女は、俺にそっと呟いた。

 瞬間、俺の体の体温が上昇しているのがわかった。……やっぱり俺は天乃さんのことが…

「ねぇ?」

「どうした?」

「一つ約束して欲しい事があるの…。」

 約束?俺は少し不安を覚えたが、その不安は的中するのだった……。

「わかった。話してくれ」

「ゆーくんっていつも私のこと『天乃さん』って言うよね。それやめて欲しいな、どうせなら下の名前で呼んで欲しい。」

 なんとなく予想はしていた。しかし、俺は、一度も恋愛というものをした事がない高校生だ。今時恋愛の一つもしてない、などとバレたらそれこそ笑い者だ。

俺にとって初めてだったのだ…彼女が出来たという事が。更に下の名前で異性を呼ぶなんて事も当然初めてだ。

しかし、お願いされてしまったのだ。流石に拒否は出来ない。(ここで拒否なんてしたら、それこそ男子から何されるかわかったもんじゃない。)

「わかった。下の名前で呼べば良いんだよな。」

「うん!」

間が少し空いてから俺は、大きく息を吸い彼女の名を呼ぶ。

「よ、よろしく。あま、結衣。」

少しぎこちない、感じになってしまった。その内慣れるだろう……きっと多分。てかそうであって欲しい‼︎

「う、うん‼︎よろしくね、ゆーくん。」

彼女は満面の笑みを見せる、その笑顔はとても可愛らしく、いつまでも隣にいられたらなと思ってしまった。

「それでなんだが、明日二人で出かけないか?」

俺はようやく本題を出す。ここまで到達するのに凄い時間がかかった気がする…。

彼女の答えは即答だった。

「うん、二人で一緒に行こうよ‼︎」

俺は少し安心した。ここで拒否されたらと、一度考えてしまったからだ。

「ありがとう。放課後の時に話そう。じゃあ俺は教室に戻るよ。」

「わかった。じゃあまた放課後ね。」

 バタン

教室の扉を少しだけ強く閉めた。

「はぁ、はぁ。」

心臓の鼓動が落ち着かない…今にも張り裂けてしまいそうだ…。こんなにドキドキしたのは、初めてかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る