第7話 人気者は楽じゃない

「おい……」

聞き馴染んだ声が聞こえた。

「邪魔すんなよ…これから…」

「もう喋んなよお前…」

瞬間、シュと空気を切る音が聞こえてきた…

「もう大丈夫だ…安心しろ」

私は、その言葉に安心したのかそれとも…

バタン

「お、おい!大…夫…か…ーー」

声が遠くなっていく……



   「ね…え…天…乃…っち?…」

声が微かに聞こえてきた…

「あ、あれ…ここは保健室?」

「そうよ…良かった〜本当に。」

「凛ちゃん、ごめんね心配させて。」

「あぁ起きたのか…」

「ゆーくん。その…」

なんともいえない空気が漂っていた。

「喉乾いただろ、買ってきてやるよ…」

「う、うんありがとう」


ガタン

今度は優しく閉まる音だった。

「天乃っち前にもこんな事あったね」

「えっ?あったけ?ごめん覚えてない」

「そっか…」

「中学の時の天乃っち、今みたいに優しい感じじゃなかったけど何かあったの?」

「そうだったけ?覚えてないや」


 ガラガラとドアの開く音が聞こえて、会話はそこで止まってしまった。

「遅くなってごめん。天乃さん、はいサイダー。浅田さんは何が好きかわからなかったから同じ奴にしちゃった…大丈夫?」

「えぇ大丈夫よ」

「それにしても浅田さん、天乃さんと友達だったとは気づかなかったよ。」

「そうね…」

「ねぇ、ゆーくん」

「何かあるのか?」

「その…ごめんね急に倒れて、あの時凄く嬉しかった。もうダメかと思ったから。」

「あぁ、あの時は運が良かっただけだ…普通に戦ってたら多分ボコボコにされてたよ」

「アンタ、よくあんなに体格差あったのに助けたわね」

「あぁ…あの時は動かなくちゃいけないと思ったんだ。て見てたのか?

「えぇ見ていたわ、でも脚が動かなかったのよ私は…本当なら私が前に出る筈だったのに…」

「そうか…仕方ないよ。あれだけの体格差があったんだそれに俺だって偶然上手くいっただけだからな」

浅田さんは少しモジモジして落ち着きがなかった。

「浅田さんどうかしたのか…」

「その…ごめんなさい。昼休憩の時に別れなさいとか言って」

 急な謝罪だった。俺は少し困惑した、急に別れろと言われ急にごめんなさいと謝って来たのだ…困惑しない方がおかしい。

さっきよりも空気が重くなっていく。

「天乃っちが冴えない奴と付き合ったって皆んなが言うから何かあったんじゃと思ったのよ。」

さ、冴えない奴、、、、

「天乃っち、中学の時、誰かに頼ったりしないし、こんな容姿だから色んな男から告白されたり、襲われそうになったりして、助けなきゃって思ったのよ。」

「そうだったのか…」

中学生の時天乃さんとはほとんど話さなかった。だから知らないことが多かった。

「最初は嫌いだったわ」

「え!?凛ちゃんそうだったの?」

「最初はね、運動も顔も可愛くてチヤホヤされて、でもね男に迫られた時に凄く怖がっていたのよ…手が震えていたわ」

「そんな事あったっけ?」

「お前、忘れっぽいのか?」

「いや…そんなことはないと思うけど…」

 天乃さんは、疲れたのかまた寝てしまった。

「まぁ良いわ、そんな姿見たから普通の女の子なんだって思ったのよ。だから私が天乃っちの、友達になって支えてあげなきゃって。」

「そうなのか…それでなんで急に別れろなんて言ったんだ?」

「さっきも言ったけど…天乃っちって色んな男から告白されるのよ、下心満載でね。だから山田君もそうだと思っちゃたのよ。本当にごめんなさい。」

「いや…大丈夫だ、友達として天乃さんの事を思ってなんだろ、それだったら仕方ねぇよ。」

心から思っていることを言葉にした。友達として彼女を守らないといけないと思ったのだ、それだったら仕方ないと。

「本当にごめんなさい。」

 なんとか、問題は解決したようだった。にしても大変な一日だったなと思ってると、浅田さんは助言をくれた。

「私は、山田君が天乃さんの彼氏でよかったと思ってるわ、でも他の人達は山田君の事を良く思ってないわ…だから、まずは山田君の印象を変えてみたらどうかしら。」

「どうやって?」

「そうね、その長い髪を短めにしてみたらどう?それと友達を増やしたりとかね。」

「そうか…わざわざありがとう。」

 それにしても、浅田さんいつもツンツンしているのだろうか?などと考えていると…

「天乃っちの彼氏としてこれから頑張りなさい。」


 彼氏として頑張れ…どうやら簡単な問題ではなさそうだ。

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