第5話 友の勇気

 最近わしな、職場までは車で行くようになったんや。それはな、お父さんの職場がちょっと離れてしもうたんでな、わしの自転車を貸しとるんじゃ。そんで会社に車通勤の申請した。まぁそんなに離れてないからガソリン代あんまでんけどな。ほんまは近いから車通勤はできんのやけど、それでも仕事で使うこともあるし、社長も事情知ってるから特別に許可してもろた。


 そんであいつのことやけど、執行猶予つくのかわからんけども、会社の顧問弁護士さんに紹介してもらった弁護士さんに、優子さんの件は対応してもらうようにして、近づけんようにしてもろた。あいつの家族も可哀想に町でるしかなくて、引っ越して行きよった。あと会社に預かって貰ってた車も引き取ってきて、わしんとこの車庫に入っとる。


 優子さんとお父さんは、結局お兄さんのとこには行かんかった。なもんで一緒に住みよる。爺さんもな毎日が楽しい言うとるわ。賑やかになったからのぅ。


 そんでクロと友やけど、相変わらずやわ。まだ友がわしの肩から飛んで行くことがない。クロも一緒に付き合ってくれとる。優しい奴やで。あれからは庭の木に飛んでいかんようになったんや。友が拗ねてちょっとの間相手してくれんのが嫌やったんかのぅ。


 そんで優子さんの仕事やけども、前の職場の動物病院の人らが、一応解決の方向に進んでるし戻ってきたらって言ってくれたらしいもんで、元の職場に復帰することなった。そやもんで、爺さんの他は昼間は家におらん。


 今日みんな帰って来てた時に、そう言えば最近しのばあ見んのぅって爺さんに言うたら、入院しとったらしいぞって言うもんやから、えっ、見舞いしとらんやないのって言うたら、誰にも黙っとったんやと、水臭いのぅ。ほんなら何か果物でも買って持って行こかって言うて話しとったら、優子さんが、そんなら私明日仕事終わるの早いし、帰ってからお爺さんと買いに行きましょかって言うてくれたもんで、そんなら頼んますって言うといた。


 翌日は仕事で、前に設計した家の上棟式あったからわしも行ってきたんやけど、もしわしら結婚したら、家も考えんといかんのかのぅってぼんやり考えよった。そんで部長にちょっと話してみた。今住んでるとこ持ち家なんやったら、建て替えかリフォームしたらどうやって言われた。そんで、もうそこまで話進んどるんかって言われたもんやから、いやいや、まだ先の話やって言うたんやけども、まぁどっちでもええけど、上手いこといったらええのぅって言われたわ。


 家帰ってから、果物はって言うたら爺さんが優子さんと一緒に持っていったらしい。しのばあが、もう一緒に住みよるんかってびっくりしよったけど、事情話したら可哀想にのぅって涙ぐんでたらしい。そんでわしのこと見直したわやて。わしかってやる時はやるわな。って言うたら爺さんも優子さんも笑っとった。お父さんは今日はまだですかって言うたら、仕事で兄の住む方へ行くから、そちらに泊まるそうですって言うとった。


 そんで今日会社で、この家の建て替えかリフォームかって話しとったんやって言うたら、爺さんが建て替えしたらローン払い終わるのお前定年過ぎるんと違うか言われて、そうやなぁって言うとった。それで何でそんな話になったんや言われたもんで、ほんまのことは恥ずかしいて言われんから、ちょっとこの家も古なったしなぁって言うといた。それから晩御飯食べたあと、爺さんはさっさと自分の部屋行ってしもたから、優子さんと二人になってしもた。それで、今度の週末にどこ行こうって話してたら、ちょっと遠出してもよかったらこの道の駅行きたいですって携帯で見せてくれよった。あぁそこ前に爺さんと行って良かったですわ。ほんならここにクロと友も連れて行きましょかって言うたら、そうですねって微笑んでくれよった。その顔が可愛いてなぁ、わしドキッとしてしもた。


 日曜日になって朝早うから準備して、わしの車の後部座席に二羽の籠乗せて、わしの運転で優子さん助手席に乗せて行きよった。途中で二羽に餌やりながら二時間程車走らせてやっと着いた。クロと友にちょっとまっとってくれよ言うて、優子さんと二人で中見よった。


 中見んのもわしが見るんとまた違うもんで、新鮮やったわ。野菜とかも見て、ほしいもん買物籠に入れよった。そんでそこでまたお弁当買いよって、車で食べた。そんでクロと友を自然に触れさせる為に、近くの公園連れて行った。


 車から二羽の籠を下ろして、レジャーシート広げて座れそうなとこ探した。そこで友とクロを出してみた。トコトコと周り伺いながら歩いてた。たまにわしの肩とか膝とかに乗ってたけど、クロと仲よう寄り添ってた。そうしたら、どこからともなく、二羽の黒いカラスが現れて、カァカァ鳴いて威嚇してきよった。友は怖がってたけども、クロが羽根広げてその二羽に同じようにカァカァ鳴いて威嚇しよった。まるで友を隠して守るようやったんや。そうしたら、相手が攻撃しようとしてきて、クロも負けてなかった。そしたらしばらくしたらその二羽が飛んでいきよった。クロは友のとこ戻ってきて、体を寄せ合ってた。わしと優子さんは黙って見てたんや。友一羽の時は、守ってやらないかんかったけど、クロがおったし、カラス同士で威嚇しあってる時は危ないからな。それで落ち着いてきたんで、おやつをクロと友にやった。そんでわしクロに言うてやった。クロ見直したぞ、友を守ってやってくれたんやのぅ、ありがとうって。クロは知らん顔して友とまたくっつきよった。それから一時間ほどゆっくりして、そろそろ帰ろうと籠の中にクロと友入れて車に戻った。


 それから車走らせて家着いたのが夕方くらいやって、晩御飯作るのも早かったもんで、縁側で二人まったりとしてた。そうしたら、クロと友もトコトコきよった。そんで友が羽根広げる仕草したなぁと思ったら、庭の木に飛んで行きよった。そうしたら後からクロも飛んで追いかけていった。わしと優子さん思わず目を見合わせた。そんで、優子さんと見た昼間の光景思い出して、友はクロがおるから勇気だしたんかのぅって言いあってた。そんでしばらくその光景を見よった。そうしたら優子さんがわしの肩に頭もたれてきたから、肩を抱き寄せた。

 

 しばらくそうしてから日も暮れてきたから中に入ったら、クロも友も中に入ってきた。そんで二人で晩御飯作ってちゃぶ台並べた時に、爺さんとお父さんに今日のこと話したんじゃ。そうしたら爺さんが、一歩ずつやのぅ、一歩ずつクロが寄り添って歩進めるんや。お前ら二人も一緒やのぅ。一歩ずつじゃ。そう爺さんに言われるとなぁ、沁みてくるのぅ。そんな風にわし思いよった。


 次の日から家に爺さんおる時は縁側開けてクロと友の様子見るようにしたらしい。そうしたらクロが先導して庭の枝に飛ぶと、友も後を飛んで追いかけよったんやと。それ聞いて、わしには子供おらんけども何か子供が少しずつ成長していってるみたいで嬉しかった。職場でも最近のクロと友の様子話しよったら、じゃあもう少しで遠藤さんから巣立つかもしれませんねぇって言われたわ。そうなったら嬉しいことやけどなぁって思っとった。


 クロと友が庭の木にでるようになってしばらく経った日、しのばあが昼間にきたらしい。そんで見舞いのお礼にサンマ寿司と昔ながらの巻き寿司と稲荷寿司を作ってきてくれよった。そんで入院しとった時の話聞いたら、胆嚢に石あったから手術したんやと。そんで中々体が戻らんかったもんで、ちょっと時間かかってしもたって。普通はもう一週間ほど早く退院する予定やったらしい。

今はだいぶ動けるようになってきたから、お礼がてらきてくれたみたいや。そんで爺さんとしのばあが縁側でお茶のんでクロと友見とったら家の外に出たんやと、そやけどすぐに庭の木に戻ってきたらしい。そんでその話聞いて、ほんま一歩ずつやなぁって思って、心の中で頑張れよって言っとった。


 優子さんとお父さんと暮らすようになってから、優子さんがご飯を作ってくれるようになったもんで、わしはだいぶ楽になった。家も上手に片付けてくれよるんよ。そんでいつもありがとうって言うたんじゃ。そしたらこちらこそありがとうっつ言われたわ。優子さんが言うには、お父さんと二人やったら、あんなことあってからやと不安で外に出れんかったやろし、気もおかしくなってたかもしれんって。でもお爺さんと和成さんが一緒に居ってくれて、気持ち軽くしてくれとるんよって。そんでな、わしは優子さんにな、家事してくれてるけども負担になったらいかんから、一人で抱え込まんようにしてくれなって言うといた。


 職場でお昼休みに、そう言えば彼女さんとはどうなんですかって聞かれた。そんで今四人で暮らしよるって言うたら、いろいろ話聞かれて、それもう夫婦ですやんって言われてしもた。えっ、夫婦ってこんなんなんかって聞いたら、まぁそれだけじゃないけどね、でも長年連れ添った夫婦みたいですよって言われた。そんで、そう言うもんなんかのぅって思いよった。


 今日優子さんは仕事が休みらしくて、爺さんと買物行ったり、縁側でお茶飲んだりしてたら、友とクロが家の外でて行って、しばらく帰ってこんかったらしい。そんでもう帰って来んかなぁって思ったら、三十分程したら庭の木に戻ってきたんやと。そんで、もうちょっとかもしれませんよって言ってた。それでな、クロと友巣立っていったら、リフォームしようかなって思った。それでしばらく家帰ってきてから部屋に篭るようになった。


 爺さんやお父さん、優子さんは、珍しく仕事持ち帰ってるんですかねぇって言うとったみたいやけど、わしは早よ図面完成させたくて、数日考えて作りよった。


 そんである晩に、完成した間取り図を三人に見せてみた。そうしたらお父さんの家と、爺さんの家と、もう一つの家の三世帯になってたもんで、びっくりしてた。


 クロと友が巣立ったらこんな風にリフォームしようと思うけどどうやろかって言うたら、爺さんが、お前その前にやる事あるん違うか言うてきたもんで、やる事って何やって聞いたら、お父さんもやる事してからじゃないと、この間取りは進められんのじゃないやろかって言われたもんで、わしハッとなった。そう言うことやな〜と思うて苦笑いしたら、爺さんとお父さんの親父二人がニヤニヤしてた。優子さんは恥ずかしそうにしとったけどな。でもそれも考えんとあかんのぅと思ったわ。


 それでな、会社でいつも話す人らに、その人らが結婚したときの話聞いて、プロポーズとかどうしたんやって聞いたら、海辺とか、公園とか、旅行行ったときとかバラバラやった。何となくデートしてる時なんやなぁって言うのはわかったけど、どうしようか悩んどった。そんで家帰ってきて、携帯で検索しながら、友にどうしたもんかのぅって言うとったら、トコトコってきて携帯ストラップ突きよった。ぶらぶらしてたから気になったんやろのぅって思ったら、ふとわし気付いた。優子さんパンダ好きや言うとったなって。それで、また連れて行ったら喜ぶやろけど、どこでプロポーズできるんや?そんでまた携帯で色々検索しよった。


 次の日の晩に、優子さんに今度の休み遠出しようと思うんやけど、朝早く起きて。ってお伺い立てたら、行きたいですって言ってくれよったもんで、そんじゃ朝七時に家出るよって言うといた。そんでこの前行けんかった予約するのをいくつかとって準備した。


 そんでやっと週末がきて、カジュアルでオシャレと思う服を選んで着て、髭も整えて、予約の確認して、友とクロに行ってくるわなって言うたらカァって鳴きよった。


 車に乗り込んで出発したら、何処に連れて行ってくれるんですかって言われたけど、さぁ何処やろのぅって言わんかった。そんで三時間程車走らせて近くなったら、横で興奮してた。パンダですかって、満面の笑み浮かべてた。駐車場着いて、チケット予約したもの見せて中に入った。真っ先にパンダを見に行った。けどジープサファリの時間あるから、またあとで見にこようって言うて、ジープサファリの受付のとこ行って予約確認してもらって、車に乗り込んだ。今回は肉食動物のエリアもいくもんで、車のロックをしっかり確認しといた。それで中に入って行った。肉食動物のエリアは緊張したわ。見渡したらそこにライオンおるもんで、凄い迫力やったわ。それで終わってからパンダゆっくり見て、草食動物のエリア歩いて回ったりした。それでお昼ご飯食べてから、今度はキリンとかに餌をあげたりできるツアーがあって申し込んでるから行こう言うて連れてった。キリンにエサやったとき、舌長くてびっくりしたわ。そんで他にも触れあって、楽しい時間過ごした。今回は残念ながらイルカショーは見れんかったけど、海の生物も見に行った。そんでお土産を買ってから、アドベンチャーワールドを後にして、とれとれ市場でまたマグロの刺身を買うて、それから海の見えるカフェに行った。そんで、早めの晩御飯食べた後、優子さんに言うたんや。

「優子さん、わし一回り上やけど、これからも一緒におってくれんか。わしと結婚してくれんか。」そう言うた。わし、一世一代のプロポーズした。

「よろしくお願いします。」そう返事くれた。それでホッとして、家帰ってきた。

 

 そんで、帰ってからお父さんに、優子さんにプロポーズしました。優子さんと結婚させてくださいって言うたら、笑顔で娘のことお願いしますって言うてくれた。

そんでその後買ってきたマグロで、美味い酒酌み交わした。


 クロと友もそばにおって寄り添ってたもんで、こいつらのお陰やなぁってしみじみ思うてた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る