第4話 一歩前へ

 病室に入ると、田口さんに男が頭さげてるとこやった。そんでそいつ顔あげた時に見たら、カラスのこと言うてきたやつやったから、お前ってわしビックリしてもうて、言葉つまってしもた。


 そうしたら、田口さんのお父さんがあとから入ってきて、そいつの胸ぐらを掴んだもんで、慌てて止めた。そしてそいつが、何で一回りも離れてる遠藤さんなんや、俺じゃダメなんかとまたしつこく言ってきたもんで、取り敢えず病室出るぞと言って、部屋から出したんじゃ。


 病室出たところで、警察の人来られてそいつ警察署へ連れていかれよった。どうも田口さん倒れて救急車呼んだ時点で警察が介入してたらしい。そんでわしは直接はこの件関わってないから、お父さんが警察署に行くことになって後から来てくださいって言われたもんで、持ってきた荷物を田口さんに渡して、わしはお父さん付き添いますって言うて、わしの車で警察署へ向かった。


 そんであいつは結局逮捕されてた。倒れた人間ほったらかして逃げたかららしい。そんでわし会社に一報入れた。会社として対応どうするんかがあるもんでな。


 田口さんのお父さんは、ちょっと一人にしとくのは心配やったんで、わしの家に泊まってもらうことにした。田口さんにもそう連絡しといたら、安心しとった。


 そんで爺さんに事情話して、田口さんのお父さんと色々話しよって、気持ちも落ち着いたようやった。二人で酒酌み交わして、仲ようなっとった。


 クロと友は不思議そうにしとったわ。クロは見たことあるような感じの人やし、友は始めてからな。でも、空気よんでか静かにしとったわ。でも爺さんらが酒が進むといつも通りカァと鳴いて体を寄せ合ってたわ。


 翌日もわし有給とった。有給溜まってるから使えと部長に言われたしな、お言葉に甘えといた。そんで田口さんのお父さんと田口さんを迎えに行って、送り届けてきた。何かのぅ、怒涛の二日間やった。今日は家でのんびりしよう思う。


 縁側で戸を開けて爺さんとお茶飲みよったら、クロと友もきたんでな、しばらく様子みとったら庭の木にクロが飛びよった。友はしばらくカァと鳴きよったけど、爺さんの後ろに隠れよった。そしたら爺さんが友よ、クロが誘っとるのにいかんのか、一回行ってみていかんなおもったら戻ってきたらええから行ってみんかって言いよったけど、爺さんの後ろに隠れたままやったもんで、クロに友はまだいかんので、戻ってこいよって言うたんやけど、こっちも戻ってこん。そんでまたしばらく様子見るしかなかった。


 わしらもお茶しとったけど、のうなったので家に入ることにした。そんでの、友にわしの肩に乗せて縁側の外に草履で出てみた。そうしたらクロが友のところまできよったんやけど、友が知らん顔するもんでわしの反対側の肩に乗りよった。友がちょっと拗ねよったなぁ思うてな、クロにちょっとずつ外に慣れないかんのぅ。もうちょっと待ってやれよって言うてやった。そんで友にもな、まだ外出るの怖いかのぅ。まぁちょっとずつなわしや爺さんの肩に乗って慣れて行こうかのぅ。それでわし両肩にクロと友乗せたまま部屋入ったんじゃ。部屋入ったら友は爺さんのとこに行きよった。クロは爺さんの方をじっと見よったけども、下におりてわしの周りをトコトコ歩きよった。


 夕方頃、田口さんとお父さんが家に来られた。そんでのぅ、またようさん晩御飯のおかず作ってきてくれよった。そんでの、相談があるって言いよるもんで何でしょって言いよったら、家引っ越そうと思うって言いよった。あいつ今警察おるけど、起訴されるか微妙やし起訴されても執行猶予つくやろしって言っとった。家知られとるし今度は何するかわからん言うてた。そんでしばらくは兄のところに身を寄せようかとって言っとった。ただあちらの受け入れ準備ができるまでの間、どこか借家空いてるところがないかってことやった。そうしたら爺さんが、よかったら離れの方が空いてるのでどうですかって言いよった。ただ離れにあるのは部屋だけなもんで、食事や風呂とかはこっちやけどもそれでもよかったらって言いよった。それでわしが離れを案内したら、よかったらここお借りしたいって言いよった。そんでな、引っ越し準備して来週日曜日に引っ越してくることになった。そんで警察にもそれまではあいつが出てこんように事情を話してお願いしといた。

 

 次の日出勤したら、部長から今から社長室行くぞって言われた。そんで社長室入ると専務もおった。そんで社長室のソファに座って、状況を詳しく聞かせてくれって言いよった。そんでわしが事情を話して、そのせいで田口さんが引っ越しを考えざるを得ない状態にあると言うたんや。それでしばらくはわしの家に親子で避難することになってることを言うと、社長からお前らも引っ越した方がええやろって言われた。そんで、しばらく社長の別宅に引っ越せと言われたけども、今カラスが二羽おること伝えると悩んでた。だもんで、あいつわしの家知りませんよ言うたら、彼女仕事行って帰り後つけられたらしまいやぞって言われた。そんで答えがでんまま、その日仕事して帰ってきた。帰ってきたら田口さんおったんで、今日会社で言われたこと話したら、一旦仕事を辞めることになっていること。車は自宅にしばらく置いてこようかと思ってるって言うもんで、わしの会社のシャッター閉まる車庫を一つ借りれるか聞いてみることになった。



 日曜日の引っ越しの日、わし以外に部長と有志が集まってくれて、会社のトラック借りて田口さんとこの引っ越しをした。田口さん恐縮しとったけど、会社のもんが迷惑かけたから手伝わせてくれっていうことやった。そやもんで、引っ越しは早くに終わった。車は部長が預かり会社のシャッター付きの車庫に入れてもらった。そんでその日は手伝ってくれよった人に、食事出してから帰ってもらった。


 翌日警察から連絡あり、明日あいつが保釈されるそうや。取り敢えず明日はみな家から出んように言うといた。そんで翌日の夕方仕事帰りに買い物して帰るが、何か必要なものないか尋ねると、いくつか言われたので、調達してから帰った。


 夜食事が終わってゆっくりしてると、田口さんに電話が入り、前住んでいた家をうろつき、侵入しようとしていた男を逮捕したと警察から連絡がきた。たまたま警察が巡回をしてくれていた時に見つけたそうや。それで田口さんとお父さんとをわしの車に乗せて前に住んでいた家に行ったら、警察の方がおられた。逮捕されたのはやっぱりあいつやった。事情を聞かれたので既に引っ越しているので問題はないが、この前警察にお世話になっているので確認をとってくれるよう伝えた。引っ越しせずにそのままおったらと考えると怖くなった。


 田口さんは恐怖で震えてた。お父さんも動揺してた。取り敢えず家に連れて帰って、今日は離れじゃなく居間で寝ることになった。


 次の日に会社行ったらあいつ解雇になってた。建設会社の人間が人の家侵入するなんてありえんわ。今回警察に再逮捕されたもんで、一発アウトやった。


 昼休みも色々聞かれたけど、大丈夫や言うてそのことは触れんようにした。言いふらすことではないしの。そんで今日は仕事してても落ち着かんかった。昨日の今日やから仕方ないけどのぅ。


 仕事終わって帰りに爺さんに電話したら、晩御飯作れる状況でないから買ってこいと言われ、帰りにスーパーで四人分の弁当を買ってから帰った。


 帰るとクロと友が玄関まできたので、ただいま言うて中に入った。そんで先にクロと友の餌を準備してやり、わしらの食べる物をちゃぶ台に並べて四人で食事をした。


 お父さんが不意にすんません迷惑かけてって言いよったもんで、わし何言うていいかわからんで固まってしもたんやけんど、爺さんが何も迷惑かかってません、困ったときはなお互い様なんや、気にすることないって言ってくれよった。田口さんも涙ポロって流しよった。


 田口さん、皆んなついとる心配せんでええ。ここにおったらわしが守ってやる。そう言うと泣きながらうんって頷いてくれた。


 翌日田口さんのお兄さん夫婦が心配して訪ねてこられたようやった。わしは仕事してたもんで爺さんが話しよったらしい。その後に会社に訪ねて来られて、社長に挨拶してた。後からわしも呼ばれて挨拶させてもろた。


 仕事終わってから家かえると、今日は田口さんちょっと元気になっとった。それで、わし言うたんさ。最近は嫌なこと続けてあったから、週末にみんなで出かけましょかって言うてみた。そしたらみんなそうしよかって話ししよった。


 それでのぅ、どこ行くか話しよった時に、厄祓いする為にお詣り行きたいって田口さん言うてな。じゃあ、熊野速玉大社に行きましょって話した。


 週末になり、朝早くから準備をしクロと友を車の後ろの荷台に乗せて、熊野速玉大社に向かった。ここから高速に乗って約一時間くらい車を走らせたところにあるもんで行きやすい。


 駐車場ついて、先にクロと友に新鮮な空気しばらく吸わせた。その後ちょっとだけこの中で待っててくれよって言うて車で待たせて、わしら四人で境内をお詣りした。その後お守りも買って一旦戻ってきた。爺さんとお父さんに近くの横丁があったもんでそこ行っててもらって、田口さんと二人でクロと友連れて、近くの熊野川沿いを歩いた。折角連れてきてるのに、車の中におるばっかりじゃ可愛いそうやし、ちょっと気分変わってええやろ思ってな。そんで河原に入れるとこあったから、ちょっと屈んで友を出してみた。けどな、わしの股の下に隠れてしまうから、直ぐに籠に戻した。そんで友にちょっとでも出たんやから偉かったのぅ。ちょっとずつ慣れて行こうなって言うた。クロは友がそういう状態やから出さんかった。わしらもなそこで少し話しよった。


 「今日お詣りしたから、嫌な事はもう終わりや。これからは楽しいこと、嬉しいこと、起こるようになる。もう心配いらん。なぁ、田口さん。」

「はい。…あの、遠藤さん、私、名前で呼ばれたいです。」

「ん?名前?田口さんやろ?」

「そうじゃなく、優子のほうです。」わし目見開いて優子さんと呼ぶんですかと聞いてしもた。そうしたらはいって笑いよった。けどわし遠藤さんて言われとるんやけどと思ったら、私も名前で呼ばせてもらいますって言われた。それで、わし優子さんに聞いてみた。もし、もしもなんやけどね、わしと付き合うとかどうですって聞いてみた。これわし言うの勇気いることや。けどもな、返事がお付き合いしますやった。わし、えって言うてびっくりしてたら、彼女にしてくださいって言われた。この年で春がきてしもて、びっくりでのぅ。そんでわし、うんってびっくりした顔で頷いてた。


 それから爺さんらの待つ横丁に戻ったんやけど、爺さんがわし真っ赤な顔してたから、どないしたんろって言うてた。田口さん、いや優子さんがさっきのこと話してくれて、三人に笑われた。それで爺さんに、お父さんにちゃんと挨拶しとけって言われて、思わず娘さんをくださいって言うてしもた。その言葉に優子さんがらあの、プロポーズはまだしてもらってませんよって笑いながら言われた。そんでわし、あって口開けて、結婚を前提にお付き合いお願いしますって言うたら、お父さんが、わし男やから遠慮しときますって言われた。いや、あの、娘さんと結婚を前提に…。そう言うたら、お父さんがわかっとる。娘のこと頼む。そう言ってくれた。


 その後爺さんらにクロと友見てもらって、優子さんと二人横丁内を見て回った。楽しかった。何でも買ってやりたいって思うてな、駄菓子指差して、これ買うてやろか言うたら、笑ってこれはいらないですよって言われた。後から考えたら子供に言うてるみたいでな、自分でわし何しよんねやって思うてた。


 その後は久々に道の駅行った。ようさん亀おるとこやって、見てて面白かった。そんでその時に、お揃いのもん買うたんや。わし携帯に付けといた。それで美味しそうな家で食べるもんを一緒に見て、そこで昼ご飯食べてから、家に戻った。


 家入ってから、クロと友を籠から出してやったら、大きく羽根伸ばしてた。そんで二羽にお疲れさんやったの、ゆっくりせえよって言うてやった。わしらは縁側でお茶しよった。お茶うけも買ってきたしな。爺さんはちゃぶ台のとこで横になりよった。


 縁側におったら、友がトコトコと来て、わしの肩に乗ってきよった。この前も友乗せて縁側の外にでたから、また友を乗せて縁側の外に出てみた。そうしたら肩の上でじっとしてたから、少し歩いてみた。そうしたらそのままじっとしてた。そうしたらクロもトコトコ縁側やってきた。今日はじっと友を見守ってた。そんで優子さんがわしと同じようにクロを肩に乗せてやって、縁側の外をしばらく歩いてた。側から見たら何しとるんやって思うやろけどの、ここ家の中やから気にせんかった。そんでな、この日からちょっとずつ外に出し始めた。



 

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