第3話 友か恋か

 わし田口さんを家に案内するべく車に近づいたんじゃ、そうしたら田口さん、えらい大荷物できてたからびっくりした。わし荷物降ろすの手伝ってな、家に運び入れたんじゃ。


 田口さんを家に招き入れてな、お茶を出したんじゃ。もちろん昨日買った茶菓子も一緒にな。そうしたら、田口さんいっぱい手土産持ってきてくれてやった。菓子折りもそうじゃが、朝から魚飯を炊いたんですってだしてくれよった。あとな、煮物とかな、田口さんがつけた梅干しとかな。あと、友用の餌もくれよったんじゃ。わし申し訳ないなと恐縮しよった。爺さんもすんませんなぁって言いよったわ。あっ、家の中に入ってから黒いカラスは籠の中でキョロキョロしよったんやけども、友が籠に近づいて、カァカァと挨拶したらな、首傾げながら友に近づいていってたわ。黒いカラスにな、名前つけてないんですかって聞いたらな、クロって読んでますって言ってた。わしらな、しばらく二羽の様子見とったんやけど大丈夫そうなんで、田口さんがわしに出していいかたずねられてな、わしはもちろん出したってください言うての、籠から出しよったわ。しばらくカァカァ鳴いとったんじゃけどな、二人並んでこっち見よったわ。


 そんでな、田口さんこんなようけ作ってくれて、ご飯は食べてこられたんか聞いたんじゃ。そうしたら、実は食べる時間なかったんですって言うもんやから、わしらも丁度まだやったんで、皆んなで頂きましょかってわし言うたんよ。初めは遠慮しとったけどな、けどちゃぶ台にお皿とお茶碗とお箸を並べたら、一緒に食べてくれやった。久々に魚飯食べて美味かった。わしの好物なんじゃ。それで田口さんにその話したら、私も好きでたまに作りよるんですって言ってやった。煮物も美味かった。爺さんもな、美味い美味いって食べよった。爺さん梅干し食べよった時にな、婆さんの作った梅干しに味がにとるっていいよって喜んでたわ。

 そんでな、田口さんの話聞いたんじゃ。ずっとご両親と一緒に住んでたらしいんじゃけどな、三十二歳の頃に一緒に暮らしてたお母さんが脳梗塞で倒れて介護が必要になってしまって、田口さんがみることになったらしいんじゃ。お父さんは仕事しとって辞めるわけにいかんし、お兄さん夫婦も車で二時間程のところに住んでて中々帰って来れんしってことらしい。そんでその時に結婚を考えた人がおってやったけど、介護の話聞いて逃げよったんやと。悲しみに暮れてる暇もなく介護が始まったからその内その人への気持ちはなくなってしもうたんやて。それでお母さんはその二年後に心筋梗塞を起こしてしまって、病院に運ばれたけど亡くなられたらしい。そんでお母さん亡くなってから逃げた男からまた連絡きたけど、その時気持ち離れてしもうてたから断ったって言ってやった。それからもう二年経ちますって言いよったんで、田口さんに今三十六歳やったらわしのひと回り下じゃねぇって言いよったんじゃ。じゃあ同じ干支なんですねぇって笑ってた。それからわしの話もしたんじゃ。最近の会社での話もな。そうしたら大笑いしよったわ。そんでわしら賑やかにしとるもんやからな、カラス同士自分らの世界に入って顔見合わせたり、身を寄せ合ったりしとったわ。だからな、わしら知らん顔してそのまま三人で話しよった。

 

 話しよったらあっという間に三時間経ってしもうて、田口さん帰る時間になったんじゃ。何か名残おしいなってしもうてな。そうしたら田口さんも同じように思うてくれてやったみたいでな、また来てもいいですかって言ってくれたもんで、嬉しゅうてな、今度は手ぶらで気軽に来てくださいって言うたんじゃ。そうしたら、また連絡させてもらいますって言いよった。そんで、肝心なカラスはな、離れるの嫌そうやった。どうしようかって二人で言ってたもんで、爺さんが離すの可哀想やから、このまま様子みたらどうじゃって。そんで田口さんに仕事帰りにたまに様子みてもらうのはどうやろかって言いよったわ。わしびっくりして、仕事帰りって田口さんに無理言うたらいかんっていうたんじゃ。そうしたら田口さん、私も気になりよるもんで早く終わる日だけ寄らせてもらってもいいですかって言うてくれやった。そんで、その日からクロもうちで暮らすことになってしもた。


 次の日会社に行ったらよ、皆んな興味津々でわしにどうでした?って聞いてきよるんよ。そんで、カラス同士仲ようなって、離すの可愛いそうやから、今わしの家で二羽ともおるんじゃって話したら、その女の人も泊まられたんですかって言われたもんで、一人で帰られたよっていうたら残念そうな顔してた。そんなもん家が同じ市内やのに泊まる必要あれへんやろって言うたんじゃ。ただ仕事帰りにたまに来てくれるように、爺さんが頼みよったって話したら、爺さんナイスじゃって言いよったわ。わしなんじゃそりゃって返したわ。そんでな、わし仕事やから帰りに会えるかわからんけどのぅって言うといた。


 仕事の方は新規事業が進行していて、分譲地の案件やから区画毎に大枠の設計をしていかんとならんもんで、どう設計者に割り振るかを部長と話しよった。まぁ大体は型があるもんで、それに合わせたりもするんじゃけど、そうはいかん場合もあるもんで、そういったところは誰に任せるかを決めよった。


 そんで仕事終わって帰る時に、爺さんからメール入っとって、今田口さんきてくれよるぞ、はよ帰ってこいって、わしそんな早う帰られんのにのぅ。メール来てたの三十分前やったもんで、家に着く頃には入れ違いやろなぁと思うてたら、ギリギリ会えたんじゃ。そんで仕事でお疲れやのに、寄ってもらってすんませんって言うたんじゃ。そうしたら、クロのことも気になるんですけど、何か遠藤さんの顔見てから帰ろうと思ったもんで寄ったんです、昨日楽しかったもんでって言ってくれよって、わし照れてしもうた。まさかそんな風に言うてくれるとは思わなんだもんでな。わしも会えてよかったですって返した。そんでな、今度よかったらご飯行きませんかって言いよったんじゃ。そうしたら是非って言ってくれよって、その日はなそのまま帰られたわ。


 そんで、わしただいま言うて中に入ったら、友と一緒にクロも顔見せてくれたもんで、二人とも仲ようしとったかって言いよったら、爺さんが今日一日仲よう遊びよったって言ってたもんで安心した。そんで昼間に友がじいさんの膝に乗りよったら、クロもあと追ってきて、反対側の膝に乗って互いに見よったんじゃって。そんでな爺さんがクロにな、友を守ってやってくれんかのぅって言うてやったんやて、そしたらクロがな、カァって鳴きよったんじゃって嬉しそうにしとってやった。


 それからわし晩御飯作らんといかんので、冷蔵庫覗いたら、昨日作ってきてくれた煮物がまだ少し残ってたもんで、あとは刺身出して、味噌汁だけ作ってちゃぶ台に持っていった。あと爺さんが梅干しも出しといてくれって言いよったもんで、梅干しを何個か取り出して皿に入れた。爺さんがクロと友のご飯を用意してくれたもんで、わしが先にちゃぶ台のとこに座って爺さんを待ったんじゃ。そんでわしら食べ始めたら、二羽も同じように食べ始めた。


 食べてる時爺さんに、田口さんと今度ご飯行ってくるって話しよったら、そうかって含み笑いしよった。そんで何ろって言いよったら、お前も上手いこと言ったらええのうやと。ひと回りも違うのに、向こうが相手ならんやろって言うたんじゃ。そしたら、そうかのぅやて。まぁ、成るようにしかならんのじゃし、そっとしといてくれって言うといた。


 あれから二日程して田口さんから連絡が入って、明日お家にお邪魔していいですかってきよったもんで、わしは仕事ですけど、よかったらクロに会いにきたってくださいって言うといた。そんで爺さんにも明日田口さん来る言うてるから、爺さん家おってくれるよう頼んどいた。


 今日は仕事が朝からバタバタしよって、昼からも施主さんと打ち合わせがあったんで、夕方へとへとになりよった。そんで爺さんに晩御飯今日は外食でもええかってメールしよったら、爺さんがそのまま帰ってこいてメール帰ってきたんじゃ。わし外食の話しとんのにのぅって思いながら、家帰ったらな田口さんおって、ちゃぶ台に晩御飯並んどった。わしびっくりしてたら、爺さんが田口さんが作ってくれよったんじゃって。そんで田口さんにありがとうございますって礼言うたら、勝手にすんませんって言うもんで、今日は正直助かりましたんや。今日朝から仕事がバタバタしよって昼からも打ち合わせ入ってたもんで、ヘトヘトに疲れてもうてね、晩御飯作る気せんかったもんでって言うたんじゃ、それじゃあよかったですって笑いよった。そんで並んどったご飯食べよったら、美味しかったんじゃ。そんでな、今日お父さんのご飯はどうされたんですかって聞いたんじゃ、そうしたら作ってきてるので大丈夫ですよって。何か二件分のご飯作らせてしもうて、すんませんっていいよったら、料理好きなので気にしないでくださいって言ってくれよった。

 

 晩御飯も食べ終わって後片付けした後また少し話しよったら、爺さんがまた余計なこと言い出したんじゃ。今度の日曜日、二人でデートしてきたらって。そんで爺さんに、そんな田口さんの迷惑になるようなこと言うなって言いよったら、あのー遠藤さん、私行きたいところあるんですけど、一緒に行ってもらえませんかって言いよったんじゃ。そんでどこに行きたいんですか言うたらな、アドベンチャーワールドにパンダ見に行きたいですって可愛いこと言いよるんじゃ。わしそれ言われてビックリして、えっわしとデートするんですかって聞きよったら、クロと友がカァカァと田口さんのはいと言う返事に被せるように鳴きよったんで、笑ってしもうたけど、結局はパンダを見に行くことになってしもたんじゃ。そんで朝わしが田口さんを家まで迎えに行ってから、向かうことになった。そんでその日まで連絡とりあって、いろいろ決めていったんじゃ。


 日曜日の朝になってな、わし早うに目が覚めてもうたんで、さっさと身支度整えて出発時間までちゃぶ台でお茶飲みながらゆっくりしとったんじゃ。爺さんもそのうち起きてきて、ちゃぶ台にきたもんで、お茶入れてやった。そんでその時にクロと友が起きてわしのところにトコトコ歩いて来よったもんで、わしクロと友の頭撫でながら、これから田口さんとパンダ見に行きよるで、家で仲よう留守番しといてくれよって言いよった。そうしたらな、わしの目の前でお互い体寄せ合ったんじゃ。そうか友はクロに惚れたんじゃのう、友達じゃなく恋人できたんじゃのうって言うたらな、クロがわしの膝をクチバシでつついてきたんじゃ。そしたら爺さんが、クロが次はお前の番じゃいいよるぞやと。そんなわけあるかって言いながら笑ったら、クロが爺さんの膝に乗りよったもんで、ほら見てみ、クロも頑張れ言うとるんじゃ言われた。そんで家おったらまたいろいろ言われるもんで、ちょっと早いんやけども、出発したわ。


 途中コンビニに寄って、二人分のお茶買いよってから、田口さんの家向かったんじゃ。そんでな、田口さんに連絡したら玄関から出てきやったんやけども、お父さんも一緒に出て来られたんで、慌てて車から降りて挨拶しよった。


 遠藤と申します。田口さんにはお世話になっておりますって頭さげよったら、お父さんが笑顔で、こちらこそ世話になりまして、これからも娘のことお願いしますって言われてしもた。そんでな、わしらこれから一緒にアドベンチャーワールドに行きますもんで、帰り夕方過ぎるかもしれんのですんません言うといた。そうしたら田口さんに楽しんでこいって言うてやった。


 そんでわしら出発しよったんじゃ。大体こっから三時間程かかるでな。そんで買ってきたお茶を、よかったら飲んでって渡したんじゃ。それからな車の中でな、色んな話しよったで。子供の時の話とかな、学生の頃こんなん流行ったって話とかな、やっぱりひと回りも違うとよ、ジェネレーションギャップって言うんかな感じとった。そやけどな、田口さんと話すの心地よかったんじゃ。アドベンチャーワールドまでな、あっという間やったわ。


 わし二人分のチケット買うてな、中に入って早速パンダ見に行きよったんじゃ。愛くるしいて可愛いのう。田口さん写真いっぱい撮ってやった。そんで写真撮りましょか言うて撮ってた時に、係の人がよかったら二人で撮りましょかって言ってくれよったもんで、記念に撮ってもろた。田口さん可愛い撮れてたわ。そんでな、イルカショーの時間調べて、それまでは色んな動物見て回ってた。予約したら餌やり体験とかバックヤードとか行けるんやなぁ。前もって調べてなかったもんで、ぶらぶらまわっただけやった。そんでも楽しんだけどな。


 いろいろ見て回ってたらイルカショーの時間きたから見に行って、ちょっと水かかったけど凄かったわ。あんなに水中から高く飛んで、イルカも楽しそうにして見えたわ。それでイルカショー終わってからな、田口さんとお昼はとれとれ市場へちょっと時間ずらして行きましょかって言うてたもんでな、またパンダグッズ見たり、遊園地エリア行ってみたりして、アドベンチャーワールド後にしたんや。


 しばらく車走らせてとれとれ市場行ったんじゃ、いろいろ見てまわったらさんますしあってな、わし好きじゃからとろうとしたらな、田口さんにな、それ地元で食べれるから違うもんしましょ言われてしもた。わしも笑いながらそうですな言うて、海鮮を焼いたのとか、握り寿司とかたこ焼きとか色々食べよった。食べてからは職場へ土産持って行ってやろ思てよ、お菓子みよった。あと爺さんにはマグロ持って帰ってやろ思うて、いくつか柵で買っといた。ほんで買いよるときに田口さんのお父さんにもと思うて、買うてから田口さんに渡したら恐縮しとったわ。そんで、田口さんが帰りに温泉入って帰る言うてませんでしたか?生物どうしましょう言うてきたもんで、車に冷蔵機能付きのクーラーボックスのってること言うたら、準備いいですねぇと言われた。仕事で現場行くときに差し入れで飲みもの持って行く時とか便利なんでのせよるんですって言うたら、夏場とかいいですねぇ、皆さん喜ばれるでしょって言われたんじゃけど、あんまり気にされたことないなぁって笑っとった。キャンプとかにも便利ですねって言ってやったわ。そんで温泉入るもんで、着替え持って温泉むかった。ゆっくり入りましょ言うて、出てくる時間を一時間半程余裕見て伝えてそれぞれ男湯と女湯に別れて入って行った。


 温泉入るの久しぶりでな、えらい気持ちよかったわ。途中水分とりながらもゆっくり入ってたんやけども、やっぱり身支度は男のもんは早いでな、わし先に出て館内の待ち合わせ場所で座っとった。それから田口さんも出て来やったんで、帰りましょか言うて車に乗ったんじゃ。そんで帰りに熊野あたりで晩御飯食べてから、田口さんを家まで送り届けた。


 次の日会社行って、土産渡したら皆んなびっくりしとったわ。顔に似合わずパンダのお菓子やしな。またいろいろ聞かれたけども、まぁまぁええじゃろ言うて濁しといた。そんでな、前にカラスのことで言うて来たやつがな、今日食堂でわしのところにきて、相手のこと聞いてきたんじゃ。名前とか何してる人かとか。まぁそれは皆んなに話しよったことやから話したんやけど、そんで付き合ってるのかとかも聞いて来たんで、いや付き合ってはおらん言うたらそうなんですね言うてどっか行きよった。一緒に話しとった人と何やろねぇって首傾げてた。仲ようないのに、わざわざ聞きに来よったからな。まぁその後はいつも話よる人とかと、最近のクロと友の話とかしよった。


 夕方家帰って爺さんと晩御飯食べてた時に、田口さんとどうなんじゃって聞かれたんやけど、話はしやすいもんでええのぅって言うてたんじゃけど、また誘ってどっか行ってこい言われたんで、まぁこの時には機会あったらええなぁと思うてたもんで、話してみるわって言うとった。田口さんとはメールのやりとりをするようになってたんでな、まだこの時は恋仲になることは考えてなかったんで、気楽やった。


 水曜日の晩に、田口さんから明日家行ってもいいですかって言われたもんで、どうぞ来てくださいって返しとったんや。そうしたら木曜日の昼過ぎ頃、仕事場おったら、田口さんのお父さんから電話かかってきて、田口さんが病院運ばれたので、来てやってもらえませんかって言われたんで、部長に事情話して許可もらって早退してな、病院むかったんじゃ。


 病院ついて田口さんのお父さんと合流したら、田口さんが前に付き合ってた人と言い合いになって、払いのけようとした時にバランス崩してこけてしまったんやけど、その時に運悪く頭ぶつけて気を失ったらしい。お父さんもたまたま家におって、外で言い争う声が聞こえたもんでみたら、男のもんが娘に何か言うてたんやと。それでお父さんも家の外でたら、ちょうどその時こけたらしい。慌てて娘に駆け寄ったら意識ないから、慌てて救急車呼びに家入ってる間に、男のもんは逃げてしまったらしい。


 病室入ったら田口さん目が覚めてた。事情はお父さんから伺ったこと話したら、田口さん泣きよった。よっぽど怖かったんやなと思うた。念の為今日は入院言われとったもんで、一旦田口さんの荷物とりに、田口さんのお父さんと家に一緒に行って再度病院戻ってきたら、病室に男が入るの見えたから、わしは慌てて部屋に向かった。


 


 

 

 


 

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