第2話 不思議なこと

 あれから友の羽根の傷はな、十日程でようなりよったんじゃ。友もな、羽根をばたつかせてな、部屋の中を飛んで高いところに止まったりしよった。どこに行ったんやろと思ってな、友の名前呼ぶとな、カァって返事しよるから見よったら、箪笥の上に置き物と間違えるかのようにたたずんでたわ。わしびっくりしてな、そんなとこにおったんかいって言いよった。そしたらな、バタバタとわしの肩に飛んできよってな、わしの頬にすり寄ってきよったよ。可愛いじゃろ。


 わしはな仕事してるときに言われたことあるのやけどな、どうも仕事してる時の顔がな、近寄りがたいような難しい顔しとったのがな、優しい感じに変わってきよったんやと。部長に何かええことあったんかって聞かれたんやけどな、友の話したんじゃ。そんで友と接してるうちにな、顔つきもよう変わっていったんやないかって言われた。わしそんなに怖い顔やったんかいなって、始めて気付かされたんよ。友が変えてくれたんやな。


 営業との打ち合わせもな、何か知らんけどスムーズに行くようになってな、表情でこんなに対応違うもんなんじゃなって、わし思ったよ。


 そやからな、何か彼女でもできたん違うかって噂になりよったんやけどな、相変わらず仕事と家の往復で、出会うようなところには行っとらんしな、その辺はあいも変わらずやった。


 そんでな会社の食堂で友の話をしよったんや、その時に隣のテーブルに座っとった女子社員にな、ペットを飼い始めたんですかって聞かれたんじゃ。わし職場で女性社員に声かけられること今までなかったんやで、それなのに声かけられたんや。そんでな友の話したら、怖い人やと思ってたんやけど、優しい人なんですねって言われたんじゃ。偉い失礼なこと言いよるなと思っとるけどな、まぁそう見えてたんやろな。そんでな、携帯で撮った友と一緒に写った写真見せたらな、皆んなびっくりしとったわ。わし笑顔やったんや。白いカラスってだけでも珍しいのに、わしの顔みてペットの力って大きいねって話しよった。みんなはな、犬や猫を飼いよるみたいなんやけどな、そんな話も今まで聞いたことなかったんやけど、我が家の犬やら猫の話をみんなでしよったわ。何かな、そんなこと今までなかったから楽しく思えたわ。


 そんで帰ってから爺さんと友にな、食堂での話しよったら、爺さんもいいよったわ。確かにお前変わってきたわって。友のお陰じゃのぅって。そしたらな、友も得意げにカァって返事しよったもんやから、わしおかしなって笑ったら、友キョトンとしとったわ。


 それからはな、職場でもいろんな部署の人と話するようになったんやで、そうしたらな、周りの対応が変わってきよったわ。この年になってな、毎日ワクワクするようになったんやで。それでな、週末の道の駅巡りの話したんや。ここの道の駅で買ったもんが美味しかったんやって話したりな、そうしたらわし以外にも道の駅巡りしよる人おって、楽しく盛り上がったんや。


 最近はな凄い充実した気分になっとったんやで。そうしたらな、水を差すもんがでてきた。友をな、野生に返した方がええん違いますのってな。それはな、わしもわかるんやけどな、けどなわし黒いカラスが友に攻撃的になった姿見とるからな、とても返せんと言うてやった。あの時友がどんだけ怯えとったか、それも話した。それでもって言うてきたからな、一番考えてやらなあかんのは、友がどうしたいのかやからな、そこはゆっくりやったらないかんのや、わかったようなこと言わんとってくれって話終わらしたった。その日はな、最悪な気分やった。折角楽しく過ごしてたのやけどな。その状態のまま仕事終わって家帰ったんや。


 家帰ってな、晩御飯の準備しよったんやけどな、あんまり作るのが気分乗らんでな、親子丼と味噌汁にしよった。冷蔵庫におしんこもあったからええやろ思てな。それでちゃぶ台にそれを並べたんや、無言やったんやわし。そうしたらな、友も心配そうな様子やったし、爺さんにも何かあったんかって言われたわ。そんでな、今日の話したんや、友は爺さんの膝に座っとった。そんで話終わるまでじっと聞いてくれたんや。そうしたらな、爺さんはな、友が自然に帰りたい思う気持ちになるまではな、むやみやたらに自然に放したるもん違うなって、お前も嫌じゃな友よって言いよったんじゃ。そしたらな、友もカァって返事してくれよった。その声聞いたら、ちっとは安心してよ、親子丼を口にかき入れたんや、ちょっとむせてもうたけどな。友もな、わしのこと信頼してくれとるんかなぁって思いよった。そんなこんなでな、それからはまたいつも通りにしよったんよ。


 次の日会社に行きよったけどな、ちょっと憂鬱やったんや。だってそうやろ、昨日の今日で言ってきたもんの話が変わると思われへんからな、そうしたらきよったんや、そいつがうちの部署に。そんでまた言い始めた時にな、部長がな言うてくれたんや。

「お前そんな通り一遍なこと言うてもいかんで、そばで見てるもんが一番どうしたるのがええのか考えたっとるんやからな、口出しせいでもええわい。それよりも、何かようがあって来たん違うんか。要件先に言わんか。」そうしたら、拗ねたように書類渡して戻って行きよったわ。部長にはありがとうございますって言うといた。


 それからはな、お昼休みも今まで通り楽しく話できたんやで。周りの人もな、何も言わんでも気持ちわかってくれたから、そいつを近寄らせんようにしてくれたんや。有り難いなぁと思うとったんよ。


 設計部に戻ってからはな、変わらず仕事しよった。十四時から打ち合わせ合ったんやけどな、問題なくこなせよったわ。最近昼に楽しく話せるとな、仕事もイキイキと頑張れる気がしよるんよ。だからその時間なくなってしまわへんかと思ってたんやけどな、まぁなくなってしもたとしても、以前に戻るだけやけど、楽しさ覚えたのに寂しいやろ。そやからほっとしたわ。


 仕事終わって帰ってな、わしの声聞いたらな友が玄関まできよったんよ。友にな、ただいま言うて家の中入ったらな、爺さんが珍しく晩御飯用意してくれとってやったんや。味噌鍋やった。美味かったんやで。友も一丁前にちゃぶ台にエサが入った皿乗せられて食べよったわ。友も今は家族やからな、一緒にしたがるんやな。そんでまた今度道の駅巡りどうしようかって、爺さんとはなしよったんや。そうしたら爺さん会合あるから行けん言うてな、そんで友とわしで行くことなったんや。会合ってな、地域の人と集まって祭りとか、催し物とか色々話しよるんや。でも毎年同じやからな、決めること決めたらあとはただお茶して帰ってきとるわ。


 週末になって、今日は友を籠毎助手席乗せてシートベルトで固定して籠の上部もシートの頭部分に紐で繋いで動かんようにしたんや。前は見ずらいけど安全第一やからな。そんで今日は遠出しよう思って県境まで足をのばしたんや。やっと道の駅ついてな、友にも着いたからちょっと待っといてくれよって言いよって店内に入って買い物しよったんや。ここもな、いろんなもん売っとるんやで。そんで今日はここだけの予定やから、昼ご飯も買うたんじゃ。爺さんの土産も買うといた。それでな、車に戻ろうとしたらな、助手席側を覗き込みよる人がおったんじゃ。そんで戻った時にな、声かけてみたんよ。すみません、うちのこに何か?って言うたんさ。そうしたらな、この子カラスですかって言いよった。そうですカラスですって言うたらな、実はうちもカラス車に乗せてるんですって言うたからびっくりしたんや。そんで思わず見せてもらえますかって言うてしもた。てっきりな、アルビノの友を見てカラス言うたから、その人のカラスもアルビノなんかと思ったら黒いカラスやった。


 わしな、黒ですねって言うてしもた。アルビノって思ってたからな、思わず口から出てしもたんや。そうしたら、はい黒いカラスですって笑顔で言いよった。その人がなカラスを買うことになった経緯を教えてもらったんやけどな、大人の男の人に殴られとったんやって、それでも羽根ばたつかせて飛んだりして、また殴られようとしたところを止めて保護したんやと。そんで大人の男の人見たら怖がるんですって言われたんや。えっ、わし男やけど大丈夫やったかいな、えらいすまんことしたな。そんで黒いカラスに謝りよったら、カラスも最初は怖がりよったみたいやけど、落ち着いてくれたんやで。通じるもんやなぁって、わしほっとしたわ。そんでうちの友の話もしてな、それで一度会わせてみましょうかって話になったんや。ただな、人が少ないような環境で会わせてやりたいやろ、それに安全な場所でな。そやから、近くの公園に行くことなった。その人も丁度そこの道の駅でお昼買う予定やったみたいで、その人が買い物済ますのを待ってから、近くの公園へ移動したんよ。そこは見た感じカラスもおらんかったもんで、ちょっとほっとしたけどな。


 友を籠毎車から降ろして、道の駅で買った弁当を持って、その女の人とその人の黒いカラスとで歩いてな、テーブルとベンチある所あるから、そこまで行った。テーブル広かったもんでな、籠を二つ横並びで並べたんや。そうしたら、お互いキョトンとした顔してたわ。そんでわしらもしばらくそれ見ていてな、大丈夫そうですねって話してお互いお昼食べよったんよ。食べながら友の話しよったら、可哀想やけどいい人にこの子は出会ったんですねって言ってくれて嬉しなった。でも黒いカラスもいい人に出会ったん違いますかって言うてお互いにそうですねって、顔見合わせて笑いよった。そんでわし自己紹介してなかったから、遠藤って言いますって言うたんじゃ。その人もな、自己紹介してくれてやった。田口ですって言うてやったわ。

そんでな、お互いの話してらたらな、二羽のカラスもわしらの話聞きよってな、こっち向いとるんよ。何かわし恥ずかしなってしもたんや。それでな、友にこっちみんでカラス同士で話しせえよって言ってやったわ。あっそれで黒いカラスの方は雄らしい。友は雌ですよって言うたら、仲良うなったらいいですねって話しよった。

 

 しばらく話しよってな、お互い家では籠から出してるって言うたから、うち爺さんと二人暮らしやけど、よかったらカラス連れて遊びに来ませんかって言うてしもた。そんで言うてしもてからしまったって思いよった。だってな、今日あったばかりの男ばっかりの家に、女一人ではこれんやろ。だからすみません言うて謝ったんじゃ。どうしても友のこと考えてしまうんで、変な意味違います言うて弁解したら、田口さん笑いよったわ。わかりましたよ、びっくりはしましたけど大丈夫ですって言ってくれやった。わしホッとしたわ。そんでな、わし女の人とあんまり話したことなくて、気の利いたことも言えんのですんませんって言うといた。それでな、田口さん動物病院の看護師さんらしくてな、仕事は木と日休みや言うてたんで、来週の日曜日にうちに来てくれることなったんや。今日は有給休暇らしいわ。たまにとらんといかんのやって言いよったわ。カラス同士も互いに落ち着いてたから、攻撃することなさそうやねって言うてたんや。顔合わせも終わったことやし、帰りましょかって話になった。

 

 帰る方向が全く同じやってな、地元まで一緒やったわ。それでわしの住所教えた時、場所はだいたいわかりますって言うとったんやなって、その時わかったんや。途中でわしは道それたんやけど、田口さんは真っ直ぐいきよったわ。


 車で帰りよる時にな、あの黒いカラスと友達になれたらええなぁって友に言うたら、素知らぬ顔しとったわ。カラスはカラス同士通じるもんあるやろって、友に言いよったんやけどな、鳴きもせんのやで。来週来てくれんのに大丈夫かいなって、この時は思うたんじゃ。


 家着いてな、爺さんに今日の話してな、来週来てくれるんやでって話しよったら、爺さんが友に、お前来週お見合いするんかって言いよったんじゃ、そうしたら友がなカァって鳴きよるんよ。わしびっくりしたわ。友、お前友達じゃなくて恋したんかって言うたら、箪笥の上に飛びのりよった。そんで爺さんに、友も女なんじゃから、デリカシーのないこと言うたるなって怒られたんじゃ。わし口あんぐり開いてしもた。

 

 週が明けて月曜日にな、会社で週末にあった出来事話したんじゃ、そうしたらな、皆んな何を勘違いしたのかわしに恋が実るといいですねって言いよるんや、いやいや違う友の恋の話じゃって言うてもな、はいはいって皆んな話流しよる。そんなこんなおっさん誰が相手してくれるんやって、わし笑ったったわ。そしたら皆んな肩叩いて含み笑いしよるんよ。わし苦笑いじゃ。部署戻っても部長に友に先越されたかって笑われた。そんで、お前も恋実るとええのうって、わし恋も何もないんじゃけどなぁ。困ったもんじゃ。


 次の日からな、会社内でいつも話しよる男性社員がな、女性の口説き方講座を食堂でわしにしよったんじゃ。わしそんな気ないのに困ってしもて、でも折角話よるから無碍にするわけにはいかんから、そうかって大人しく聞いといた。そしたらな、そいつおらんなってから今度は女性社員がな、口説こうと身構えやんと、遠藤さんらしくおった方がええと思いますよって言うてくれやったわ。そうやな、わしもそう思うもんな。というか口説く気なんてさらさらないしな。友に友達作ってやりたいと思ってお誘いしただけやからな。皆んな何を勘違いしとるんやろのぉ。


 週末来るまではな、飽きるほどに女性の扱い方講座されててな、やっと解放や。そんで今日は土曜日でな、爺さんと片付けよったんじゃ。友もな、最近洗濯物畳むのとかなクチバシで器用に手伝ってくれるようなったんじゃ、まぁタオルとかやけどな、そんでしまうものは箪笥にしまったりな。掃除機は爺さんが毎日かけてくれて慣れとるから爺さんに任せた。玄関やトイレも掃除丁寧にしたで。あとお茶菓子を買いに行ったりもしよった。ここに女の人くるのって、親戚のもんしか来んからな。そんでな、友にな、明日この前会うたカラスの友達来よるんやで、仲良くなったらええのぅって話しよったら、カァって返事しよったわ。


 お昼過ぎにな、近所のしのばあが来よった。えらい今日は片づいとるの。明日何かあるんかよって言いよった。そんでな、友の友達、あっその白いカラスな、その友達が来よるんや。カラスはカラス同士仲ようなったらええと思うてなって。そしたら、カラス飼うてる人おるんかって言いよったからな、この前道の駅で友と同じように保護されたこが飼い主さんと来とったんじゃって言ったんじゃ。そうか、そうしたら、明日美味いもん持ってきてやろかって言いよったから、茶菓子は用意したからかまんよって話した。そしたらそうか言うて、お茶してから帰りよったわ。


 しのばあはな、亡くなった婆さんと仲ようてな、爺さんと二人になった時にもな、色々気に掛けてくれよったんじゃ。今でもたまに来ては、爺さんの話相手してくれよる。しのばあは同じ敷地内に息子夫婦が住みよるんじゃ。孫もおおきなっとるよ。息子の嫁さんともうまいこといっとってらしい。前にな、嫁姑で歪み合ったりないんかって聞きよったらな、そんなんあれへん。結婚したら別家庭じゃ、だからな、他の家のことに口出しせんのと一緒じゃよ。けどな、頼まれて出来ることは協力したりよるで、孫にプレゼントするにもな、ちゃんと息子夫婦と相談して決めよる。嫁さんもなわしのこと大事にしてくれよるからな、いつもありがとういうてるんや。息子の嫁はな、敵じゃないんやで歪み合う必要あれへん。そう言いよった。わしそれ聞いてなるほどなぁって感心しよった。


 そんでな、今日動き回ったから疲れよった。だからな近所のスーパー行って、サンマ寿司とめはり寿司と、カップの味噌汁買ってきて晩御飯はそれで済ませたんじゃ。たまに食べるんやけど、美味いでな。友は何それって顔しとった。そらカラスからしたら、青光りしたもんがいつもわしらが食べとる白いぶつぶつとしたもんの上にのってるのと、葉っぱが丸まってるんやからな、爺さんとわしが食べるのじっと見よったわ。そんでな、しばらくしてから自分のを食べよったんや。何や食べもんなんかって思うたんかのぅ。


 晩御飯食べてからはな、風呂にゆっくり入って体癒しよった。何か温泉もええのう。今度爺さん連れて行ってやりたいなぁと思うとった。そしたらな、爺さんがええかげん出えよって声かけられて、わしそんなに入っとるんかいなってびっくりしよったわ。そんで急いで風呂上がって出よった。そしたら爺さんにな、明日女の人来るからって見てくれ変わらんのやから、普通にしとったらええんじゃ。そんでわし言うたんじゃ、今日動いて疲れたからゆっくり入っとっただけじゃってな。そしたら爺さんそうかって含み笑いしよった。それからは、寝る準備して布団に入りよった。


 今日は朝早くに目が覚めたんじゃ。朝からトイレのマットとか変えてな、玄関も軽くはきよった。友もな、わしのあと追いまわしよった。まぁ、今日も元気そうでよかったけどな。そうこうしてたら爺さんも起きてきよったわ。そんで朝御飯食べて後片付けして、また軽く掃除機かけて、友用の新しく買ったトイレシーツも変えてやった。


 田口さんが来るのは昼からやから、ゆっくりしよかと思いよったんやけど、何やかんややってたら時間きてしもてた。お昼食べる時間もなかったわ。友にもうすぐ友達くるぞって言うたら、カァって返事しよった。友も楽しみなんかのぉ。


 しばらくしたら外から車の音したんでな、門のところまで迎えにでたんじゃ。そんでな、うちの駐車場のわしの車の横のスペースに車止めてもろた。


 今日は楽しみじゃなぁって思いよった。どうなるんかのぉ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る