白いカラス

渡邉 一代

第1話 カラスと出会う

 仕事が終わり国道沿いの道を自転車で走っていた。いつも勤務先へは、二十分程山の麓から町の方へ自転車を走らせる。わしの仕事は建築屋で、十八の高校卒業してから働いて三十年目だ。行きは下りだから楽なんだが、帰りは上り坂なもんで、ちょっと仕事で疲れた身体にはきつい。車を運転しないわけではないが、週末の道の駅巡りの楽しみの為にとっておきたい。気持ちの切り替えって言うんかの、そんなもんじゃ。ほんでよ、家に向かって走ってる時にな、遠くの方で、白いもんがバタバタと動きよったんよ。わしはびっくりしたさ。いつも見やんもんが今日はあるんでな。それで近づいてみよったら、真っ白な鳥なんや、目が赤くてな。まぁー始めて見る鳥で何て種類やろと思ったんさ。そうしたら、カァと鳴きよる。カァと言ったらカラスやろ?でもカラスは黒やろ?新種のカラスか?色々考えてもわからんのやけど、よう見たら羽根が傷ついてるようで血がにじんどった。こらかわいそうに。こらいかん手当してやらんととおもてな、わし自転車とめて持ってたタオルに包んでやって、自転車の前籠にのせたんよ。白い鳥は威嚇しとったけど、大丈夫じゃ、お前さんの手当してやるだけや。だから大人しくしとってくれや。そう言ってからタオルに包んでやると、大人しなった。人間の言葉をわかったかどうかはわからんけども、籠に入れたらじっとしとった。わしはまた自転車をゆっくり走らせた。しばらく走ると家の明かりが見えてきたもんで、もうつくから頑張れよーって声かけてやった。


 わしはな、爺様とくらしよるんや。嫁子はおらん。わしはずっと独り身なんじゃ。顔はな、愛想はあるけどもいかついと言われるもんでよ、嫁のきてがおらなんだ。婆様は去年病気で亡くなりよった。ほんまは孫の顔も見せたらんといかんのやろうけどな、こればっかりはどないもいかんから仕方ないのぉ。


 ただいまと声を掛けるとな、爺様がおうよって応えるんじゃ。そんで今日もそうしたんやけどもな、白い鳥連れとったから、爺様を玄関にきてくれるよう声かけた。

「なんじゃ、呼びよって。」

「道でな、この白い鳥が羽根傷つけてバタバタしよったんじゃ、爺様手当どうしたらええかい。」

「お、おお、ちょっと綺麗なタオルとってきてやる。そこへ置いてやれ。そんで洗面器に水組んできてあろてやらんといかん。それから消毒して包帯したれ。」わかったと返事し。わしは家の中にいれてやった。


 少しまっとれよ。今傷手当してやるからの。そう言って洗面器に水を入れ、救急箱から消毒液と包帯をとってきた。白い鳥は怯えていたが、優しく水の中に入れてやると、少し水浴びをし始めた。少しそうさせた後、その白い鳥に触れ汚れている所を丁寧に洗ってやった。タオルで拭いた時、ブルブルと震わせた。ちょっと傷のとこ見せてくれるかのぉ。クァッと弱々しく鳴いて、羽根を広げてみせてくれようてした。お前言葉がわかるんかのぉ。しみると思うけどな、ちょっと堪えてくれよ。そしてわしはの、傷ついたところを消毒してやり、油紙とガーゼあててから包帯で巻いてやった。よう頑張ったな。

それでわし、白い鳥の頭を軽く撫でてやった。


 爺様とわしの二人暮らしなもんで、晩御飯は簡単な酒のつまみとかは爺様が作ってくれるけど、あとは仕事かえってからわしが作りよる。そうじゃ、白い鳥のご飯も用意してやらんといかんな。今日は小松菜とさつまいもあるからそれで煮物しよかの。ほんで鯖やこか、あとわかめの味噌煮に、白菜の漬物でええかの。白い鳥の分はご飯に味噌汁かけて、芋と小松菜少し添えたみたやろかの。でも、細かく切ってやらんといかんな。白い鳥の分はこの皿に入れてと、もっていってみよか。


 ほんでわしな、白い鳥の前に出してやった。白い鳥は不思議そうにわしを見よった。すぐには食べんかった。そんなもんじゃろと思ってたしな、それでええんじゃ。

わしと爺様のご飯もちゃぶ台に運んだ。まぁ、その前に晩酌はするけどよ。爺様が枝豆用意してくれとったもんで、それ食べながらビール飲んだ。晩御飯もつまんで爺様と今日の仕事の話とか、近所のしのばあがきて世間話しとったこととかな。そうしたら、爺様が和よ、あっ、わし和成な。和よ、カラスが飯食っとるぞって言いよった。えっ、あれ白いけどカラスなんか?わしびっくりしたわ。白い鳥に思わず言うた、お前カラスやったんかって。でも爺様ようわかったの。わし黒いのしか知らんもんな、見たことなかったもん。ほんでな爺様、こんなこともいいよった。おそらくの、カラスの仲間に受け入れてもらえんかったんじゃろ。姿ちがうでな。傷ついとったのも仲間にやられたんじゃろって。ほんじゃあ、このカラス治っても居場所ないんじゃったら返せんやないか、そう爺様と話しよったんじゃ。だからの、しばらくはここにおらして、カラスが自然に帰りたくなるまで世話してやろうって話なった。そんでな、その白いカラスにそんでええかと話したら、カァと一声鳴きよった。


 次の日の朝な、爺さんもわしも食パン食べるんじゃ、卵焼いてプチトマトっていうの添えてな。あとコーヒーじゃ。そんでな、カラスにも食パンちぎったのとミルクを別の皿に入れてやったんじゃ。そうしたらよ、パンを少しミルクに浸して食べよった。見てるとよ、パンに少しつけるだけなんじゃ、うまいことしよる。そんで食べてる時にな、わし仕事やから家で大人しくしとれよ。トイレしとうなったらな、この平たいおしめの上にしてくれよ、わかるかの。それとな、喉かわいたらいかんから水置いとくからな、これで喉潤せよ。それでわしも朝ご飯食べてあと片付け爺さんに任せてな、いつも通りに家でよった。


 事務所についてタイムカード押して、あっ、わしの苗字遠藤な。いつも通り設計図作んのにCADの画面みたり、設計台に行って図面書いたりしよった。わしが働いとるとこはの、地元ではそこそこ大きいとこじゃ。それでわしそこの設計部門におるんよ。高校卒業して始めは現場経験しよった。そんで十年目にな、設計の勉強させてもらってな、五年後に二級建築士の免許とらせてもろた。それからはずっと設計部門におるんよ。資格とるんもな、会社が全部出してくれよった。ありがたいなぁ〜と思とる。だからな一所懸命仕事取り組みよるんよ。同じ部門にはな部長含めて五人設計士がおるんよ。わしはな、この中じゃ二番目に古いから課長やらせてもろとるんよ。みんな仲ええんやで、おっさんばっかりやけど、一番若いのが三十五歳いうとったからおっさん呼ばわりしたら怒られるかの。


 パソコンの画面みよったら、部長から新規事業の件で話あった。分譲地に建てる家の設計のことで、ミーティングせないかんということやった。まぁ、大体の仕様は決まっとるんやけどな。その時々でニーズっていうもんがあるから、それ反映させていくんやで。そんで営業の人らとな話さないかんのな。でもな、営業の人間は一癖あってな、もっともらしいことを設計のことでいいよるんやけどな、こっちは法律っちゅうもんに照らし合わせんといかんのでな、妥協点探したらんといかんのよ。若いもん程威勢はいいんや、もちろんイラッとくるけどな、大人になったらないかんから宥めて宥めてしよるんやで。ほいでミーティングの日にちを調整して、二日後の十三時頃にすることなった。


 そんでな、そうこうしてるうちにお昼休みきよった。ここは五階に食堂があるんよ。一番上の階やで。うちは二交代で行きよるんやで。部長おらん時はわし後から行くことにしてるけど、大体は先に行くんや。どっちか責任者がおるようにせんとあかんのでな。会社の食堂のご飯はうまいんやで。あっでもな、わし食べる量は普通やで、筋肉質で太ってはおらんよ。何でかっていうとな、社内ではエレベーター使わずに階段使い寄るんよ。設計部門は三階にあるからな丁度真ん中やから、どこも行きやすいからな。そんで食事はな、同じ設計部門の人らと行きよるんよ。だからお昼にな、昨日の白いカラスのこと話したんよ。そうしたら、そのうちの一人がアルビノって言うの違いますかって言いよった。何やそれって聞いたらな、免疫の影響で白くなるらしいんや。体も弱い場合あるから、一回お医者さん見せた方がいいって言いよった。そうなんか、そしたら籠買って爺さんに頼まないかんなって話しよった。


 お昼休み終わってまた夕方まで、事務所内で仕事しよった。途中施主さんきたんでな、設計の相談のりよった。そんなこんなで帰る時間きよった。今日は家まで急いで帰ったよ。


 爺さんにカラス病院連れていったらないかんらしい話して、その前に籠買ってこないかんから車でホームセンター行ってくるって言い寄ったらな、爺さんが昼間に籠かってくれよった。そうなったら話は早い、明日などこそこに動物病院あるから、連れて行ってくれへんかって言うたらな、今日籠買いに行ったところの横に動物病院あって、一旦帰って籠に入れて行ってすでに受診したらしいわ。思わず言うたわ、爺さん病院行かなあかんて知ってたんかって。そうしたらな、傷見てもらおうと思って行ったんじゃ。そうしたら、何かアルビノやったかな、体弱いかも知れんから検査した方がええって言われて検査したんやと。そんでその時に餌も買うてきたらしい。爺さん金もっとったんかって聞いたら、色々買うたらのうなったって言うたから、わしの財布から金返しといた。そんで、カラスの様子みたら、籠からでとったわ。外出る時だけでええやろって、爺さんが帰ってきてから出してやったんやと。ご飯さっきやってみたけど、まだ食べとらんやて。わしもお腹すいとるから、今日は冷凍の串を油で揚げて、あと味噌汁作ったんや。そんで、ちゃぶ台並べて食べよかって爺さんに声かけて食べ始めたら、カラスも食べ始めよった。わし待っててくれたんかな。まぁ、食べてくれたからよかったわ。


 ご飯食べてあと片付けしよってから、先に爺さんが風呂入るもんでその間にカラスの相手しよった。お前よ、傷の具合どうなんや、まだ痛むか?カラスはなカァと鳴きよったわ。今日は爺さんに医者で見てもろてよかったな。体も太陽の光には弱い言うとったから、わしのとこおって丁度ええんちゃうかの。それからの、晩御飯待っとってくれたやろ、お腹空いてる時は先に食べたらええんや、わしそんなことで怒らんからな。そんでまた頭撫でてやった。ふとトイレする時用に置いていった、おしめみたらな、その上にちゃんとしとったわ。それでな、また新しいのに変えてから、お前は偉いのう。わしの言葉わかってくれよるんやな、ありがとうな。そう言ってまた頭撫でてやった。そう言えばお前名前つけたらんといかんな、爺さんに雄か雌か聞かないかんの。そんで爺さんが風呂からあがりよったから、雄か雌か聞いたら雌って言いよった。そんでどうしようか考えて、友(とも)と名付けた。お前は今日から友と呼ぶからな。仲間ができるといいなって思ってな、友達の友って名前つけたんやでってカラスにいいよった。そうしたら、カァって鳴きよったわ。その後な、わしお風呂に入ってきてからな、爺さんと友におやすみ言うて自分の部屋いって寝よった。


 それから二日経ってな、相変わらず友も大人しくしてて、爺さんとも仲ようしてくれてるみたいで安心しとった。ご飯もしっかり食べれてるみたいやったからな。そんで今日は仕事で新規事業のミーティングがあるから、ちょっと早めに出て、まとめた資料を確認しとったんや。こう言うときはな、わしも緊張するんやで。家でもソワソワしとったんかも知れんな。爺さんから珍しく携帯にメールきとった。友が下痢したから病院連れて行くって。わしはな、ミーティングあるもんでどうもできんから、爺さんに任せとった。


 わしは心配やったけどな、ミーティングの時間が営業の都合で朝の十時からに変更になったから、会議室に部長ともう一人と三人で参加しよった。部長から建築予定地の場所のこと調べて事前準備しとったもんで、営業との話はスムーズにすんだからよかったわ。そんで昼前にミーティング終わったから携帯確認したら、爺さんからまたメール入っとってな、飼い主の緊張伝わってしもうて、下痢したんやと。わしのせいやったんや。友に悪いことしたわ。そんで爺さんに、友にミーティング上手いこといったから、心配せんでええって言うといてくれってメールしといた。


 仕事終わったら一目散に帰ったわ。帰ってから、友に謝った。心配かけて悪かった、仕事上手いこといったから大丈夫やでってな。爺さんも言うといてくれたみたいでな、落ち着いてはおったわ。ご飯は柔らかめにって言われたみたいで、少し水でふやかしよったわ。ただ相変わらず食べやんのよな、わし帰るまで。調子崩した時ぐらい、先に食べたらええのに待っとるんよ。そやからわしもご飯作ってまたちゃぶ台並べて、爺さんを呼んでから皆んなでご飯食べよった。仕事はな、明日行ったら次の日は週末で休みやから、車で道の駅めぐりする予定なんや。今回は海の近くの道の駅巡るから、爺さんも連れて行くって話しとったんじゃ。それで遅くなったらいかんもんで、友も籠に入れて連れて行こうかって話になった。そんで友にな、車で皆んなで出かけるぞって言ったら、カァって返事しよったわ。


 週末になってな、朝早ようから出かける準備して、友の餌も持って、籠に入れて車に乗せた。二時間程車走らせたところに道の駅があってな、そこに始めに行ったんや。友がおるからな、交代で中に入って見てきた。海の近くやから海産物が色々あったから、味見して二つ程買うてきた。爺さんもわしとは違うもんを買うてた。そんでちょっと休憩してから、またそこから一時間程行ったところにある道の駅行って、昼ご飯になるようなもん買うてきた。どうせならって、近くに大きな散策できるような公園あるから、そこに行って爺さんと籠に入った友連れて行きよった。そんでいい眺めの場所があってな、ベンチとテーブルがあったからそこで食べよった。

 

 お昼食べてから、爺さんと籠に入った友連れて歩いとったらな、二羽ほどの黒いカラスが寄ってきよった。そんで友に威嚇しよったんや。わしらおるんやで、そんでな、友みたら籠の中で縮こまりよったからな、わし黒いカラスに言うたったんや。黒いカラスよ、この白いカラスいじめんといたってくれ。こいつはな、好き好んでこの姿にうまれたんやあれへん。自分ではどうしようもなかったんや。これから黒なることもない。こいつがな、お前らに危害加えることもない。だからな、いじめやんといたってくれ。そうしたらな、黒いカラス大人しくなりよった。そんでその間に車に戻った。一旦車の中で友を出して膝の上乗せたって、もう大丈夫やでって撫でてやった。しばらくは震えとったけど、ずっと撫でてやってたら落ち着いてきた。それで、わし車運転せんといかんので、籠に戻ってもらったんや。そしたらちょっとしたら寝よった。それからはもう一件行く予定やったけど、家に帰ってきた。


 家帰ってきてから、籠から出してやって、もう大丈夫や家帰ってきたから安心やぞって言ってやった。そうしたらな、ひょこひょこ歩いてきて、わしの膝に乗ってきよった。そこからかな、わしらに凄い甘えるようになったな。すり寄ってくるからな。可愛いもんじゃな。


 わしな、生き物は今まで飼ったことなかったんよ。育てられるかわからんのでな、それがまさか生き物飼うと思わんかった。初めて飼うのがカラスなんて思いもよらなんだしな。色が白いからな、カラスって感じはあんまりせんのやけどな、それがかえってよかったのかもしれんな。それとな、爺さんにとってもよかったんかもな、爺さんの話相手にもなってくれてるみたいやし。婆さん亡くして少し塞ぎ込む日が多くてな、だからといってどうしたることもできなんだから、今は嬉しそうにしとるよ。友は昼間爺さんの横で一緒にテレビ見とるんやと、たまにカァカァ鳴く時あるらしいけどな、昼ご飯食べる時はたまに爺さん突いてクレって鳴きよるみたいやけど、少しやったら大人しくしとるらしいわ。わしが仕事から帰ったら、今は玄関まで迎えにくるまでになったわ。そんでわしの側にずっと寄り添いよる。


 そんなこんなで白いカラスの友と生活することになってしもうたんや。


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