第2話 県の婚活サービスに登録したコン!
狐は常日頃思っていた。
――住民税たっけええええええ!
狐の住む稲荷県は「住まわせてやってるんだから」と狐からおぜぜを毟りとっていく。
じゃあ思うしかないじゃない!
――稲荷県のサービスは! 使い倒す!
その時がついにやってきた。
稲荷県、結婚支援の為にお見合いサービスをやっていた。
フハハハハ! 使ってやるわ!
狐は登録前に調べた。
利用者の赤裸々な本音をなあ!
爆サイで検索した。
出るわ出るわ! 愚痴が! ざっくざく!
嘘! ちょっとしかなかった。
「いい人いないなあ」「仲介人の●ェネックが微妙」「女って年収しか見ねえ」「フェネッ●が嫌」「男はATMだと思っているんだろうな」「最悪だよフェ●ック」「やっべえよフ●ネック」「うぎゃあフェネ●ク」ぐらいだった。
男がほぼ書き込んでいるということと仲介人のフェネックがやたら嫌われていることしか分からなかった。
此処で余談。
実はグーグルマップで数件長文の恨み言もといレビューが読めた。
気付いたのは登録後である。
地方自治体がやってる婚活サービスの利用を考えている方はグーグルマップを要チェックですぞ。
地方自治体以外の結婚相談所でもあっつあつの長文レビュー割と書かれてますぞ。
知らなかったよ。知りたかったよ。爆サイなんぞ見たくなかった。
余談おしまい。
狐はチベットスナギツネのような顔で爆サイのウィンドウを閉じた。
胸には不安が渦巻いていた。しかし、不安に勝る熱意があった。
――住民税のもとを! とりたい! たっかいたかあああい住民税を払った分サービスを受けたい!
もはや婚活では無かった。
県のサービスを受ける為に勢いで登録の準備をした。
流石に独身証明書を取り寄せている間に冷静になった。
友人で既婚者のウカノちゃんに相談した。
ウカノちゃんは優しく(半ば面白がって)ホームページを熟読してくれた。そしてコメントしてくれた。
「登録者数も成婚数もそこそこあるし大丈夫やろ」
有難い。なお、狐の返事は「登録者数なんか何処に書いてあったんや」である。
関西在住ながら縁もゆかりもない稲荷県のサービスを調べてくれたウカノちゃんが人徳の高さに慄くか。
勢いだけで行動する狐の思慮の浅さに慄くか。
それは貴方次第である。
狐は前者とする。
狐はウカノちゃんのお墨付きに喜びながら、書類をもって来所した。
そこには様々な試練が待ち受けていた。
試練1、ストーカー対策にスマホを取り上げられた上にメモを禁止される。
試練2、ホームページから印刷した申込書に記入してきたら驚かれる。
試練3、登録者情報をタブレットにタッチペンで入力させる。しかも、紹介文は約200文字。
試練4、ストーカー対策について延々と語られる。
試練5、文字情報の登録完了メールが来た際にスマホのロック画面を見られる。よりによってエヴァンゲリオン初号機。
試練6、ストーカー対策について熱く語られる。
大変な試練だった。
帰り道に思うことはもはや婚活のことでも住民税のことでもなかった。ストーカーのことだった。
そんなにストーカーが発生するのか、婚活。
そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。
やがて写真も登録され、狐に見合い申し込みがやってきた。
何歳の方だったと思います?
二十代! いや、もっと上げていきまっしょう。
三十代! いんや、まだまだ。
四十代! もう一声!
五十代! YES!
びびった。
両親と同年代だもの。ビビり散らかした。
お相手さんがね、アラサーの女と結婚したい人だったんですね。嘘です!
そう、嘘です!
真っ赤な嘘なんです!
お相手さんの希望条件を見ると、アラフォー以上希望とありました。
ど う し て
電話猫と「容疑者Xの献身」の堤真一の物真似をせざるを得ない。
どうしてえええええええ
困惑しながら断った。
もし受けたとして双方得るものがあっただろうか。
アラフォー以上希望のアラフィフの男が、アラサー以上アラフォー以下希望のアラサーの女と出会って何か盛り上がることがあったのだろうか。
……とか書くと受けておいても良かったかもしれない気がしてきた。
変な面白さはあったかもしれない。未来は無いが。
アラフォー以上希望なのに何故かアラサーの女に申し込んだアラフィフの男以外にも見合い申し込みは来た。だいたい半日後だった。
二十代希望の三十代の男だった。
二十代の狐は奇跡を感じて即OKした。
吾輩は喪女である。
喪うものなんざキジブラザーより無い。ていうか逆に何があるんだ。何を喪えるんだよ。下ネタぐらいしか浮かばない。嘘、そんな最低な由来なの⁉ 検索したら「もてない女」の略だった。やったぜ。日本の未来は明るい。頑張れニッポン凄いぞニッポン頭のいい国にっぽーん。話がそれた。
恋愛経験皆無な狐は見合いが不安だった。
そんな時には! そう!
助けてどらえもーん!
ではなく!
助けてウカノちゃーん!
偉大なるウカノちゃんは語った。
「兎に角恋人を一回つくれば恋愛は上手くいくんや。よっぽど嫌じゃなかったら付き合えばええんやで」
狐はその言葉を胸に刻みつけた。
もうお相手さんと付き合う気満々でいた時、仲介人が決まった。
フェネックさんだった。
ネットの片隅で散々ぶっ叩かれている、あのフェネックさんである。
フェネックはどうして嫌われるのだろうか。
名前から察するに女性。連絡メールは親身で丁寧だが押しつけがましくもない。
直接会ったら弱点をあげつらってくるのだろうか。
ならば、真っ先に見合い場所に行ってお相手よりも先にフェネックを懐柔させておこう。
見合い場所を調べたら、開店時間が見合い開始時間と同時。何分前に開くのだろう。
バスの時刻表から計算した所、1時間前には着く。流石に開いてないだろう。
時間を潰すか。バス停近くのベンチで読書でもするか。
フェネックはバスを使うだろうか。ならば見張れば分かるか。
女性だということしか分からないが、いけるか……?
フェネックってどんな人なんだろう。
お見合いの仲介人だから「あとはお若い二人に任せて」とか言うのだろう。じゃあ、四十代以上だろうか。それぐらい年上じゃないと気まずくないだろうか。
格好はどんなだろう。見合い場所はホテル。流石に着物は無いだろう。スーツも多分無いだろう。じゃあ何着るんだろう。
嗚呼、フェネック。
フェネック。フェネックさんよお……。
そうして、狐はお見合い相手ではなく、仲介人に思いをはせてお見合いの日を迎えた。
次回予告。
初めてのお見合いにドキドキの狐。
魅惑のフェネックの正体や如何に!
いやお見合い相手や如何に!
もうOK出す気満々だけども如何に!
次回「初めてのお見合い! 初めての恋人GETだコン!」
また読んでね!
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