百合カップルから向けられる愛が大変です

 由香と舞の二人…それもクラスで有名な美人であり、今のところ明確に俺しか知らない秘密を持つ彼女たちと体の関係を持った。

 俺はそのことをずっと今日、彼女たちの家から帰った後も思い返していた。


「……………」


 言葉にならないとはこのことだ。

 俺は帰ってからずっと、あの時以上にボーっとしてしまって妹を含めて家族にまた心配をかけてしまった。


『先輩……私、私もう!』

『分かってるわ。私は今からあなたを襲う……逃げたければ逃げて』

『逃げません。だって私、先輩が大好きですから!』

『あぁ……好きよ♪』


 マウスを握りしめ、ディスプレイに映る百合エロゲを俺は無心でプレイしていた。

 美麗なイラストで描かれるキャラクターたち、そしてそのキャラたちが愛を確かめ合う行為は確かに俺を興奮させてくれているのに……本当に大丈夫かと、そう思ってしまうほどに俺はゲームに身が入っていない。


「……今日はここまでで良いか」


 可愛くて美人な二人組が絡み合っている場面でセーブをして電源を切った。

 俺はそのままベッドに横になり、何をするでもなくボーっと天井を眺め続けていると、スマホが着信を知らせた。


「っ……」


 画面に映っていたのは由香の名前だった。

 俺は二回ほど深呼吸をした後、意を決するように電話に出た。


「もしもし」

『もしもし、こんばんは咲夜君』

「……こんばんは由香」


 その声を聞くのは数時間ぶりだ。

 間近で話すのと電話では若干違いはあるものの、それでも耳元から彼女の声が聞こえるという点では違っておらず、直接鼓膜を震わす彼女の声に何とも言えない甘さを俺は感じてしまう。


「……マズいわ俺」

『え?』

「その……なんだ。電話だけってのに、由香の声聞くだけでドキドキするんだよ」

『あら、それはとても良い傾向じゃない。もっと沈めてあげるわ。それこそ、絶対に抜け出せない迷路に迷い込ませてあげる』

「……………」


 いや、既に迷い込んでいる気がするんだが……。

 言葉で否定するのは簡単だし、頭の中でこれは違うと否定するのも更に簡単なはずなのに、由香の言葉に……彼女たちの言葉がとても心地良く感じてしまう。


(俺、マジでどうすれば良いんだろうな)


 体の関係を持っただけ……言ってしまえばそれまでだ。

 でもセフレというものとも違って、二人が求めている関係が体だけのモノではないことも伝えられた……二人は本心から、本気で俺という男の存在を求めている。


『舞は今お風呂に入ってるのだけど、実はあれからあの子とも話したの』

「何を?」

『……あれよ。勢いに任せて関係を持ってしまって、それで私たちの抱く想いをあなたに全部伝えたけど、流石に困らせてしまったし悩ませることになるわよねって』

「……あ~」


 正にそれが今の状況だった。

 言葉に詰まった俺の様子から由香も察したようで、苦笑した様子が伝わってきた後にこう言葉を続けた。


『我儘を言わせてもらうわ。すっごく悩んでほしい』

「……ハッキリ言うんだな」

『それはそうでしょう。私たちは二人ともあなたのことが大好きで、大切で、愛しているの。だから絶対に手放しくないし、ずっと一緒に居たい……だから私たち二人に愛されて良いのかと、一人ではなく二人で良いのかと悩んでほしい」

「……………」


 それはつまり、一人ではなく二人を愛する覚悟を決めてほしいということだ。

 今の日本は少子高齢化で大変な部分はあるものの、別に複数の女性と付き合っても許されるなんて風潮はない。

 二人とそういう関係になる……それはどう考えても異端なのだ。


『その上で受け入れてほしい……ううん、そうなるのが望みね。もちろん、私と舞もそうなれるように努力するわ。もっともっと、私たちの魅力に咲夜君を溺れさせてみせるから』


 これ以上二人の魅力を知ったらそれこそおかしくなるぞマジで……。

 しっかし凄い自信の表れだなと、俺は自分が渦中にいることも忘れて他人事のように聞いていたが、そこで由香の勢いがなくなった。


『……なんて、色々言ったけどごめんなさい。手順が違うことも分かってるし、こんなことが普通じゃないのも分かってる。でもね? あなたと深く繋がれた、それがどうしようもなく嬉しいの♪』

「っ!?」


 その嬉しそうな言葉にはとてつもない破壊力が込められていた。

 俺は無意識に自分のお腹の肉を指で抓り、痛みを持って自分をしっかり持つように心掛けた。


(由香は舞に比べてクールな印象が先立つ。そんな彼女が……そんな彼女がこんなに嬉しそうに俺とのことを……ぐおおおおおおっ)


 その人のことを知れば知るほど魅力を知ることが出来るとはよく言うけど、こうやって知り合ったからこそ由香と舞のことを多く知った。

 もちろんまだまだ知らないことの方が多いけれど、自分の信念がちっぽけなものなんだと思い知らされるほどに彼女たちに魅せられてしまった。


「……なあ由香」

『なにかしら?』

「俺さ……それでもやっぱり百合が好きでさ。その根っこか変わらないんだ……そんな俺だからこそ、俺の前でもっと過激なことをしてくれなんて気持ち悪いことを言うかもしれない。だからやっぱり――」

『そんなこといくらでもしてあげるわよ。なんなら、咲夜君が見たいものを全部見せてあげる』

「……ぐぬぬっ」

『けれどね? それでも私と舞はあなたのことを心から愛している。それこそ一番に考えるほどに……だから咲夜君、改めて末永くよろしくお願いします』

「……あ」

『それじゃあね』


 そこで電話は切れた。

 俺は呆然とスマホを眺めていたが、俺がこんななのにあっちはいつもと変わらない様子で……俺一人がこうして悩んでいるのが馬鹿みたいに思えてくる。


「何が末永くだよ……もう一緒に居ること確定してんじゃんか」


 俺はそのことを迷惑に……全く思っていなくてむしろそんな幸せな未来を考えて良いのかと、贅沢すぎじゃないかと思ったほどだ。


「……どうなるか分からないけれど、色々とこれから考えることが増えそうだ」


 まさかただの百合好きな高校生オタクの俺がこういうことで悩む日が来るなんて想像もしていなかった。

 しかも俺の愛する百合カップルの二人に好かれてしまうという前代未聞の事件、更に言えば本番行為までしてしまったという特急列車も真っ青のスピード感だ。


「俺じゃなきゃ見逃しちゃうね……ってそんなこと言ってる場合じゃねえんだよ!」


 俺はその日、翌日が休日なのを良いことにずっと悩み続けるのだった。

 そして休みが明けて月曜日が訪れ、早速俺たちの中に変化が……そこまで大きくは変化しなかった。


「今日はいつもよりボーっとしてんな?」

「先週もそうだったけどねぇ」


 頼仁と委員長にまたまたどうしたんだと聞かれるだけだし、由香と舞も話しかけてはきたが特別何かが変わったと周りに匂わせることはしなかったのだ。

 そのことに安堵しつつも、ふとした時に二人から感じる熱量のある視線にドキドキさせられるし、彼女たちが近づいてくると見て触ったあの全裸の姿が脳裏に思い起こされて直視出来ないしで……俺はもう本当に大変だった。


「こういうのは失礼かもしれないけれど……」

「どうしたの?」

「何かな?」


 委員長が二人にこんなことを言った。


「今日のあなたたち、一段と綺麗じゃない? ううん、ずっと綺麗なのは変わりないけれど……ごめんなさい。上手く言葉に出来なくて」

「そんなことないわ。綺麗と言われて嬉しいもの」

「そうだねぇ。もしかしたら……何か良い心の変化があったのかも♪」

「へぇ?」


 あくまで学校内では隠し通す方針らしいものの、常に二人は俺の傍に居る。

 そのことに頼仁と委員長はちょっと変わったかと思うくらいで、それは幸いに周りも同じのようだ。

 しかし……学校が終わればバイトが一緒になるということで、もしかしたらちょっとだけ前よりも更に距離が近くなるのではと、俺は困ったような嬉しいようなそんな心地を抱くのだった。

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