シ・ン・シ・ョ・ク・♡
「おはよう咲夜君」
「おっはよう咲夜君♪」
早速朝からやって来ました美しい笑顔爆弾!!
結局、あの記憶が脳裏に残り続けてしまい、一日二日寝れば落ち着くと思っていたそれは今もずっと続いていた。
まあそれでも幾分かマシにはなったものの、笑顔の二人を見ると今にも互いに向き合ってキスを始めるのではないかという幻想さえ見えてしまいそうになる。
「あれ? なんか顔が赤いよ?」
俺の変化に気付いた舞がそう言ったのだが、その後にすぐニヤリと笑ってそっと顔を近づけてきた。
「もしかして、あの日のことを思い出したのかにゃ~?」
「……………」
「こら舞、あまりそういうことで揶揄わないの。嫌われてしまうわよ?」
後ろから由香がそう言うと、舞は分かりやすいように表情を変えた。
先ほどまでの俺を揶揄うような表情は鳴りを潜め、すぐに俺に向かって彼女は謝罪を口にした。
「ごめん咲夜君。そんなつもりはなかったの……ただ、あたし……」
一瞬にして泣きそうになった彼女に俺は大丈夫だからと伝えた。
「えっと、嫌うとかないから大丈夫だって。別にその……正直なことを言うとさ。舞の言ったこと間違ってないし、俺ずっとあのことが頭から離れなくてドキドキしまくりで……ってすまん。キモくてすまん生きててすまん」
「咲夜君!?」
「そこまで言わなくて良いから! むしろ意識してくれたのなら全然良いから!!」
俺は……俺はアレを忘れられないんだ。
それこそ百合の同士である理人にどれだけ自慢したかったことか、心配してくれた珊瑚に対してこんな夢のような光景を俺は見たんだとどれだけ言いたかったことか、とにかく俺はずっとそんな気持ちだったわけだ。
「……って意識ってそりゃするに決まってんでしょうが!」
「……してくれたんだ♪」
「ふふっ……でも、ちょっとその意識とは違うのよねぇ」
どういうことだよ。
しかし、こうして教室で言葉を交わすのも普通になってきたなというのが最近思うことだ。
もちろん男子を含めて女子からも視線は集まるが、俺たちのやり取りに甘さは全くないので変に追及されることもない……そう思いたい。
「っと、あたしおトイレ行ってくるね~」
「気を付けて行くのよ」
「母親と娘かよ」
さあっと舞は教室を出て行った。
由香は自分の席に向かうのかと思いきや、彼女はその場から動かずに俺に視線を固定した。
「……由香?」
「っ……」
名前を呼ぶと彼女はビクッと体を震わせた。
そのままジッと見つめてくるのは変わらず、しかしクスッと頬を緩めて綺麗な微笑みを彼女は浮かべ、こんなことを口にするのだった。
「名前で呼ばれるのやっぱり良いわね。名字で呼ばれるのとは全然違う……やっぱりこっちの方が好きだわ」
まあ名前で呼ぶのもそれはそれで緊張はするけどね。
「自分の席に行かないの?」
「あら、私はもっと咲夜君とお話がしたいわ。それなのにあっちに行けって?」
「……その言い方はズルくねえか?」
「ごめんなさい。でもこの気持ちは本当よ? 土曜日に会ってから会えなかったんだもの」
「いやいや、一日空いただけじゃんか」
「その一日が長かったのよ。私と舞にとって、やっぱり初めての異性の友人であるあなたは特別だから」
特別って……いかん、彼女にそんなつもりはないだろうに勘違いしてしまいそうになる自分が浅はかだった。
(まあでも、しそうにはなってもしないからな。だってこの子たちは百合だし)
だからこそ、由香と舞からどんな言葉をもらったところでそこに他意がないことも理解出来る……それが悲しいやら嬉しいやらだ。
「おはよう伊表君。それに水瀬さんもおはよう」
「おっす委員長」
「おはよう篠崎さん」
そうして時間を潰していたら委員長もやってきた。
委員長は俺と由香を交互に見つめながら、口元に手を当てて言葉を続けた。
「時折アイコンタクトを取っていたのは知ってたけど、まさかこうして話すほどに仲良くなってるなんてね。珍しいじゃないの――特に水瀬さん」
「あら、そうかしら? でも……ふふっ」
「な、なによ……?」
「いえいえ、咲夜君は私にとって……いえ、舞にとっても初めてと言える異性の友人なのよ。それならこうして話したくなる気持ちも理解はしてもらえるはずだけど?」
由香の挑戦的な目に委員長は一歩退いた。
まさかこんな風に返されるとは思っていなかったんだろうけど、それでも俺としてはこんな風に言われたことは当然嬉しいので、腕を組んだままありがてぇと頷く。
「ねえ、本当に何があったのよ?」
「まあなんだ。簡単に言うとバイト中に出会って、それで色々と話す機会があったんだよ。そうだよな?」
「えぇ。本当に色々なことを話したし知ることが出来たわ♪」
「……なるほどねぇ」
「ところで、一つ聞きたいんだけど篠崎さんは咲夜君のことが好きだったりするのかしらね?」
「はっ? 私が? こいつを?」
おい、指を向けるんじゃないよ。
というか、確かに俺は委員長とかなり話をすることもあってそういうことを他の連中に以前は揶揄われたこともあったけど、本当に俺たちは良き友人でしかないのでいつもそんなわけあるかと返してるんだが。
「あるわけないでしょうが。ただ単に仲が良いだけよ」
「そう。それなら良いわ」
「たっだいま~……って、何の話してるの?」
そしてそこに舞も合流した。
その後、舞も委員長と僅かに言葉を交わし、委員長は相変わらず不思議そうにしながら自分の席に戻って行った。
「それじゃあ咲夜君、私は戻るわね」
「え? 舞は?」
「ちょっと~! あたしトイレ行っててお話してないんだからまだここに居て良いじゃんかぁ!」
「え? あ、はい」
由香はそのまま席に座り、残ったのは舞だけだ。
「なんか……あったの?」
「え? どうして?」
「いや……」
なんとなく、先週の終わりに出会った時と違う気がしたからだ。
お互いにお互いを想い合っている部分は変わっておらず、さっきまでの僅かな時間でもそれは感じ取ることが出来た……しかし、微妙に何かが違う気がする。
(なんだ? 決定的に何かが違うような……でも、それが良く分からん)
少しジッと考えてみたいことではあるが、目の前に舞が居る時点で考え事をする余裕はそもそもなく、俺は彼女の相手をする他なさそうだ。
俺の言葉に舞はう~んと考えた後、ニコッと笑ってこう言った。
「あたしと由香も色々と考えることがあってね。それでちょっと確認というか、新しく気付いたものがあるって感じかな。それこそ、過去に家族に言われたことや他の心無い言葉の全てがどうでも良くなるようなそんな感じ」
「ふ~ん?」
「ねえ咲夜君」
「なんだ?」
そこで舞は笑みを引っ込めた。
「あたしと由香はね。本当に似てるの……好みとか色々結構被ってる」
「うん」
「だから……いや、まだ良いかなこれは。徐々に気付かせれば良いし」
「えっと……つまり?」
「やっぱり何でもな~い。あたし、由香のとこに戻るね」
「? おう」
結局、舞が何を言いたいのか最後まで分からなかった。
舞が言ってしまったところで頼仁が教室に入ってきたのだが、俺としては彼女たちと話す瞬間を目撃されなくて良かったと思うべきか……だって絶対に委員長ばりに何があったんだって聞いてくると思うし。
「そういや咲夜」
「う~ん?」
「ツッキーとしてのバイトって結構金もらえんのか?」
「まあそれなりにだな。去年の夏場とか特別手当たんまりもらったぜ」
「なるほど……いや、特に意味はないんだが。俺も最近何かバイトしようかと思っててさ」
「なんだ、欲しいものがあんのか?」
「まあな」
どのバイトが良いかはその人それぞれだけど、ツッキーのバイトは結構払いは良い方だと思うし、それこそさっき言った夏場の時は本当に結構もらえている。
もうすぐその時期が来るので今年もウハウハなのかなとは思いつつ、その中のいくらが百合の礎になるのか気になるところだ。
「ちなみに……あん?」
「どうし……た?」
ふと俺たちに近づいてくる男子が居た。
そいつは確か相川と言ってクラスでもそれなりに人気のイケメンだったはず、そんな彼は爽やかな笑顔と共にこう口を開いた。
「おはよう伊表君、ちょっと聞きたいことがあってさ」
「聞きたいこと?」
「あぁ。君は彼女たちと……水瀬さんと藍沢さんと何かあったのかなって」
「なんもねえよ。少なくとも色っぽい話は悲しいくらいになんもねえ」
「そ、そうかい……失礼するよ」
何となくこういうことを聞かれるだろうなと思っていたからこそ、堂々とした様子で返す言葉は用意していた。
というか相川のあの言い方だと、どっちかを狙ってるって感じか。
まさか俺がそれを聞かれる立場になるとは思わなかったけど……なるほど、確かにあんなイケメンでも二人からすれば迷惑な話か。
「水瀬と藍沢ってどういうことだ?」
「……おっと」
それから少し、二人について頼仁から聞かれるのだった……相川、許せん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます