年齢は知られたけど特に何もないぜきっと

 それはいつものように、学校で頼仁との連れションの帰りだった。


「ねえ、本当にムカつくんだけどあいつら」

「今日も告白断ったんでしょ? しかも東君の」

「マジで? あのイケメンで性格が良いって評判の?」

「……絶対調子乗ってんでしょ水瀬と藍沢の奴ら」


 果たしてどんな内容か、そんなものは深く考えなくてもすぐに理解出来た。

 どちらが告白をされたのかはともかくとして、以前に委員長が言っていたようにこんなしょうもないことで水瀬と藍沢の二人は同性に敵視されている。

 同じクラスの女子では見たことがないけれど、他のクラスの女子にはこうやって良く言われているのだとか。


「ただの嫉妬だよな醜い」

「そうだな。同じクラスなら男の影が見えないのは分かるけど……」

「お前が好きそうな関係だもんな? 百合好きの咲夜君?」

「うるせえよ」


 まあだが、それには大いに頷くがな!

 とはいえ今彼が口にしたように、水瀬も藍沢もあまりに仲が良すぎて男の影を全く想像出来ないのもそうだが、基本的に二人で居ることが多いためクラスの女子は男関係で彼女たちを全く気にしていない。


「男子も男子でずっとあの二人が一緒に居るから遊びに誘ったり、ましてや告白なんかも遠慮してるくらいだからなぁ。別のクラスの奴はそんな二人の姿をあまり見てないからお構いなしだけど」

「それな。まあでも、二人がどんな関係だとしてもさ。男子が呼び出しに来た時に二人とも嫌そうな顔してるだろ? だから心底迷惑だろうとは思うんだよ」


 好きな異性、気になる異性に一番気持ちを伝えられる方法としては告白だろう。

 男子から女子に、女子から男子に、そのどちらであっても勇気の必要な行為であり悪いことでないのは確かだ……だが、そのことを歓迎しない側からすれば迷惑なことこの上ないんだろうなと俺は思う。


(実際に二人が付き合っていることを知ってるからな俺は……言っちまえばそれはそれで知れ渡るだろうけど、互いに互いのことを考えて過ごしやすい学生生活の為に明言していないのが現状だ……もどかしいもんだな)


 これが漫画やアニメ、小説の世界なら……いや、それでも簡単に周りに受け止められるモノでもないのか? 俺からすれば諸手を振って喜ぶんだけど。


「こういうこと今まであまり聞かなかったけどさ」

「うん?」


 何を聞くつもりなのか、耳を傾けると頼仁はこんなことを言い出すのだった。


「咲夜は確かに百合が好きなんだが、あの二人は好みじゃないのか?」

「……あ~」

「片や黒髪ロング美少女、片や派手で茶髪美少女……おまけにスタイルも抜群でお前が好みそうな女子じゃないか。それこそ、お前の部屋の棚の漫画にはああいうヒロイン物が多いしな?」

「……………」


 確かに、彼女たちの関係性や俺の趣味を考えなければ好みだろうか。

 まあ告白をしようなどとまでは考えないが、それでもああいう綺麗な子と親密な関係になりたいとは思うかと言われればそりゃ思うさ。


「そりゃそうだろ。百合を愛でるのが俺のアイデンティティだが、別に女の子に恋愛的な意味で興味がないわけじゃないからな?」

「分かってるさ。ま、あの二人は一体どんな相手を選ぶかねぇ」


 もう選んでんだよなそれが。

 そんな風に頼仁と駄弁りながら教室に戻ると、委員長が待ってましたと言わんばかりに近づく。


「長いトイレだったわね? 二人して大きい方かしら?」

「女の子がそういうことを言うんじゃないよ」


 真面目が服を着て歩いているような子なのにこういうことを平気で言うんだからなこの子は……ま、キツイように見えてユーモアもあるから男子にも女子にも親しまれてるんだろうが。


「なあ委員長」

「なに?」

「あの時話したこと、やっぱマジだったみたいだな」

「どういうこと?」


 さっきトイレの帰りに耳にしたことを俺たちは伝えた。


「なるほどね。表立って何かを言うことはないけど、私も廊下を歩いたりしてると良く耳にするわ。たぶん水瀬さんと藍沢さんの耳にも入ってるでしょうけど、何も気にしてはなさそうね」


 委員長が目を向けたのは水瀬と藍沢だ。

 何を話しているのかは分からないが、二人は笑顔で雑談に興じており、時折近くに女子とも会話をしているのが見受けられた。


「うちのクラスだとあんな感じで受け入れられてるのに……クラスが違うだけでどうしてこうなるのかしらね。ぶっちゃけ、クラスが違っても二人はこういう子たちなんだって分かるでしょうに」

「それを理解するのが悔しいんじゃないか? 嫉妬ってのはそんなもんだ」

「まあね」


 こればっかりは当事者でもないので何も言えることではない。

 ただツッキーとして彼女たちとそれなりに話すようになったのもあるし、その関係性を心から祝福している俺としては何か力になりたいと思うこともある。


「そう言えば二人とも」

「うん?」

「なんだ?」

「実はそこそこの人数集めてカラオケにでも行こうって友達が言ってるのよ。二人はどうする?」

「俺は別に良いぜ?」


 カラオケにどうか、その提案に頼仁は頷いた。

 俺としても特に断ろうとは基本的に思わないが、今日も今日とて俺はツッキーとしてのバイトがある。


「すまん、バイトがあるから俺はパスで」

「あらそうなの? というか、いい加減なんのバイトか教えなさいよ」

「いやぁそれは無理な話だぜ恥ずかしいから」


 それから何とか聞き出そうとしてくる委員長の追及を誤魔化すことが出来た。

 時間は流れて放課後になり、俺は頼仁や委員長に軽く挨拶をしてからすぐにデパートへ向かった。


「ちっす」

「おう、来たか咲夜」

「さくちゃんこんにちは」


 ちょうどおっちゃんとおばちゃんが一枚の紙を眺めていた。

 それはようやくといった具合に完成した広告で、そこには改めて撮影に協力してもらった水瀬と藍沢が写っていた。

 二人とも素晴らしい笑顔をカメラに向けており、水瀬によってケーキを食べさせてもらっている藍沢の笑顔は更に破壊力マシマシだ。


「この二人はモデルか何かなのかい?」

「全然? 普通に学生だよ。ま、驚くほどの美人なのは確かだけど」


 やっぱりモデルか何かと勘違いするくらいには綺麗だよな二人とも。

 おっちゃんもそうだが、おばちゃんも今回こうして協力してくれた二人にお礼が言いたいとのことで、ツッキーとして外に出る俺に付いてくることになった。

 ただ、おっちゃんは急遽店舗から離れられなくなり、俺とおばちゃんだけで外に向かうのだった。


「でも来てるかどうか分かんないっすよ?」

「居なかったらまたの機会に……あら、あの子たちじゃない?」

「……あ、居たわ」


 普通に彼女たちは居た。

 相変わらず小さい子たちが待っていましたと駆け寄ってくるのだが、少し用事があるからと離れてもらって彼女たちの元に。


「よう二人とも、ちょっと良いか?」

「えぇ。どうしたの?」

「そちらのお婆さんは?」


 気になる二人におばちゃんが頭を下げた。


「水瀬さんと藍沢さんだね? 今回の広告の件に関して、私の方からもお礼を言いたいと思ったのよ。本当にありがとう二人とも」

「あ、そのことですか。全然構いませんよ? ツッキーの役に立ちたかったので」

「うんうん♪ ツッキーの力になりたかったからね!」

「二人とも……」


 二人の優しさに俺は感動してしまいそうだった。

 俺はクマの着ぐるみの上から目元に手を当てて泣いたフリをすると、それに気付いた藍沢が咄嗟に駆け寄ってきてよしよしと頭を撫でてきた。


「本当に仲が良いのねぇ。同年代にも好かれるのねさくちゃんは」

「さくちゃん?」


 ちなみに、当然彼女たちに俺はまだ自分のことは伝えていない。

 名前もそうだし年齢なども全く教えてはいないのだが……どうにも彼女たちは俺のことを年上のように思っている節があるので、これでもしも同年代だと知られたらそれはそれで……ねえ?


「おばちゃん、俺はツッキーだぜ」

「あらそういうこと。それは申し訳ないことをしたわ」


 おばちゃんの察しが良くて助かる。

 それからおばちゃんは仕事に戻り、何故か二人が暇だからと言って俺の仕事を手伝い始めた。

 子供たちに風船を渡したりするだけだが、彼女たちも楽しそうにガキンチョたちと接していた。


「ツッキーの中の人についてはどれだけ聞いて良いのかしら?」

「聞かなくて良いんじゃない?」

「えぇ? ちょっと聞きたい気持ちになってきたよぉ。ねえ由香?」

「そうね。気になるわ」

「……………」


 特に伝えようと思うこともないからなぁ……ま、軽いもので良いか。


「二人とも高校二年だろ?」

「えぇ」

「うん」


 これは元々知っていたことだ。

 俺はグッと彼女たちに親指を立てるようにして教えるのだった。


「俺も高二だぜ。同い年だな」

「……え?」

「うそっ!?」


 そんな驚くことかい?

 でも、二人の驚いたような顔がちょっと面白くて俺は着ぐるみの下で静かに笑っていた。

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