第29話 待機する者、入山する者
「あの、なんでそんなに不機嫌そうなんですか?」
「別に! 不機嫌じゃないし!」
隊長と
「……この人選ってどうなんでしょうか。俺、お二人のこと全然分からないですし……」
「半月以上いるのに知らないなんて怠慢もいいところね!」
「それに俺の戦力も知ってもらえてないでしょうし」
「興味ないからね!」
理不尽だ、と感じつつも、下っ端である自分の立場を考えると何も言えない
(それにしても、アカギも久しぶりだ)
アカギを左手に見ながら荒れた舗装路を歩く
景色自体は何も変わらないのに、雰囲気、音、匂い、そして気配、そんな様々な要素によって、ここが普通の場所ではないことを痛感しつつ自身の違和感に首を捻る。
(今日は、なんだか体の調子がいいな)
五感という入力器官だけじゃなく、体力や筋力も快調で、どこまでも歩けそうな気力も満ちていた。
魔獣に会ったら、リュックに隠してある白流刀を試させてもらおうと、
そして、まだまだ頼りないとはいえ、少なくとも
だが、ミネ公園を右折し、斜面を下り、登山口と違う場所から山核を出るまで、魔獣や魔樹と戦うことはなかった。
「一旦、アカギの本部に戻ろう。
隊長は
自衛隊の車両が点在する山核沿いの県道を、さきほどの隊列で歩きながら、
「タヌキめ……」
「え、どこですか? 魔獣ですか?」
「違うわよ。ウチのタヌキのこと」
「?……あの、俺たちは
「だーかーら、そもそもの任務があるでしょ? 公的な機関なんだから私情で動ける訳ないでしょうが」
「でも、副長と
「そこが落としどころってヤツ。茶番もいいところよ」
「じゃあ俺たち五人は、アカギと共同作戦ってことですね?」
「三人よ」
「へ?」
「何か動きがあるまで、私たち三人は待機よ」
「ん? あいつらも入ったのかー」
登山口に到着し、石板を眺めた隊長は棒読みで声を上げる。
そこには『YURIKA・S 11:07』に加え『MIMI・M 17:18』『KAI・Y 17:18』の白文字もあった。
「
『SOUTA・M 17:12』『YUMI・M 17:13』の白文字を指しながら
「ああ、白文字だから大丈夫。どっかで迷ってるんだろ」
「迷うって……この道をまっすぐじゃないですか」
「じゃあナニかしてるのかもな。それより腹減った。先に夕飯食べておこうぜ。案内宜しく」
隊長は
「三人って、そうゆうことですか」
「だから茶番だって言ったでしょ?」
「でも聞いていいですか? なんで
二人は別働隊として
「……
「あ、はい。“白天霹靂”」
「それと“応救処置”があれば、あれから身を守ることができて、一部始終を確認できて、それがどこで起きたか生きて報告に帰ることができるからよ」
まさか答えてくれるとは思わなかった
「あれって、魔獣のことですか? 強い魔獣がいるんですか?」
「魔獣じゃないわ。呪いみたいなもの」
つい話し過ぎてしまった。
そんな雰囲気を纏い、
◆
「やっと入れましたね」
アカギ、ナベワリの山核内に入り追っ手がいないことを確認した
そこを出入りさせないための防塁は、ところどころ破壊痕が残り、人が簡単に行き来できる状態になっていた。
真新しい見慣れた靴跡を見つけ、決意を込めて山核に入ろうとした
隊服や入山許可証を見せても
「なんでハルナの連中がここにいるんだ」
「最近は偽装カードも出回ってるからな」
などと信じる気配がなかった。
彼らとしても氾濫に備え過緊張になっているのか、肩に吊るした自動小銃を、いつでも使える素振りを見せながら威嚇するのも仕方ないのかもしれない。
ただ、こうしている間にも
無線が通じないため、山核隊本部へ移動して確認するなどと言い出す自衛官と押し問答を繰り返していた
「任せて」と小声で呟き、
(殺る気なのか!?)
まさかあんなところから致死性の攻撃が放たれるなんて、誰も想像しないだろう。
「え、おい! お前ら、何をした!」
残った方が小銃を持ち上げる挙動に対し、
まるで映画で見た特殊部隊ばりの動きに
「あなたもそちらの方のようにここで疲れて眠りますか? 二人並んでお休みするのと、彼が起きるまで待つのでは、どちらがよろしいですか?」
高身長の
「お、おまえ、いったい……」
「ただの救助隊です。私たちの救助活動を邪魔するというのであれば、まずあなた方を要救助者として処置いたしますが?」
「……そいつはどうなった」
「さあ、急に倒れましたので、疲れているのではないですか?」
「後で、問い合わせはさせてもらう」
自衛官は力を抜き、小銃を地面に降ろし、倒れている同僚を確認する。
「寝ている?」
「お疲れだったのでしょう。どうか安全な場所で起きるまで待機されることをお勧めします。我々の事はアカギの本隊で確認してください。
「……分かった。気を付けて行け」
そうして、
「副長。あれ、どうやったんです」
「あら、
「……疑うも何も、眠らせて、体技で相手を無力化しましたよね」
「麻酔ガスをエアで飛ばして、体術は見よう見まねよ」
山核の氾濫に対処できる、場数を踏んでいるであろう自衛官に対し、一対二で瞬殺できる女性がどれだけいるというのだ。
それに、二人を怪我させる。二人とも眠らせる。強行突破で逃げるという選択肢を選ばなかった。
二人を倒せば、氾濫の際に魔獣に対応できず殺されるだろう。強行突破で後ろから撃たれても、この隊服なら問題ないかもしれないが、その異常性は知られてしまう。
「さあ、もう17時を過ぎてるわ。急ぎましょう」
=========
郷原、祥子、広大がアカギ山核隊本部で待機する中、真鍋と開もトラブルを乗り越えて山核内に侵入する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます