第26話 パーティ編成

 アカギ山核隊に到着するまでの車内では、アカギの山核隊や想定される魔獣などについて説明があった。

 当初から氾濫も多く、山核の境界線も長く、氾濫対策に力を注いでいたアカギ山核隊の中で、登頂隊クライマーは本来の職務を果たせず、その活動のほとんどを訓練に充てていた。

 狩猟隊ハンターは山核内に入りこそすれ、ほぼ低地での活動に留まり、素材や魔核を細々と収集していた。

 特徴的なのが魔獣の肉が豊富なことだ。赤い牛の魔獣からドロップする肉は、最高級の和牛以上の美味とされ高値で売買されている。

 それ以外にも、赤い猪、赤い鶏など、安定した畜産業には及ばないものの、多くの食料需要を満たしていた。ただ、その多くは都内の富裕層に渡り、多くの生活困窮者には食する機会すら存在しない。

 不確定な情報だけは中途半端に流れ、アカギ山核内で魔獣を倒すと肉が手に入る。と、多くの人々が山の幸を求め違法入山を繰り返した。


 運よく肉を手に入れた帰還者が吹聴すると、それは実に簡単な行為と映る。

 その陰に、数十倍の犠牲者がいることには誰も気付かない。人々の戸籍情報なども混乱が続いている中、死んだり行方不明になったりしても、それを届ける人がいなければ、数値上に人口減は表れないのだ。


「素朴な疑問ですけど、裾野すそのさんの救出、大氾濫の対処、アカギ山核隊の応援、違法入山者の救助などが想定される訳ですけど、ウチの最優先事項は裾野すそのさんの救出でいいんですよね」


 ほぼ雑談と化した情報伝達の中、優実ゆみが先輩たちに向けて問う。


「本音としてはな。ただ、俺たちは公的な存在で、正式な要請も受けているって建前があることを忘れるなよ」


 肝心な百合香ゆりかの救助計画は先方の担当者と確認して進めることになっていたので具体的な行動方針はその上で示される。

 それでも優実ゆみとしては彼女の救出を念頭に置きたいと考えていた。

 かいは、そういった意志を示してくれる優実ゆみの考えを嬉しく思った。


「そう言えばパーティ編成ってどうなるんですか? 俺たちは七人いますが」


 広大こうだいが隊長に質問する。

 これまでの訓練は、先輩チームと新人チームの二班、それぞれ四人がパーティを組んで、入山許可証に登録していた。

 入山許可証に登録できるメンバーは五人まで。山核内であれば、入山中か、生きているかがお互いに分かる。

 基本的にパーティ編成は訓練の度に解消しているので、第五の面々がアカギに入山しても百合香ゆりかの状況は分からない。


「先方の状況次第だがな、新人三名だけ別行動ってわけにはいかんだろう。基本的に三班を考えている。俺と祥子しょうこ片山かたやま、副長と山際やまぎわ宗太そうた丸山まるやま

「……隊長、本気ですか?」真鍋まなべ副長が真面目な顔で見つめる。


 他の隊員は全員、副長と同じ意見を感じていたので、対応を見守る。


「本気も本気。バランス重視だ」

「バランスって、確かにそうかもしれませんが……連携だってやってないんですよ?」


 副長は、連携の前に何か言いかけたが、それに気付く人は少ない。


「ヒーラーを分けて、残りを割り振っただけだ。今回は連携より人命重視。裾野すそのを見つけるまで緊急下山は使うなよ」


 副長と宗太そうた祥子しょうこはその言葉で反論を止める。

 新人三人は困惑する。

 それでも、隊長か祥子しょうこのどちらかと真鍋まなべが治癒の技能持ちで、優実ゆみの技能が知られていて、隊長が百合香ゆりかの救出を優先しているということは理解出来た。


(副長は俺のブレーキ役ってことだろうな)

(白流刀をうまく使えるか信頼がないんだろうな……)

宗太そうたさんと一緒か、こんな状況だけど頑張ろう!)


 その上で、かい広大こうだい優実ゆみはそれぞれに考えていた。


 そして双子隊のミニバンはアカギの山核隊本部に到着する。



「アカギの救助隊、隊長の遠山とおやまです。郷原ごうはら隊長お久しぶりです」


 隊長室で直立して待っていた遠山とおやまは、並んだ双子隊の七人に丁寧な挨拶をする。


「時間が惜しい。情報をくれ」

「その前に、そちらの隊員がアカギに入った説明をもらいたいんだが」遠山とおやまは砕けた口調で応じる。

裾野すそのは今日から休暇でな、実家にも電話を入れてるんだがつながらんので詳細は不明だ」

「先遣隊ではないと?」

「なんの先遣隊だよ」

「アカギの氾濫に乗じて、攻略を狙ってるとか?」

「お前な、いい加減にしろよ。俺たちにその意図はないって言っただろうが」


 遠山とおやま隊長がハルナの卒業生と聞いていた新人たちは、その会話が理解できなかったが、思惑や過去のいきさつなど、どうでもいいと焦れていた。


遠山とおやまさん、本当ですよ。私たちは自分たちの力を私利私欲のために使わない。うちの隊員はみんなドロップ目当てに山に入ったりしない」


 そんな真鍋まなべの言葉に遠山とおやまは頷いて言った。


「分かってるよミミ、少し拗ねただけだ」


 遠山とおやまは応接セットに座りながら、着座を勧め、隊長と副長が対面に座る。

 テーブルの上にはアカギの地図が開かれている。


裾野すその隊員はのままだ。彼女の侵入路は不明だが闇雲に探すには範囲が広すぎる。実家が大古おおこだから、まずはそっち方面を捜索してはどうだろう」


 遠山とおやまは双子隊が気にしている案件から話した。


「そっちに車を出すと、俺たちが動けなくなるか……」


 隊長が悩む。


「全員で裾野すそのの救助に向かうのかと思ったよ」遠山とおやまは意外そうな顔を見せる。

「全員で動くわけないだろ? 正式な任務もあるんだから」

「任務ねぇ、そっちが片手間でも一応そういう配慮はするってことか。こっちに残るなら俺の指示に従ってもらうからな」


 遠山とおやまはニヤリと笑う。


「で、俺たちはどうすればいいんだ?」


 郷原ごうはらはそんな視線を意に介さず淡々と聞く。


「大氾濫に合わせた侵攻作戦に同行してもらいたい」

「いつから?」

「大氾濫に合わせて、なので現状は待機となる」


 遠山とおやまは、郷原ごうはら隊長がハルナの山核本部から聞いてきた内容と同じ、アカギの山核隊が東西にズラッと並んで、1キロおきに一隊。合計20隊で侵攻する説明をしてくれる。


「それじゃあそれまでアカギの中で訓練してもいいか?」

「アカギの狩猟隊の邪魔をしないことと、ウチの隊員を同行させるならば」

「監視かよ」

「ガイドだよ。救助隊なんだからルート確認とか下見が必要になるだろ?」


 郷原ごうはらは少しだけ考えて頷く。


「分かった。その代りすぐに出たい」

「もう夕方だぞ?」

「氾濫が起きても魔獣にそう言うのか?」

「……分かった。準備しよう。隊員の捜索はどうするんだ?」

「ここに残るのは五人、ウチの隊員を探すのは二人。真鍋まなべ山際やまぎわを連れて大古おおこに向かってくれ。裾野すそのの実家からだ」


 隊長は隣に座る副長に指示を出す。

 郷原ごうはら隊長と遠山とおやま隊長それぞれに視線を送った真鍋まなべはスッと立ち上がり歩き出す。


「行きましょう」とかいを伴い部屋を出る。


 二人を視線で見送った遠山とおやまが苦笑気味に口を開く。


「物理的に離さなくとも、何もしないって」

「さて、なんのことかな」

「ま、いいか。なあ郷原ごうはら、これは独り言なんだが」


 一旦言葉を切り、ソファの後ろに立つ四人を見てから遠山とおやまは続ける。


「こっちに来てから、意地だけじゃ山に登れないことを痛感したよ。悔しいが、力は必要だ」

「そう思うなら選択肢はないだろうが」

「俺だけが思ってもどうにもならんさ。だから黒船を呼んだ」

「それで? 開国か討幕か?」

「本音は俺が力を得てアカギを解放したいところだが、そんなプライドに拘るつもりはないし、アカギの登頂隊、狩猟隊に対する義理もない。それにな、アカギが解放できるのなら、それは別に誰でもいいと思ってる。応援で呼んだ救助隊が、偶然、偶々たまたま、アカギを解放したとしてもな」

「素直じゃねーな」

「今更、卓磨たくまさんに頭は下げられんさ」

「あいつはそんなタマじゃねーぞ」

「いや、それは俺の問題だ。俺は機会を逃したし、過ぎた時間は戻らないさ。それに、今更、間違ってましたなんて言ったら、ミミに怒られるだろ」


 遠山とおやま真鍋まなべ副長が去った方向を眺めながら言った。



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 アカギの山核隊に到着した第五隊は、アカギの救助隊隊長、遠山と情報交換を行う。それぞれの思惑がある中、班を分け、開は真鍋副長と百合香の実家に向かう。

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