第19話 涙
「どういうこと、休暇って」
夜の会合が解散となり、
「午前中にね、実家から連絡があったの。母さんが入院することになって、少しだけ父さんの世話をすることになったんだ」
「入院って、何があったんだ」
「大したことじゃないよ。検査入院なんだけど一週間くらいかかるから、その間だけでも戻れないかって。うちの父さん、家具屋を経営してるんだけど、放っておくとご飯も食べずに仕事する人で」
「じゃあ、一週間したら」
「もちろん、戻って来るよ。私の居場所はここだから。今回のことだってホントは断ろうとしたんだよ? 新入りの身分でまだ三か月も経ってないのに長期休暇なんて取れないよって。でも夕食の前、隊長に相談したら明日にも帰れって、休暇届をその場で書かされたよ」
「私、そんなに役立たずですか? って隊長に聞いたの。そしたら、いつ何があるか分からないところに勤めてる自覚を持てって、こういう機会は大事にしろって、怒られちゃった」
苦笑する
初めて山核で戦った双子山での試練の後、メディカルチェックを済ませた
ただ、三日も休ませてもらえたおかげで、父親を早く復帰させることができた。
「じゃあ、嫌になって休むんじゃないのね?」
「そんな訳ないでしょ。
部屋に戻った
彼女にしてみれば“山の幸”がなくても、
それでも、前回の青い熊、今回の白い鹿などに対し、
(私は、
隊長に溢した『役立たず』という言葉は現状から逆算してもただの事実でしかない。それは他でもない
だからだろうか、
と同時に、この三か月、
共依存状態であるとまでは考えていなかったが、一度距離を置いて、彼の存在を俯瞰した視点で見つめ直してみるいい機会だと思った。
◆
「それじゃ、駅まで送ってきます」
「それではしばらく留守にします、行ってきます」
ハルナレイクタウンからも山核隊専用の定期バスは運行しているが、朝食の席で隊長が、
「ウチはいろいろと有名だからな。ヘタに勘ぐられても嫌だし」
公共交通機関を使わないことに隊長はそんな理由を付けていたが、たぶん
たまには二人っきりでゆっくり話でもしておけ、と。
ジーンズにパーカー姿の
「
「はい。リュックを使わせてもらってます」
救助隊員たるもの、いつどこで要救助者が現れても対応できるようにと、隊服や装備一式を必ず持ち歩くようにと指示を受けていた。
拡張リュックに着替えなどの私物も入れることができた
「そうだ、
隊長は軽い口調で
「……また?」
「え、お前、まさか
青褪める
他の隊員は、なにやら不穏な雰囲気に押し黙り、
◆
「説明、してもらっていいかな?」
シートベルトを固定し、窓の外を眺めながら
「……前に、
「私、言ったよね、隠し事、なしにしようって」
「そうなんだけど、
「……
「ああ、でも別に大したことはなかったんだ。その時も隊長に相談して、
「そんな内容の話で、なんで黙ってたの?」
「なんで……って、内緒でって言われたから……」
ただ、
聞いた限りの話の中に、自分に聞かれてまずいことなんかない。
にも関わらず、内緒の会合は行われ、ここに至るまで、実はこんなことがあったんだという
「別に深夜に、
「コソコソって、そんなつもりじゃ……」
「じゃあ、どんなつもりなのよ! 三人で私のダメなところとか話したんでしょ? 新人の他の三人と違ってなんの力もない私が役に立たないとか……そっか、
久しぶりの二人きりの時間なのに、いや、二人きりの時間だからこそ、
感情はコントロールから外れ、運転中の
「……そんなんじゃない! 俺も、
恥ずかしいなんて言っていられない。
ただ真実を伝えたいと
「そうやって……私を……ずっと、籠の中に仕舞うんだ……」
「……籠? なんのことだよ」
「じゃあ私は、どうすれば
車内はずっと沈黙のまま、何も考えられない
「ごめんなさい」
駅で車を降りる
=========
新人たちは百合香から一週間という休暇の理由を聞いた。出発前、隊長の不用意な一言で、開が一人で物部家を赴いたことを百合香が知る。駅までの車中、百合香は訓練などで抱えていた不安と共に、秘密にされていた事実に対し感情を爆発させる。
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