第9話 四人の連携
駆け戻る
「私と
「もし俺たちのところに来たら?」
「そうさせないつもりだけど、突と斬なら使ってもいいよ。ただできれば戦わず逃げて。それも訓練になるから」
走り戻る
そのクリスタルのような青に染まる威容は神秘的で、
その造型は山核が生み出したもので、山核という理不尽な力を少しでも知っているからこそ、その身に秘めた力を勝手に想像し、緊張が拡大していく。
二人が持つのは新人が与えられる青いトレッキングポール。
以前、
その後、隊で支給されたものは青のポールで、突、斬に加え射が付与されていた。
理由は、さきほど
ただ、これまでの二か月で、
青のトレッキングポールだけで、青い犬を問題なく狩れるほどに。
相対距離20メートルほどの距離で、五体の犬が二列で走り出す。
犬の動きは直線的だ。
近接になると跳躍や四肢による高い機動性を誇るが、ある程度の距離があれば、かなり落ち着いて当てることができる。
ただ連射はできないため、単射後は突の準備。
直撃を与えた前列の二体が崩れ落ちる中で、後列にいた三体が跳躍する。
どんなに速くても、魔獣も物理法則に規制されている。
よって空中で軌道を変えることはできない。
斜めに青い剣線が走り、鋭い刺突が残像を残す。
「浅い! 後ろ!」
一体は
以前に戦った時も、魔獣はより脅威度の低い方を狙う傾向がある。
これまでは
抜けた一頭が向かう先に
「うおぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁ!」
過緊張の中で大振りに振るったポールは犬との距離も位置も合わず、彼はバランスを崩す。
その肩口に前脚をひっかけるようにして跳躍した犬は更に後方を狙う。その先に
大口を開けて迫る青犬に、
口から背中に抜けた一突きは犬の勢いを殺し切れず、牙の先端が
だが、犬の一矢はそれで終わった。
死亡判定が下され、光の粒子となって霧散する。
「
「
青犬の攻撃開始から数秒足らずの一瞬の攻防が済み、
「だ、大丈夫だ」肩を抑えながら
「あたしも、だいじょうぶ」
「血が出てるじゃない!」
「……俺の肩、なんともなってない?」
「犬の爪や牙くらいなら、隊服で防げるんだ。でも、露出してる部分は完全には防げない」
これまでの二か月、安全マージンを取っていたし、先輩方のフォローもあり、誰かが怪我をする場面は存在しなかった。
「え? なんで?」それは
そんな驚きに満ちた、間が抜けたような声を聞いたのは初めてかもしれないと
そして、その理由の元を見る。
左手で撫でさする右手には、その出血をもたらしたはずの傷痕が見当たらない。
「これがあたしの技能“応救処置”って言うの。初めて使ったんだけどね」
ばれてしまったか。これが除隊騒ぎまでした原因です。特別な力。山の幸。
優越感とも、罪悪感ともとれる表情に加え、疎外感も浮かんでいるように思える。
「す、すげえ! なにそれスゲエじゃん! え、自分だけ治せるのか?」
実際に、武具という“山の幸”に触れていた
「え、いや、自分だけじゃなくて、他の人も治せると思う」
「ホントだ、血の跡はあるのに、どこにも傷跡がない。すげえ、すげえよ……」
「あ、あのちょっと、
「はっ! あ、ゴメン俺つい興奮して!」
浮されたように恍惚の表情で
「でもほんと凄いね。どのくらいの治療ができるの?」
そんなやりとりのおかげで冷静さを取り戻した
「なんとなくだけど、致命傷じゃなければ、なんとかなると思う。腕が取れても、生やすことはできないけど、くっつけることぐらいはできると思う」
「治癒の魔法ってやつか。とんでもないな」
「山核の中だけだけどね」
これまで負傷した場合の選択は、緊急下山一択だったのだ。
それが、こんな一瞬で治療できるのであれば、山核内での行動継続性はまったく違う状況になるだろう。
「それはそれとして、さっきはゴメン。判断が甘かった。二人は元狩猟隊だったのにね」
初めてということで戦術に組み込まなかったことを詫びる。
「そりゃ、まあね。装備は違うし魔獣の種類も違うけど、一応二か月程度はちゃんと訓練もしたからね」
ただ、技能を手に入れてから多少なりとも気持ちにゆとりがあるのも事実だ。
それがあったからこそ、カモン岳で
「……俺は、ダメだな。何もできなかった」
この特製の隊服を着ていなければ先ほどの攻防で死んでいたかもしれないのだ。
そして、剣を振るような行為、ましてや動いているものに当てるという芸当は簡単なことではないという事実に打ちのめされていた。
「なかなかマンガやアニメのようにはいかないってことさ」
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・新人四人のチームに襲い掛かる魔獣。開と百合香はそれまでの連携で倒せると考えたが、魔獣は弱いユニットに狙いを定めた。優実はそれまでの経験を活かして倒すことができたが負傷する。そして“応救処置”という技能が発動した。
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