第4話 ハルナ山核隊の会議
ハルナフジの麓に建つ、ハルナ山核隊本部四階にある会議室では、五人の男が円卓を囲んでいた。
ハルナ山核隊総隊長の
ハルナ山核登頂隊隊長の
ハルナ山核狩猟隊隊長の
ハルナ山核救助隊隊長兼第一隊隊長の
そして、
スーツの
「それでは会議を始める。いつも通り記録は取らないが、何を言ってもいいというわけではない。発言にはそれなりの責任を持ってもらう」
総隊長の
ちらちらと
「まず初めに、先日のカモン岳の攻略についてだが、承知の通り全滅という結果になった。まず登頂隊、
「五合目までは予定通り、五つの中隊、連なる十の小隊の連携は悪くなく、カモンの狭い登山道でも縦列を維持して進めました。五合目までで戦力は九割を維持できました」
「五合目から対応できなかったと?」
「我々と狩猟隊の連携がうまくいかなかったのは事実です」
「それはウチの責任って聞こえるんだが?」
「我々は、魔獣との戦闘は最小限に留め、上を目指すと言ったはずですが、狩猟隊の面々は数で押してくる魔獣を狩ることを優先した」
「青兎や黄猫だぞ? 脅威度の低さを考えればじっくり殲滅しながら行けたはずだ」
登頂隊が一名、狩猟隊が四名という構成の小隊なのは、登頂隊の露払いを狩猟隊が受け持つという考えからだったが、倒しやすい魔獣の群れに狩猟隊のメンバーが討伐に拘ってしまっていた。
「その結果として行軍は途切れ途切れになり、脅威度の高い魔獣が現れた結果、ろくに連携もできず殲滅されたという結果に至った訳だ」
全隊が敗走したのは事実なのだ。
「それにしても、小隊長がパーティメンバーの緊急下山を確認せず、先に逃げ出すケースが多数あったのは問題だと思いませんか?」
救助隊の
「……登頂隊は普段から個々の判断を尊重していたため、それが無意識で出てしまった。その件に関しては事前の取り決めに反したと謝罪しますが、我々が一人に対し狩猟隊が四人。判断を下す前に脅迫まがいの圧力を受けたのも事実です」
「ウチが粗暴だと? これだから緊急時の素早い判断もできねぇ軟弱クライマーにリーダーを任せるのはイヤだって言ったんだ」
「結果に対して事前の取り決めをどうこう言っても始まらんだろう。それを反省して次に活かせ」
「……次が、あるんですか?」登頂隊、
今回の作戦はそもそも、ハルナの三隊が持つプライドの高さに起因するものだった。
多くの隊員がそれなりの経験を積んで、日本の各地に派遣される。そういった修行の場であることを許容する雰囲気があったにも関わらず、そんなエリートさんがハルナの八峰に対し一つも解放できていないのはどうなのだ? という関係省庁の単純な問いに意地を見せたと言える。
「どうかね、
「山核庁としてはなんとも。今回の件はこちらが指示したものでも、依頼したものでもありませんからね。ただ、元々は現場サイドの要請に応じて新入隊員も増やした訳で、少なくない予算も動いてますからね。その渾身の結果が敗走では、今後の方針等も現場主体というわけにはいかないのでは? と個人的には思いますが」
「くっ、元はと言えばあなたが焚き付けたのでしょうが」
「さあ、記録が残っていないのでなんとも。ただ、そろそろ口だけじゃなく実績を残されてはいかがですかとご提案をさせていただいただけですが」
「とりあえずきみの見解は抜きとして、上の意向を知りたい」
「公式に言えば何も変わりません。今回のことも一つのケースとして処理をします。大規模な攻略作戦として貴重なデータが取れたのは事実ですからね。ただ、これだけの労力を割いても攻略ができないとなると、別の山を目指す流れになるでしょう。そもそもハルナは氾濫が起きません。氾濫が常態化している大型の山を解放したほうがずっといいでしょう」
「アカギかな?」
「ええ“裾野は長しアカギ山”とご当地カルタでも呼ばれているように、あの山の山核範囲は広すぎる。約700キロ平方メートルのエリアを解放することは人々にとっても大きな魅力でしょう。それこそハルナの一つを解放するより、よっぽどね」
「アカギ山核隊の連中だってあそこの解放が急務だなんてことは百も承知だ。ただ、範囲が広すぎるだろうが、同時攻略で魔獣を分散させようったって、上に登るまでに何日かかると思ってるんだ」
「そうだな。登る距離だけで言えば、ハルナの山々は二、三時間もかからないが、アカギの場合山核範囲が広すぎる」
「それが突破口になるかもしれないという話です。山核の持つ力が同じだとすれば、その範囲が広ければどうなります? 山核が限られたリソースを一合目あたりに集中させているとしたら?」
「魔獣の群れは麓だけ? そこさえ突破できれば、後は登るだけか?」
同時に
非公式の会議が終わり、会議室には
「本当なのか? 山核の力が均等というのは」
「まあ、嘘ですね。山核によって規模も特性も違う。なにより山核の性格が全然違いますよ」
「また、失敗させるのかね?」
「アカギで失敗しないための、ハルナでの失敗です」
「きみ的には重要な意図があるのだろうが、計画段階くらいは被害の想定はしないでもらいたいものだ」
「今回だって犠牲者はゼロだったでしょ?」
「……なるほど。今回の真の目的は、救助隊の実績を積み上げるためか」
「いやだなぁ。偶然ですって。ただ、アカギの攻略のとき、きちんと第五を推薦してくださいよ?」
「それだけでは推薦理由として弱くないか?」
「なんでもいいんですよ。例えば強大な技能持ちが敵に回ったときに第五の力が必要だとかでも」
「技能持ちとの戦い……神山のことなら、ヤツは行方不明なんだろう?」
「上はそうは見ていませんね。何が起きるか分からないと予測するのは危機管理としても重要ですからね」
「まったく……
「ああ、
「きみが個人的に預かるって言うから除隊の手続きも済ませたんだぞ?」
「それじゃあ山核庁からのごり押しで、監視対象を救助隊に中途採用させるということでどうです?」
「監視対象? 彼らの何を監視するというのかね」
「彼らが山核で得た褒賞について、ですよ」
=========
・ハルナ山核隊の偉い人たちが非公式の会議を行った。
カモン岳侵攻作戦の失敗や今後の方針を話し合ったあと、山核庁の立場から卓磨は総隊長に配置転換の依頼を行う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます