第32話 下山、そして
「お帰りー」
「お帰り」
「お帰りなさい」
「遅かったな」
登山口の前。
「ただいま戻りました」
「ずいぶん仲良しになったわねぇ」
同時に頭を下げた
「そ、そんなことより、これって全部テストだったんですね」
赤面も一瞬、恥じらいを隠すように
「合格、おめでとう」
「え、あ、ありがとうございます」
別の意味の赤面に変化した
「ちょろいな」
「ちょろいですね」
隊長と
「それで、説明はいただけるのでしょうか」
「お、こっちはちょっと怖いな。で、提案なんだがな、宿舎に帰らんか?」
「きちんと説明をいただけるのであれば」
「約束しよう。それではハルナ山核救助隊第五隊、帰還する!」
隊長は号令の後、さっさと駐車場に向かって歩いてしまう。
他の皆も続き、開と
「お帰り」歩きながら
一瞬キョトンとした顔をした
「ただいま。お帰り」と笑う。
自らの呪縛を解き放ってくれた存在。
それはたった一人の許しでしかなかったが、それでいいと
武具を使う理由、それは誰かを守る為でも、自分を守る為でもなんでもいい。
才能や身体能力や容姿と同じ、なんでそんな力があるか悩むくらいなら、有効に使う。
それが、彼を認めてくれた彼女の想いを尊重することに繋がる。
(
◆
宿舎に戻った面々は、説明が先! と騒ぐ新人を宥め、まずは休憩して昼過ぎに集合しようということになった。
昼過ぎの食堂には新人以外の四人が集まった。
◆
「さて、本日から本格的に訓練を開始するぞ、と言いたいところだが、新人二人はメディカルチェックな」
朝食の前、
「え、あの、説明などは?」
「ああん? その時間は昨日の午後に
「ぐっ、それは……」
とはいえ、入隊二日目で夜を徹した行動、しかもテストとはいえ山核内での戦闘行為もあった訳で、それを数時間の仮眠で回復させろと言う方が無茶だ。
つまり、隊長たちはまともに説明をするつもりはないと、
「たぶん気が付いていると思うけど、ウチの隊長はすごく説明下手なんだ」
「そーそー、指示のあれこれに対していちいち疑問を持っていたら頭がおかしくなるからね」
「お前ら失礼だな」
「でも最低限、説明はしておかないとね」と副長が続けて話す。
「想像の通り、一昨日の夜からの一連の出動は二人の最終試験に使わせてもらったの。ホントはもう少し先の予定だったんだけど、要救助者もいたからついでにね」
「それは
「あ、そうか、
「あ、俺はここの所属なので隊長から聞きたいです」
「ちっ、融通の利かないヤツ。まあな、ほらいろいろ言っただろ? 命の価値とか、救助の心得みたいな話をさ」
「はい。実際、全然守れませんでしたけど」
「わざとそういう状況に追い込んだからな。違法入山者、先輩、同僚、誰に対しどんな行動をするか、全部見てた」
その可能性は
知りたいのは合格の是非より、何が正しかったのか、だ。
「俺は正しい行動ができてましたか?」
隊長は
「なあ
「助けたいという気持ちですか?」
「行動決定までの速度だ」
「判断力とかじゃなくて?」
「何が正しいなんて行動の前には分からんだろ? 迷ってるなら動く、それだけだ」
「えっと、安易に助けるなとか、自分の命を守れとか、いざとなったら逃げろとか言ってませんでしたか?」
「組織なんだからルールはある。命に直結したり、危険を回避するってのは最優先になる。ただ何かを守ろうとする気持ちだけじゃダメだ。そこには確率の底上げが重要になる。それが教えだったり、訓練だったり、装備だったりするんだ。今のお前ができる最大の結果を出せばいい。ただな、バンザイアタックはなしだ」
「バンザイアタック」
それは
「後先考えろってことですか」
「慣れろってこと。例えば
「で、途中までは良かったけど力尽きた。じゃあどうすれば良かったと思う?」
「体力をつける」
「無駄な動きをしない」
隊長の質問に
「正解は……そんなものはない! だ。強いて言うなら、逃げる体力を見極めてそこまで頑張ったら逃げろ、だ」
「私なら遠距離攻撃でダメなら帰るかな」と
「私は、
「そんな……あんな配役を振って、その仕打ち?」
「冗談はともかく。魔樹を倒しても次に新しい敵が来るかもしれない。どんな状況になるかなんて誰にも分からない。だからあれこれ考えるんじゃねぇって話しだ」
「えっと、身も蓋もない話に聞こえるんですが」
「だから身も蓋もないんだよ。正しいかどうかなんて考えるな。まずは自分、次に手の届く範囲の誰か、余裕があれば範囲を広げる。それを前提とした上で行動すればいい」
「具体的に言うとね、
「
「後はおまけ。助けられたらラッキーくらいに思えばいいの」
隊長も
「山核救助隊なのに」
「山核救助隊だから、だ。俺たちの帰還率が100%である限り、俺たちの結果に文句なんて言わせないさ」
山核に入るお互いを要救助者と考え、自分と、大切な相手を守る。
難しいことを考えていたのがバカらしくなる隊の方針だったが、
恐らくは、そんな軽い話でもなく、彼らは懸命に職務を果たしているはずだ。
その上で、考えすぎるな、という新人に対する配慮も含めているのだろう。
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