第31話 双子山雄岳山頂
「よ、お疲れ」
山頂標の隣で朝日の逆光を浴びた
その光景は、四年前まで、どの山でも見られたごく普通の登山者の姿だった。
「
「登山日和だからな」
「……やっぱり、ハルナエリアが安全な理由って、そういうことなんですよね」
「まあとりあえず、これでも飲め」
立ち昇る湯気は、甘いココアの香りを伴い、疲れ果てていた二人はごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと口をつける。
「うまい……」「美味しい……」
「俺はさ、どんなに疲れていても、山頂から眺める景色を見て、あったかいココアを飲むと、また登ろうっていつも思うんだよ。まだ下山してもいないのにな」
「そして、現在、そんなささやかな楽しみを味わえる人は限りなく少ない」
「ここは、あなたが攻略したんですね」
「……でも、なんでまだ山核化してるの?」
「管理者……山核を利用して、山核に対抗できる人を育成するためですか?」
「いいや、素材集め」
「……素材って、だって解放すれば山は元に戻るんでしょ?
ここまでの疲れ、恐怖や緊張によって麻痺していた感情が甘いココアで蘇り、
「
「仮にそうだとして、俺はなんでそれを公表してないんだろう?」
絶対的強者に捕獲されたような感覚は、周囲の気体すらも重量を増したように思えた。
「そして、キミの洞察を後押しするかのように、俺がここに現れた理由はなんだと思う?」
その通りだ。と
彼はなんでここにいるんだろう。
無意識に助けてもらえたと思った。
でもそうじゃなければ?
「……口封じ、ですか?」
ココアで潤っていたはずの喉からは少し掠れた声が出る。
その言葉を聞き、
「はいはいそこまで。
声と気配は
緑色の、ポンチョのような服装、そのフードを上げ、
「……
「まさか、転移とかですか?」
思えば入山許可証には強制下山機能があり、それはまさしく転移なのだ。山核の管理者ならばそんなことも自由にできるのかもしれないと
「んー、実はずっとここにいたのよ」
「ここに? だって、そんな」
「隠蔽、ですか?」
「気配遮断コートって呼んでるよ。山核内ならほとんどばれない」
「暗殺し放題?」
「まさか。じっとしてないと効果が薄いのよ」
「これも、試験ってことですか?」
「試験?」
「うん。たぶんだけど、これ隊長たちも知ってますよね」
「なかなか察しがいいな」
「え、隊長たちもって、今までのこれって全部、仕組まれたものってこと?」
「セイバーとしての心得を諭して自己犠牲なんかじゃだめだって伝え、入山許可証をちらつかせてそれを渡さず、決して山核に入るなと指導される。その上で目の前に要救助者を餌にして俺たちを山核に飛び込ませる」
「じゃあ、
「おいおい人聞きの悪い。あいつらは正真正銘の違法入山者だ。おかげでいろんなことが前倒しになった。ま、利用したのは事実で、結果オーライだったがな」
「結果オーライ? 人が傷ついて、あんなに怖い思いをさせて!?」
体は疲弊しきっていたが、
「言っておくがな、この計画に利用しなかった場合、あいつらは人知れずに死んでいたぞ? 前日にたまたまハンターのバカが入山騒ぎを起こして、こっちが警戒を続けてたから見つけられたんだ」
だが、
「それでも、もっとやり方はあったんじゃないですか?」
「そうかもな。でもな、山核や要救助者はキミらの成長を待ってはくれないぞ?」
「二人の気持ちも分かるんだけどね、私たちの気持ちも理解してほしいんだ」
「
「可愛い姪っ子がセイバーになりました。がんばってほしいけど、大丈夫かな? 怪我とかしないかな? 今のままで山核に対応できるかな? できればずっと見守っていたいよー、って気持ち」
「もう、子どもじゃないよ」
「そうよ。あなたは一人前。でも、あなただって
実際に、二人でここまで登る途中、相手のために死ぬわけにはいかないと思い続けていた。
何よりも生きる意志、生き残る意志を持つことでここまで来れたと気付く。
守るとは、生きているからこそ果たせる手段であり、自己犠牲の果てに誰かを助けたとしても、もう二度と、その人も他の誰かも守ることはできないのだ。
「キミたちは未熟かもしれない。でも、生き残る意志を忘れなければ、後は俺たちに任せろ。俺たちの創る装備は決してキミたちを死なせない」
「でも、未熟でもね、誰かと一緒なら意外と乗り越えられるものよ」
「俺が
「私が
二人同時に発した言葉に、なんだか可笑しくなって二人で笑った。
「さて、登頂記念を渡しておかないとな」
「これは、入山許可証?」
KAI YAMAGIWA、YURIKA SUSONOとそれぞれの名前が入ったカードを受け取り凝視する。
「なんで、
「カード発行装置も、お二人が創ってるんですね」
「さてな。使い方は
顔を見合わせた二人は
「使わせてもらいます」と声を揃えた。
「そうだ、キミにはこれも」
「これは?」
「これからもセイバーに集中できるためのパスポートさ。親父さんに飲ませてやりな、
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