第18話 お守り
「はい、いらっしゃい」
ドアから顔をのぞかせた
「お邪魔します」
「いらっしゃい」
二人が挨拶をしながら殺風景な部屋に入ると、前回と同じ場所で
「先日は、装備をありがとうございました」
私服の上着を脱ぎ、紺の隊服姿を晒しながら、予め車内で示し合わせていた感謝を
私情はどうあれ、二人が隊の訓練を開始できたのは
「俺がキミにやった訳じゃないさ。俺は
「経緯はともかく、私たちが訓練開始できたのは事実です。ありがとうございました」
少しだけ憤慨したような声を隠さず、
「二人とも、隊服似合ってるよ。で、どう? 着心地は」
「うん、すっごく快適。サイズもぴったりだし、暑くも寒くもないし、ずっと着ていたいくらい」
「女の子なんだからおしゃれは忘れずにね。まあ確かに、それは一年中着てられるけどさ」
「一年中? さすがにそれは……」
「ふふふ、それが着れるのよね~」
「防汚、防汗、防臭、とにかく汚れや異物が付着するってことがないからな、基本的に洗濯が不要なんだ」
「それだけじゃないし~」
そういったやりとりからも、この隊服が普通じゃないことを証明していた。
「えっと、これは
「いいよ。隠してるつもりもないし、もっとも大っぴらにしてる訳でもないけどね」
「俺たちは、いろんな特別なモノを創れる。それをハルナに提供してる。今のところはそんな理解をしていてくれればいい」
「じゃあ、もう一つだけ。山核内で得られるものって、山核内でしか使えないって聞きましたけど、二人が創る物が外でも使える理由ってなんですか?」
「前提として、山核内で得られたモノが山核内でしか使えないって話が間違ってる。ただそれだけだよ」
そう
彼の視線を居心地悪く感じ、
やはり、この男は俺の秘密に気付いている、と。
「山核で得た力を、平地で使えるとなると、それを使った犯罪とか起きると思うんだけど……」
「マジックバッグとか?」
「うん……」
「大丈夫よ。私たちの創るモノは、使用者権限が付与されてるの。権限を持たない人は、それを持っても機能は得られない」
「そうなの?」
だが、それは彼らの創るモノに限っての話と聞こえた。
「お二人が創るモノ以外ではどうですか? 悪用されたりしないんでしょうか」
「武器とか、かな?」
「……ええ、どっかの誰かが山核で武器を手に入れて、それを私利私欲のために使ったら、どうなります?」
「神山事件の話かな?」
「神山事件? あれは大氾濫を一人で防いだって英雄の話ですよね」
隣のT県で起きた大氾濫。そこに対峙し多くの市民を守って行方不明となった男の逸話は英雄譚として語られ、多くの若者が山核を目指す動機になっていた。
「英雄ねぇ。まあ別に、使いたければ使えばいい。山核の外で異能を使えば、それは山から降りた魔獣と同じ。氾濫だ。平地なら人間の武器はたっぷり使える。山で得た武器がどんなに強くても対抗できると思えない。そんなデメリットしかないモノ、使いたければ好きに使えばいいさ」
「山で得た力を行使するのは、氾濫と同じなんですか? じゃあ、下界でその力を使って装備を創るあなたたちの行為も、氾濫と同じなんですか?」
創るモノに使用権限を与えていると
挑発されている。それもきっと意図的な挑発だと理解している
それが自身の秘密を暴かれる結果になったとしても。
そのせいで、
「俺たちの行為が氾濫? 氾濫とは山核外に降りる現象だろ? 俺たちがいつ、山核外で能力を使ってるって言った?」
「え? それは……」
「俺たちの成果物は確かに外でも使える。ただ
山で得た力を利用することは罪ではない。
「
「そこはないって言い切れよ」
この穏やかなやり取りが、恐らくはこの二人の素であると
だからこそ、
そして、大事な姪が、そんな男の側にいること。それが許せないのか、何らかの覚悟を示せと促されているのか、確かめるのが怖かった。
それは、
「だって言い切ったらさ、これを
「ただの、物入れだろ?」
「そう。ただの物入れ」
二人はそんなやりとりをして、
「物入れ?」
両手で、
「そうよ。約束の品。セイバー合格おめでとう」
「……開けても、いい?」
「どうぞどうぞ」
それはきっと拡張が付与されている。
しゅるり、と口元の紐を解き、口を開いた
「何もない」と呟く。
「だから言ったでしょ。ただの物入れだって」
「納得できない」
「まあまあ、強いて言うなら、お守りかな?」
「お守り? 何も入ってないのに?」
「今はただの物入れ。でも、あなたが本当に困った時、あなたを助けてくれるお守り」
「よく、分からない……そうだ、そもそも今日のお使いってなに?」
「それをあなたに渡すのが、今日のお使いよ」
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・開は山核で得た力をどう使うのか卓磨に問いかける。二人は非公式に公式な立場と答え、百合香は真理に「お守り」を貰った。
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