第14話 訓練初日の夜
「どちらを救うか選ばなくちゃいけないってこと?」
「もしくは、自分だけでも逃げる、って選択もあるってこと」
守りたい。
「らしく、ないっていうか、
「私たちはセイバーで、望んでこの立場になったでしょ? 危険はそもそも承知の上だし、覚悟だってできてるつもり」
「いや、だって、仲間なんだから優先して守らなくちゃ……」
「時には何よりも自分の身を守るの。一人で逃げ出したとしても」
「俺たちは、セイバーだろ? できることをするべきだ!」
「助けたつもりで全滅するより、たった一人でも生き残る。自分の命だけでも助ける。それが救助隊の本質だと思うんだけどな。
少しだけ感情的になって大きな声を出してしまっていた
(ヒーロー? 俺が?)
「俺は、誰も助けていない。助けようとすらできなかった。助けられて……だから、助けたくて、俺は」
「
今日初めて出会った同い年の少女。
小柄だけど、芯の強さがあり自分の意見もしっかり持っている。
何より、例え親戚と言えども、あの気難しそうな男の試験を一回でクリアしている。そして、同じ立場だからといって
その少女が、真摯な目で
でも、この少女からは、久しく感じた事のない暖かな情のようなものを感じていた。
それは、命の危険が付きまとう職場の、リスク回避のためのコミュニケーションかもしれなかったが、
「……俺が焦ってるのは、時間がないからなんだ」
「時間? なにかの期限があるってこと?」
「ああ、親父が、ずっと昏睡状態でさ、病院から、あと一年後には退院してくれって言われてる。俺ん家はさ、
病院も、施設も常に定員オーバーな状態が続いている。
一軒家を持っていて家族がいれば、患者の状態に関わらず強制退院が当たり前だった。
「お父様の昏睡って?」
「あ、うん。山核内でさ、魔獣に襲われたんだ。それっから三年以上ずっと入院してる。他にばあちゃんがいるんだけど、足を悪くして施設に入ってる。こっちはずっと見てもらえるみたい。お袋は、ずっと前に死んだ。他に頼れる親戚はいないんだ」
「だから、治療薬とか、ドロップ品とかって言ってたのね」
「ホントかどうか分からないけどさ、治療薬っていうのが外傷を直すんだっけ? 回復薬が病気とかに効くとか、そんな噂があるじゃん? 治るのが一番だけど、もしダメでも何らかのドロップアイテムが売れれば、そのお金で個人病院に移れるかもしれないしさ」
真実はさておき、
命を預けることになる仲間の行動原理は、いざという時の判断材料になる。
それに、目的が明確なら、陰ながらサポートだってできるはずだ。
「その話、隊長やみんなにもしてみたら? 少しは配慮してもらえるかも」
「いや、そこは黙っておいてよ。一応、面接の時も、ひょっとしたら一年で辞めます、なんて言ってないからさ」
自分の置かれている立場を正直に話して通るほど、三隊の試験は簡単ではなかったはずだ。
もし言うとしても、言うべきタイミングが巡ってきたときにする。
その判断だけは、間違えないようにしようと
「分かった。誰にも言わない。でも、
真剣な眼差しに見竦められ、
こんな風に真正面から真剣に対応してくれたのは、高校の担任、
彼のことは恩師と思えたが、
恩人? 友人?
「ありがと。いい同僚に巡り合えて、嬉しいよ」
それから訓練の続きを済ませ、周辺の探検や観察を、雑談と共に過ごした16時10分、隊の四人は無事に山核から下山した。
◆
宿舎に戻り、簡単な歓迎会を伴う夕食を済ませ、
備え付けの椅子に座り、救助隊としての初日を無事に終えた事に安堵する。
(それにしても、濃厚な一日だった)
顔合わせ、イカオへのお使い、物部設計事務所、
ついでに大量に振舞われた夕食の料理を思い出し、満腹の腹をさする。
(風呂に入るか)
ユニットバスに湯を溜めている間、ずっと着ていた隊服を脱ぐ。
そういえば、サイズもぴったりだし、着心地の違和感もなかった。
訓練で走った時も、発汗による不快感は感じなかった。
隊服の裏面も、自身の体表も、汗による汚れやべとつきもなく、臭いすら自覚できない。
腕の匂いを嗅ぎながら、素肌の両腕に浮かぶ痣が目に入る。
手首の上から、肘の手前まで、真っすぐに走る黒い線。
どんなに目を背けても、その痣が刻まれた事実は変わらないのに、
山核を解放し、技能を得たという
まだ拡張バッグしか見ていないが、あれだけを見てもその力が尋常でないことはよく分かる。恐らく、この隊服にも何らかの秘密は隠されているのだろう。
そんな力の誇示は、彼にとって不利益にならないのだろうか。
(利益を与えられるからか)
百合香が言った、彼の持つ“道具設計”という力は、それを必要とする多くの人に利益を与えられる。だから、彼は監視もなく自由に暮らせているのではないだろうか。
(俺は自分を守ることしか考えていない)
同時に、自身の真実を
山核発生は、多くの犠牲者を出した。そこから始まった食料難と貧困は、治安の悪化を呼び、いまだ多くの犠牲者を出し続けている。
山核で得られるメリットは大きいが、だからこそ、その恵みを享受している立場は、弱者から疎まれる。
(だから俺は、山核に関わり続けなくちゃいけないんだ)
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・開が山核に拘ったのは、昏睡中の父親のためだった。彼を救う薬品を手に入れるか、介護しなくて済むだけの大金を手に入れる。その期限は一年しかないらしい。
ただ、彼にはまだ秘密があるようだ。
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