第9話 卓磨の試験
「いやあ初日から濃厚で結構なことだ」
「警察から身元確認の連絡、ビックリしたのよ?」
「すみませんでした」
イカオ温泉からハルナレイクまでの10分程度、なんとなく照れ臭さを感じた二人はあまり話もせず、お使いの顛末を説明するための口裏合わせもろくにしていなかった。
結果、ほぼ一部始終を説明する羽目になり、途中からは食堂で昼食を摂りながらの事情聴取となった。
ちなみに宿舎での三食は、好きなモノを選ぶのではなく決められた献立だった。
今日のお昼は、わかさぎフライ定食。
ご飯とお味噌汁はお代わり自由。
「でもまあ、同級生とのトラブルはともかく、
「ほんと、羨ましい。私たちの時なんて挑発された果てに叩き出されたもんね。お使いも果たせずに」
「通過儀礼ってヤツだからな。おかげで今、生きてるだろ?」
そんな先輩二人の会話に
一応反省している
(俺だけじゃなく、
心構えを確認するテストみたいなものか、と理解しておく。
「そう言えば、お使いって、空のバッグを受け取ってきただけですけど」
「
「六月の梅雨入り直前でしたね」
「八回目よ! 八回!」
隊長の笑いかけに
「あの、よく分からないんですけど、それを持ち帰るのに八回もお使いに行ったんですか?」
「そうよ。文句ある?」
「
「僕らの同期、四人辞めたからね」
「参ったよな、いったいどんな訓練をしてるんだ! もうお前らんとこには新人は回さん! なんて本部に怒られるしなぁ」
「えっと、他の隊ではお使いってしてないんですか?」
親戚として責任を感じたのか、
「ウチだけなのよ。隊長と
「辞める理由がはっきりしない?」
「そ。
「……確かに、自分はこんなに怒りっぽいのかと驚きました」
正直に言えば、頑なに隠そうとしていた真実が口から出かかったのだ。
「後になって冷静になるとね、なんであんなに感情を剥き出しにしたのか分からなくてね。行くたびにそんな感じでいつまでもお使いが終わらないから、同期の連中、訓練が激しすぎて、なんて自己弁護しながら辞めていったんだよ」
挑発されて言い返すことが続いて嫌になって辞めました。なんて確かにはっきりしない理由だろう。
じゃあ自分はなんでその試練を一回でクリアできたのだろう? と
「なに?」
「……そっか、納得」
「なによ、一人で納得して」
「
「実際に口に出されると何とも言えない気持ちになりますね」
「それって私が親戚だから優遇されたってことだよね」
「いや、たぶん違う。
「そうね。もうすでに一人前って認識を持っていた」
「そんなの初日で気付ける新人なんていませんって」
隊長や副長が言う
「それ、実は、ずっと前から
自分の置かれた立場によって得られた優位性を恥ずかしそうに
「経緯はいいんだ。大事なのはお前らがこれを持ち帰ったって事実だけ」
「あの、それってどんな意味があるんですか?」
状況は分かるけどいろいろなことがはっきりしない説明不足を感じ、
空の布バッグが意味するものは一体何か、思わせぶりな話はあまり好きじゃなかった。
「まあ落ち着け。ちゃんと説明する。いいかお前ら、さっきも話したように、新人の最初の任務はこれを受け取ってくることなんだ。それからやっと本格的な訓練に入る。そのために必要な試練だったわけだ。ちなみに他の隊ではこんなことはしない。訓練し、状況に合わせて山核にも入る。先に入山証明証を取得させる隊もある。その辺は各隊の隊長に一任されてる。で、俺の隊はどんな理由があろうとも、これを持ち帰らないヤツには先に進ませない。それが嫌で辞めるならそれは仕方がない。なぜなら、俺たちは絶対に自分自身を大事にしなくちゃいけないからだ」
「隊長、堅くて長いー」
「うるさいぞ
「面倒なのでパスー」
「続けるぞ。ウチの隊は辞めるヤツも多いけどミッションの成功率だって五隊の中でトップだ。そしてなにより生還率が高い。これは何を意味しているか分かるか?」
「……セイバーは要救助者になってはならない」
「
『セイバーにとって何より優先されることは、まず自分自身を大事にすることだ。自己犠牲は責任の放棄に他ならない』
「まずは心構え、お前らは一人前だ。俺らとの違いは能力や知識、経験の差があるだけ。それが分かった奴に、合格証の代わりに
隊長は布バッグの底面に隠されたジッパーを開ける。
そこからまるで手品のように、いくつもの物品が引きずり出される。
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・物部設計事務所へのお使いは、訓練を開始するための試験だった。ちなみに去年の先輩二人は八回目で合格した。
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