第5話 物部設計事務所
目的地に辿り着き、ワクワクしたような笑顔を浮かべた
『はい。どちらさま?』
数秒後、落ち着いた女性の声が聞こえる。
「あ、あの、私、ハルナ山核救助隊の者です」
『……あー、なるほど。ちょっと待ってね』
女性の声に柔らかさが宿る。
すぐにドアからカチンと金属音が鳴り、外開きのドアがゆっくりと開く。
ドア越しに、長い黒髪のメガネをかけた女性。年の頃は二十代中盤くらいだろうか、少女と大人っぽさが混じったような雰囲気と
「
「
大人の女性に見とれていた
(え? なにごと?)
「いやー、セイバーかぁー、うんうん良い選択だ。お姉ちゃんもちっとも教えてくれなくてさ、
「えへへ、驚かそうと思って。でもまさかこんな形で会えるとは思ってなかったよ」
「ああそうか、第五隊なのか。
「
「はいはい。約束ね、分かってるよ。おっと、こちらの少年は?」
呆気にとられて傍観していた
「あー、
「えっと、ハルナ山核救助隊第五隊、
「初めまして。
膝下まで伸びるデニムのワンピースに暗めのスキニージーンズと白いスニーカー。身長は165センチほどで
肩下まで伸びた黒い髪がサラサラと流れる。
(綺麗な人だな……)
これまでの人生で、同級生以外の女性に接する機会がほとんどなかった
「あら、
そんなからかいも、
「おーい、とりあえず中に入ってもらったらどうだ?」
家の中から張りのある男性の声が聞こえる。
「そうね、二人とも中にどうぞ」
室内は12畳ほどの無機質な部屋だった。
家の外観は洋風の、ペンションと言っても通用するような温かみを感じさせたが、この部屋はコンクリートの壁がむき出しのまま、窓も一か所のみ。奥に通じるドアと部屋の中央に置かれた大きな木製テーブルだけが暖色で目立つ。
それ以外には、部屋の左右の壁際に二人掛けの黒いベンチが二つずつあるだけの部屋だった。
大きなテーブルの向こうに、三十代くらいの、長身でメガネの男性が立っている。
「
「
男は、黒いシャツに襟なしのジャケットを羽織り、柔らかそうな笑顔で
タクマと呼ばれた男は、
「
「や、
猛獣のような得体のしれない迫力を感じた
「うちは基本的に打ち合わせなんかも立ってやるの。疲れたらベンチに座ってもいいけど、お茶を飲むのもこのテーブル上なのよ」
テーブルの高さは一メートルほどで、上にはポットや四人分の茶器が置かれていて、
緑茶の銘柄なんて分からない若い二人だったが、漂う茶葉の香りは心からリラックスできる、そんな穏やかな香りに思えた。
長方形のテーブルの奥側に
「どうぞ」と
「いただきます」
二人とも疲れていたほどではなかったが、特に
「美味しい!」二人同時に感嘆の言葉を漏らす。
「でしょ? いい茶葉が手に入ってね。今じゃお茶っ葉だって貴重だもんね」
日本茶だけでなく、コーヒーや紅茶といった嗜好品の類は生産の優先度が低かった。
ただでさえ居住可能地が限られ、多くの人が高層住宅や公共施設、いわゆる箱物で共同生活を続けているのも、作物の作付面積を増やそうとする政府の意向があった。
土地は厳格に管理され、生産する作物も気象風土に合わせた適切な管理が行われ、主食や主要栄養素以外の生産は自由に行えなくなる一方だった。
未だ政府の管理下に置かれていない土地や、家庭菜園程度に細々と作られる嗜好的農産物は市場には出回らず、個人間の取引を通じ高値で販売されていた。
「それにしても、
「それはだって、
「いくら私たちが勧めたところで、実際にセイバーになれたのは
「だな。今期のハルナで言うとセイバーの新人は20人もいないんだろ?」
「はい。他の隊は4人ずつ、ウチは私と
「あー、
「そういえばウチの隊長って知り合いなんですか?」
「ああ、俺の友人。大方、
「でも良かったんですか? これまでだってどこに住んでるのかって教えてもらってなかったのに」
「イカオに設計事務所を構えてるってのは言ってたでしょ? そもそもここに昔から住んでる人以外は、今じゃここまで来るのも大変なんだし」
「ところでキミ。キミはなんでセイバーになったんだ?」
そんな
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・隊長に指示された目的地は「物部設計事務所」そこには百合香の叔母、真理と切磋卓磨という男がいた。
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