大きな顔の絵

 大きな顔の絵を、家の壁に描いた。

 祖父には呆れられ、祖母にはぽかんとされた。お父さんとお母さんには怒られた。妹と弟は、そんな私を指さして盛大に笑っていた。多分、兄が帰ってきたらその時にも怒られるのだろう。お義姉ねえさんはどんな反応するんだろう。


 大きな顔の絵は、迫力ある感じに描けたと思う。

 白に寄ったクリーム色の壁に、濃い青と緑とオレンジで描いた。黒は嫌いだし、白や黄色だとピカピカして道を通る人の目に痛いかなと思った。

 その点、濃い青ならほどほどの可愛さがあるし、照り返しもあまりないだろう。緑は目にいい色だって聞くし、オレンジも可愛い。あと、一個くらい明るい色を入れないと顔の人が可哀想だと思った。だから、濃い青と緑とオレンジだ。


 反抗期は9年くらい前に過ぎ去った。

 ストレスフルな日々を過ごしてはいるけれど、物に当たるほど子どもでもない。そこまでむしゃくしゃしたわけでもない。

 たしかに工事現場が近くて、たまに怒鳴り合う声は聞こえている。時々、喧嘩してるんだろうなーって声も周囲の色々な家で聞こえる。たまの息抜きに向かったカフェでは、マスクをつけずに大声で話す集団と隣り合ったりする。近所の猫は体調が悪そうだし、近所の大きな犬は夜明けまで吠え続けたりしている。

 でもまあ、物に当たるほどでもないのだ。第一、家族のことは好きなのだし。


 だから、強いて言うのなら運動不足が気になったとか、なんとなくとか、そういう変な理由になってしまうのかもしれない。私にも理由なんて特には分からない。


 ただ、私をイライラさせる人をちょっと合法的に怖がらせる方法ないかなーと思った。駅の巨大看板を見て「あ」って思った。

 口を大きく開いて、目を大きく開いて、シンクロナイズドスイミングの人みたいに笑った顔。これを家の壁に描いたら道を通る人が静かになるかな、なんて。


 怒られちゃったけど。

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