20 狩り大会②
狩り大会は各クラスの代表者12人が参加する。
円形の闘技場に選手が中心に向かって時計の針のようにぐるりと取り囲む。そして開始の合図とともに、中央の魔法陣から魔獣が飛び出して来るのだ。
魔獣といっても生徒が対応できるくらいの低級モンスターで、万が一のときのために回復専門の魔法使いも待機している。それに魔法騎士団長も来賓しているし、安全は確保されていた。
私はくじを引いて9番目の位置に待機した。フレデリック様は真正面の3番の位置だ。侯爵令嬢は私の右隣の8番。……はぁ、あまり隣は見ないようにしておきましょう。
開会式のあとは番号順に選手の紹介だ。
フレデリック様と侯爵令嬢のときは惜しみない拍手や声援が送られ、私のときは案の定ブーイングが起きた。……あら、グレースたちも堂々とそれに乗っていたわよ。やっぱりね。演技をするのなら最後まで徹底しなさいっての。
審判が定位置に立つと、ざわざわとした応援席も静まり返り、ピリリとした空気が選手たちを呑み込んだ。
もうすぐ始まる。
私も胸がドキドキと鳴り始めた。こういう大会は初めてなので、どうしても緊張してしまう。身体がどんどんカチコチになっていくのを感じだ。
ま、不味いわ。どうにかして緊張を解さないと……。
ふと前方から視線を感じると、フレデリック様が笑顔でこちらを見ていた。目が合うと、彼は口を開いた。
リ、ラッ、ク、ス。
遠くで声は聞こえなかったけど、唇の動きでそう言っていると確信した。
私は大きく深呼吸してからフレデリック様にに向けて頷く。彼も頷き返した。途端に気持ちが和らいだ気がした。
よし、やれるわ。
「始めっ!」
時間が来て、審判が合図をした。
すると、中央の魔法陣から堰を切ったように魔獣が湧き出て来た。それらは大型犬くらいの大きさで、ギラギラした尖った銀色の毛は鋼のように固そうだった。
これは闇雲に魔法を放っても強固な毛並みに跳ね返される可能性が高いわ。ならば、急所を狙うのみ。
私は魔獣に向かって前進しながら自身の周囲に十数本の氷のナイフを出現させた。
「行きなさいっ!」
氷のナイフは狙いを定めたように魔獣の群れに飛んで行って、
「ガアァァァァァッ!!」
それらの目玉に突き刺さった。あっという間に十数匹の魔獣が倒れる。
やったわ!
――と、
勝利の喜びに油断していると、今度は魔獣が背後から私に襲いかかって来た。
私は瞬時に手から細長い氷柱を出して魔獣の喉元に突き刺す。一撃。よし、この調子!
魔獣は無尽蔵に湧き出てくる。これは瞬発力と判断力が試されるわね。……気を引き締めてかからないと!
にわかに、隣から大きな爆発音がした。ハッとして音のほうに目を向けると、侯爵令嬢の魔法が炸裂したところだった。わぁっと大きな歓声が上がる。たくさんの魔獣がぷすぷすと黒焦げになって倒れていた。あれは炎系の魔法かしら? 物凄い威力だわ。
俄然、やる気が湧いてきた。私も負けてられない。侯爵令嬢みたいに広範囲の魔法を使うのもアリね。
私が目の前の魔獣を仕留めようとしたその時だった。
「えっ!?」
近くにいた他の生徒のほうに向かっていた魔獣数匹が突然ぐるりと向きを変えて、私に向かって突撃して来た。
「氷よっ!」
私は慌てて地面から連続で氷柱を出してそれらを串刺しにする。
ホッとしたのも束の間、今度は反対方向にいる魔獣も引き寄せられるようにこっちに向かって走って来ていた。魔獣たちの目は怒り狂い、明らかに私に憎悪を向けているような雰囲気だ。
どういうこと? なぜ、私に?
深く考えている余裕はなかった。目の前の魔獣をとにかく倒さなければ……!
私はさっきより素早く魔法を展開して対処した。瞬時に氷をのナイフを出して敵を仕留める。
だが、魔獣の勢いは止まらない。それになんだか魔獣たちの魔力がだんだん強くなっている気がする。
思った以上に魔力が削られて、どんどん息が上がって来た。それに比例して集中力も途切れる。
魔獣は容赦なく突進する。額から汗が滴り落ちる。魔力がもぎ取られる。
そしてついに――……、
仕留めそこねた一匹の魔獣が猛然と私に襲いかかって来た。
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