21 狩り大会③
大急ぎで魔法を唱えようとしても、もう間に合わない。
最悪の事態が頭の中を過ぎった。
やられる――……、
「リナ嬢っ!」
そのときだった。
にわかに目の前が眩しくなって、思わず目を閉じた。
「大丈夫?」
再び目を開けると、フレデリック様が私に手を差し伸べていた。
「フ……王太子殿下……!」
ただただ嬉しくて、泣きそうになる。でも、唇を噛んでぐっと堪えた。
駄目よ、ここで涙を流したらグレースたちに馬鹿にされてしまうわ。私は負けない。
「た、助けてくださって、ありがとうございました」
「とんでもない。――ところで、魔獣の動きがおかしいね」と、フレデリック様は眉をひそめた。
「はい、突然私のほうに向ってきて……」
「一度中断したほうが良さそうだな」
フレデリック様は審判に向かって大きく両手を振った。審判も異変に気付いているようで頷いてから中央の魔法陣を止めようと動いた。
だが……、
「どうしたんだ?」
会場がざわめき立つ。魔法使いたちが何度停止を試みても、魔法陣は依然として魔獣を会場に放ち続けていた。
そして、
「ガァァァァァァァッ!!」
それらの魔獣全てが私をめがけてどっと突進してきた。どの魔獣も目が濁って狂気を帯びている。
私とフレデリック様は再び魔法で応戦した。氷魔法を打って、打って、打ち込んだ。
だが、魔獣たちは止まらない。まるで大波のようにどどうと寄ってきては、容赦なく私に牙を剥く。私はどんどん息が上がる。頭も鈍る。このまま気絶しそうだ。
「……リナ嬢、まだ戦えるか?」
そのとき、隣で戦っていたフレデリック様が尋ねた。
「は、はいっ……なんとか……!」と、私は息も絶え絶えに答える。
「それは良かった。実はそろそろ僕も限界でね、ここで一気に方を付けようと思う。手伝ってくれるかい?」
「もちろんですっ!」
私は軽く深呼吸をしてから、集中して残り少ない魔力を両手に集約させた。自分の魔力はもう枯渇しつつある。おそらくこの一撃が最後になるだろう。
だからこそ、絶対に成功させてみせる。
準備が整い、フレデリック様と目が合った。彼は目配せをして頷き、そっと私の半歩後ろに下がる。
信頼されている。そう思うと力が湧いてきた。
私は大地を踏みしめるように一歩前へと足を出した。
そして、
「凍てつくマナの全ての眷属よ、我の前に顕現せよっ!」
ごうごうと深い底から轟く地鳴りのようなけたたましい音を立てて、闘技場の地面から2メートルくらいの鋭利な氷の柱が物凄い勢いで宙を貫く。多くの魔獣が刹那のうちに突き刺さった。
だが、まだ魔獣は残っていた。それらは私への攻撃を諦めない。憎悪は加速する。
「光のマナたちよ!」
そのとき、後ろにいたフレデリック様が私の前へ立ち、まばゆい光を放った。
線のような一本の光が、私が放った氷の柱に瞬く間に反射して滑るように広がる。そして雷のような鋭い光が魔獣たちの肉体に炸裂した。
その光が会場全体に広がったところでドンと大きな音を立てて、視界が真っ白になった。
白い世界が晴れる頃には魔獣は一匹残らず消し飛んで、ちょうど魔法騎士団長が中央の魔法陣を破壊したところだった。
今回は予想外の事故が起きたので大会は中止、優勝者はなし――という結果になった。
でも、会場の誰もが優勝はフレデリック様だと口を揃えて言っていた。
実際に事故が起こる前も彼が一番多くの魔獣を倒していたし、それに最後に圧倒的な力で全ての魔獣を消滅させた。私も彼が文句無しの優勝だと思う。
正直のところ優勝できなかったのは本当に悔しいけど、最後にフレデリック様と共闘できたのは不謹慎だけど嬉しかった。彼から信頼されているのが魔法を通じて感じられて感激した。なんだか彼と心を通わせられた気がした。
それにしても、どうして魔獣が暴走したのかしら?
魔獣が私だけに向かって来たのはおそらくグレースたちがなにか仕掛けたのだと思うけど……彼女たちも何度も懲りないわよね……魔獣の力が突然強くなったり魔法陣への抑制が効かなくなったのは不可解だわ。
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