第19話「ヨケイナオセワ」
葵とのデートの後、善は
しかし、葵自身もしっかりと言葉に出してはいないものの自分に好意を寄せていると取れる発言をしていた。
異性に好意を向けられているという現実に、善の心臓は跳ね、思考はふやける。
「あああああ!!」
顔をトマトのように赤くし、姉の部屋の扉を開け
「あああああ!ぬはぁあああ!」
「ひぇ!?なに!?」
善はダッシュで家を飛び出して近くの心霊スポットの山へ登り、沢を登り滝に打たれた。
「南無阿弥陀仏色即是空!」
滝を飛び出して鹿を威嚇し、コーラを浴びて公園で座禅を組んだ。すると、後ろから一人の老婆が話しかけてきた。
「コーラ座禅とは粋なことを。」
「何奴!」
老婆の持っていた杖が善に振り下ろされた。警告もない急襲。実際卑怯。高齢に見える老婆とは思えぬ強力な一撃。
「南無三!」
善はコーラで杖を受け流したが、老婆の蹴りが腹部を直撃していた。
「がはっ!?」
吹き飛んだ善は噴水に落ち、水に浮いたまま青空を仰いだ。
「綺麗……」
「貧弱貧弱ゥ!実に貧弱!この馬鹿弟子が!」
見下ろしていたのは葵の祖母であった。
「くそば、師匠。さくじつはちゃがしもおもちせずかえってしまいもうしわけごばばばばは!?」
善は顔面を鷲掴みされ噴水に沈められた。実際それはまさに"光輝く指"。
「心にもないことをほざくなクソガキ!貴様に葵を任せたはずじゃ!なんじゃその体たらくは!」
「げばばばは!じじょ!じじょう(師匠)!」
葵の祖母。佐久間多美子(82)。この老婆は善に様々なことを教えた師匠であった。
「なんじゃい!」
「お待ちを!お待ちをください!」
「認める。」
「今俺の精神は異常をきたしています!まともな思考を持っておりません!」
「知っとる。真木翔子とかいう小娘のことじゃろ」
「な、なぜそれを」
「葵が言うとったわ。敵じゃとな。本来葵を貴様に任せたのであればそのようなことは起きぬはず。それが、恋仇ができたというのはどういうことじゃ!」
「どういうことでしょうね」
善は弾け飛んだ。
「経緯を!事の経緯をお話しさせてください!これには深いワケが!」
「そこらのドブより浅いワケなど聞かんわ!そんなことよりこれを一筆書けばもう許そう。」
多美子が服の袖から出したのは、ゼク◯ィのCMでしか見た事のないアレだった。
「婚姻届…。あの、昨日も言いましたが俺はまだ未成年です。」
「だからなんじゃい。今のうち書いとけ。日付は卒業式の次の日にしとけ」
「あばばばばば!?葵さんの意思は!?本人の意思がなければこういったものは」
「もう書いてある。翔子とやらをこれで倒せるとな。」
「葵さん…。嬉しいんだけどこの気持ちを感じたいのは今じゃない…。師匠、俺は葵さんを縛り付けているんじゃないか?」
「もうそこまで発展したか変態クソガキめ!!」
「げぶぁああ!?ちが、違うそういう意味じゃない!葵さんが人との関わりを持つ自由を奪っているんじゃないかってことだ!」
「ほう。申してみよ」
「俺と葵さんの知り合った期間は短くない。もう5年ちょっとになるはず。家で遊び始めたのは最近やっとだけど。その前から葵さんはずっと孤独に過ごしてきた期間が長い。やっと高校生になって…去年の夏は病気で入院しちゃってたけど、高校生になってこの夏は他人との関わりを楽しみ始めたんだ。」
多美子は静かに頷いた。
「俺は…もちろん葵さんのことは好きだ。けど、葵さん自身が誰かと関わる機会を奪いたくない。」
「つまり他に男を作れと?」
「あ、それは絶対嫌です。遊ぶ時間を与えてくれってことだ。こんな紙に俺が一筆してしまったら、せっかくの他人との関わりの機会を奪ってしまう。」
「なるほど。言いたいことは分かった。」
「師匠……」
「印鑑は後日でいい。」
「話聞いてたかクソババア!?」
多美子は婚姻届をしまい、他所を向いた。
「先の言葉…しっかり葵本人に伝えてやれ。あの哀れな孫もきっとその言葉を待ち遠しくしておる。」
これまで鬼の形相を浮かべていた多美子が、孫を想う優しい顔をしていた。善は心底から葵は幸せ者だなと感じた。
「師匠、あと一つよろしいですか」
「なんじゃい。」
「人の恋路に口出す老人は煙たがられますよ」
善は弾け飛んだ。
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