第七話 君がいるから


「レイ、放課後よ」

 

 放課後すぐ、後ろの席のアイリにつかまりそうになる。

 ただ、俺は今日の放課後、予定があるのだ。


「先に帰ってください。俺、ゆゆと用事あるんで」

「ゆゆ? 誰よそれ、まさか浮気?」

「浮気じゃないし、いちいちあんたに詮索される理由もありませんから」

「冷たいわねえ。ま、いいわ。のぞみと家でごはん作って待ってるから早くかえってくることね」

「まあ、善処します」


 そんな会話をしていると、気が付けばマナの姿はなかった。

 まあ、今日は一緒に帰ったりもできないし仕方ないが、せめてまた明日の一言くらいはいいたかったのに。


 ほんと、邪魔しかしないなこの幼女は。


「あ、水瀬君おつかれー」


 早くこいつから離れたいと思っていたところで、ちょうどゆゆが俺のところにやってきた。

 

「おつかれさま。じゃあアイリ、俺はここで」

「……ふん。じゃあね」


 つまらなさそうにアイリが去っていく姿を見て、ゆゆは「あの子、めちゃくちゃかわいいね」とか。


「いや、かわいいかどうかより迷惑なやつだよ」

「ふーん、水瀬君ってああいうタイプにもモテるんだ。やるねえ」

「願わくばああいうタイプにだけはモテたくなかったけどな」

「あはは、いうねえ。とりあえず、私らもかえろっか」

「だな」


 学校を出て、そのままファミレスに場所を移す。

 通学路の途中にあるファミレスは、いつもうちの生徒で賑わっている。


 で、入ると少しざわつく。

 

「あ、水瀬君だ」

「水瀬君、おーい」


 知り合いの子もちらほら。

 でも、ゆゆと一緒にいるところを見て、それ以上は声をかけてこない。

 

「なんか、すっかり私たちってカップル扱いされてるよね」

「実際仲はいいし、無理に否定して詮索されるのも面倒だからって放っておいたけど噂って怖いよな」


 席に座りながら互いに笑う。

 たしかにゆゆとは、中学の頃から特に仲良くしてきてた。 

 でも、不思議と恋愛に発展しないのは俺に好きな人がいるからってだけじゃない。

 ゆゆだって、俺をそういう目で見ていないと思う。

 美人だけど少し男勝りで、サバサバしてるとこが一緒にいて楽というか。


 ま、それでもいつかこいつにも好きなやつとかできるんだろうけど。


「で、早速だけど。篠崎さんと何で喧嘩したの?」

「喧嘩ってほどじゃないけど……まあ、俺から朝誘っておいて、他の子の話になったからちょっと機嫌悪かったっていうか」

「それって嫉妬じゃん。へえ、篠崎さんも水瀬君のこと、好きなんだ」

「なんでだよ。好きって言うくせに他の子の影が見えてチャラいなこいつって思われただけだと思うけど」

「でも、それなら幻滅しても怒ったりはしないと思うよ? ていうか他の子って? もしかして私?」

「いや、ゆゆのことは話してるから。あの、さっきいた金髪のちっこいやつのことだよ」

「そ、っか。へえ、やっぱりあの子とも何かあるんだ」

「ないって。昔からちょっと知り合いなだけだよ」

「ふーん、なんか水瀬君の知り合いが転校してくるの、多いよね。みんな、水瀬君を追いかけてきてるとか」

「それはそれで怖いって」

「あはは、確かに」


 ジュースを飲みながらゆゆは笑う。

 そして、少しだけ考え込むようにうつむいてから、もう一度ジュースを飲んで話を戻す。


「ねえ、やっぱり篠崎さんって水瀬君のこと、好きだと思うよ」

「嫉妬したから? でも、さすがにそれは」

「でも、篠崎さんが水瀬君のことをどう思ってるかって、本人に聞いたことないんでしょ?」

「まあ、それは確かにないかもだけど」

「じゃあ聞いてみるべきだって。案外さ、みんな自分の本当の気持ちなんて素直に出せないものなのよ。水瀬君みたいな人の方が珍しいというか」

「そんなもんかなあ。ま、今度タイミングがあったら聞けるように頑張ってみるか」

「うんうん、その意気だって。ね、私お腹空いたんだけど何か頼んでいい?」

「ああ、いいよ。俺もちょっとだけなんか食べようかな」


 話がひと段落したところで食事を注文して。

 食べ終えた後はなんでもない話をして、店を出た。


 帰り道はすっかり薄暗く。

 ゆゆを家まで送っていくところ。


「ふう。やっぱりたまの休みはいいね」

「明日からまた部活だろ? 大変だな」

「ま、夏に向けて色々頑張らないとだし。でも、さっきの話じゃないけど、水瀬君がうちに入学するからって理由でうちを選んだ子、結構いるんだよ」

「ま、そう言ってもらえるのは男冥利に尽きるから嬉しい限りだけど」

「水瀬君がいるから、入ったんだよ……」

「え?」

「ううん、なんでも。あ、もうこの辺でいいよ。じゃあまた明日」

「ああ、また。今日はありがとな、ゆゆ」

「うん、こちらこそ」


 ゆゆはさっさと走って行って、最初の角を曲がって姿を消す。

 俺はそこから引き返して、自宅を目指す。 


 ゆゆに言われた通り、今度機会があったらマナが俺のことをどう思ってるのか聞いてみるべきか。

 でも、あんまりしつこく好きだどうだと言わない方がいいのかもって、アイリにしつこく迫られて思うところもあったし。


 はてさて難しいな。

 でも、明日はもう一回マナを誘ってみようか。


「ただいま」


 そのまま家に帰ると、玄関先にいい匂いが漂ってくる。

 そしてとととっと軽い足音が聞こえてきて、ワンピース姿の幼女が姿を現す。


「お帰りレイ。遅かったじゃない」

「あ、そういやいたんだった……」

「なんでそんな嫌そうな顔するのよ。のぞみは今お風呂だから、一緒にご飯食べましょ」

「……やっぱりしつこいと嫌われるな」

「え、なに? どういうことよそれ」

「いや、なんでもない。ごはん食べるわ」

「ちょ、ちょっと、さっきのはどういう意味よー」


 わーきゃー騒ぐ幼女の声にぐったりしながら、キッチンに置かれたパスタを見てお腹を鳴らす。


 疲れてても腹は減るもんな。

 ほんと、どうなるんだろうこれから。


 マナのやつ、俺のことをどう思ってるんだろう。


 ……やっぱり最近メンタル弱ってんなあ、俺。

 

 

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