第5話 焦らされて
目の前がピンク色に染まり、頭の中が真っ白になる。フワフワと体が浮くような感じまでしてきた。
もう限界が目前に差し迫っている。
「もうダメですー」
私は、口をもぎ離すと頂上が近いことをナオミさんに叫んだ。体への愛撫が突然、緩やかになり、ナオミさんの手が完全に止まる。
上りきれなかった私はハアーハアーと熱い息を何度も吐いた。しばらくそのままの状態でいると、燃え上がっていた体の熱が少しずつ冷めてきた。
呼吸が落ち着いてくると、ナオミさんがまた私の体を嬲り始める。
今までのゆっくりした愛撫と違って、激しく手と指を使って一気に頂上付近まで追い上げられた。
また頂上に近づいたことを告げると、動きが止まってしまう。
上らされたと思ったら落とされるということを何度も何度も繰り返される。もう少しで思いを遂げられるという期待から一気に絶望に落とされる。
女同士だけにそのタイミングは絶妙だ。
これはもう愛撫というよりも拷問に近かった。完全な満足を与えてもらえない状態に体が悲鳴をあげ、ついには過呼吸になってしまう。
「ふーっ、ふーっ。もういやあー。もう虐めないで。一思いに」
あまりの苦しさに私は顔を俯けて泣き声を上げた。
せめて一度だけでも思いを遂げさせて欲しい。
「うふふ。どうして欲しいの。旦那よりわたしとしたほうが気持ちいいって言ってごらん」
ナオミさんは唯一自慢の背中まである黒髪を掴んで私を仰向かせた。覗き込んでくるナオミさんの顔には喜びの色が浮かんでいる。
ナオミさんは絶対にドSだ。
「旦那よりわたしの方がいいと言いなさい」
私の苦しんでいる顔を見て目まで潤ませている。
「そんなこと言えない」
そんな夫を蔑むようなことを言えるわけがない。
「フーン。言えないんだ。こんなにイヤらしい顔になっているくせにまだ我慢できるんだ」
ナオミさんはデニムのポケットからコンパクトを取り出して、私の目の前に突き出してきた。
口を半開きにして、その端から涎を垂らしている呆けた女の顔が写っていたる。
「見たくない」
あまりのあさましい表情に私は手で顔を覆った。
「せっかくいい顔しているんだからもっとよく見なさい。奈々ちゃんにも見せてあげようか」
「ダメです。奈々には見せないで」
奈々にこんな姿を見られたらとても生きていられない。
「素直にならないと最後までしてあげないわよ」
髪の横の部分を耳にかけられて、剥き出しにしなった耳元で言葉で嬲りながら、私の体も虐め抜く。
「あーっ。いやっ。今度こそお願い」
もう何度目か何十度目かも分からなくなった頂上付近へ近づく。
「ちゃんとおねだりしないとやめるからね」
含み笑いしながらナオミさんは指の動きがゆっくりになる。
「いやっ、いやっ。やめないで。頭がおかしくなる」
これ以上焦らされたら本当に狂ってしまいそうだ。
もう我慢の限界を超えていた私は屈服の言葉を言うために口を開いた。
二階でバタバタという音がした。続いて階段を下りてくるいくつかの軽い足音が聞こえてくる。
「ママ、マコちゃんとフウちゃんが習い事があるから帰るって」
エリちゃんがキッチンに入ってきた。
「分かった」
ナオミさんは平然と私の前に座り、ママの顔に戻っている。
「ママ。私も帰る」
奈々が近づいてきて私の顔を見た。
なんとかワンピースのボタンを留めてショーツを引き上げることができた。
「うん。分かった。でも、ちょっと待ってて、お片付けをしてから帰らないと」
一刻も早くナオミさんから離れたいが、すべてを放りっぱなしにして帰るのはさすがに気が引ける。
「そんなこと別にいいわ。それとも続きがしたい?」
ナオミさんの目に妖しい光が灯っている。
これ以上ナオミさんにいたぶられたら本当におかしくなってしまう。
「そうですか。じゃあ、あとはお願いします」
私は慌てて奈々の手を引いて外に出た。
最近は、小学生が襲われたという危ない話も聞く。心配なので、マコちゃんとフウちゃんを家まで送った。
「ママ、顔が赤い」
帰り道二人になると奈々が言った。
「うん。エリちゃんのママとちょっとお酒飲んじゃった」
「ふーん」
奈々は納得したような顔をした。
顔が赤いのはアルコールによるものだけではない。
最高の悦びをまだ与えてもらっていない体の奥底には官能の小さな炎がまだチロチロと燃えている。
頭の中にもモヤモヤしたものが残っていた。
家に帰り着くと、奈々は自分の部屋には戻らず、ずっと誕生日会の楽しかったことを話していた。
私はハッキリしない頭で適当に合槌を打ちながら聞き流す。
少し気持ちがイライラもしている。
今までこんな気持ちになったことはなかった。
この気持ちを解消することができるのは夫しかいない。
どんなに拒否されようと、泣き叫んで取り縋ってでも抱いてもらえば治るだろう。
しかし、夫はしばらく帰ってこない。
あと残された方法は……。
私は自分ではそう性欲が強いほうではないと思っている。
独身時代でもあまり自分自身で慰めたことはない。
結婚しているのに自分でしないといけないなんて惨めで涙が出そうになる。
5年も夫に相手にされず、ママ友にあんな悪戯までされたら性欲が強くなくても我慢できなくなって当然だろう。
奈々はいつも自分の部屋で寝ている。寝静まった頃にすれば、奈々に気づかれる心配はない。
だが、物事は思うようにはなかなってくれない。
夜になり、ベッドに入ろうとしたとき、奈々が自分の枕を持って寝室に入ってきた。
「今日はママと一緒に寝たい」
いつもは夫と寝ているから、いない日ぐらい私に甘えたいのかもしれない。
普段ならなんてかわいい子だろうと思うところだ。
だが、今日は違う。
「いつもは一人で寝ているのにどうしたの? 友だちから怖い話でも聞いたの?」
昼間に友だちと怪談話でもして怖くでもなったのだろうか。
「今日はパパがいないからいいでしょう」
奈々は私の枕の横に自分の枕を置くと、さっさとベッドに横になってしまった。
母親としては、一緒に寝たいという娘を自分の欲望を満たしたいがために追い出すわけにもいかない。
私もしかたなく奈々の横に寝た。
奈々が「ママ」と言って、甘えるように体をピッタリとくっつけてくる。大きくなったと思ったが、まだまだ子どものようだ。
やっぱり奈々はかわいい。頭を撫でてやる。
「今日だけよ」
「うん」
奈々は嬉しそうに目を細めて頷いた。
体をこんなに引っ付けられたら自分を慰めるなんてとてもできない。それに娘が横に寝ているのにそんなイヤらしいことができるはずもなかった。
今日は諦めるしかなそうだ。
なんとか寝ようと思って目をつむるが体が疼いてなかなか寝つけない。横では、奈々が寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。
トイレにでも行こうかと思って、ちょっと体を動かした。
「うーん」
奈々が寝返りを打った。私が動いたら起きてしまいそうだ。奈々を起こしてしまうのはかわいそうだ。
私はトイレに行くのを諦めて、幸せそうに眠る奈々の顔を見つめていると疼きが少し治まっていくように感じられた。
奈々の寝顔を見ながらいつの間にか私は眠っていた。
翌日の日曜日は奈々と一緒に買い物に行って、久しぶりに外で昼食を食べた。
夕方に家へ帰ると奈々と一緒に夕食を作って食べたりした。
奈々とそんなことをしているうちに、昨日感じていた体の疼きやモヤモヤ感をほとんど感じなくなってきていた。
寝るときになると、きのう約束したはずなのに奈々が一緒に寝たいと駄々をこねた。
「昨日、約束したでしょう」
「イヤだ。ママと一緒に寝る」
奈々が泣きだしてしまう。
「本当に今日だけよ」
何度も言い聞かせて横に寝かせた。気持ちも体もだいぶ落ち着いていたので、昨晩みたいな焦燥感はなく、今日はゆっくり寝られそうだ。
考えてみたら奈々のおかげでナオミさんの毒牙から逃れられたし、自己嫌悪に陥そうな行為をしないで済んだ。
奈々に感謝をしないといけないと思った。
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