第4話 弄ばれて

 いつのまにかワンピースのボタンが全部はずされていた。下着が露わになっている。

 私は慌ててワンピースの前を合わせたが、ものすごい勢いで手を払われ再び開かれてしまった。

 ブラジャーを上にずらされ、はだけた胸を揉まれる。

「もうやめてください。私はレズではありません。同じ嗜好の人としてください」

 女の人を抱きたいとも抱かれたいとも思ったことはないし、そういう関係になりたいと思ったこともない。

「本当にそう? 友だちと手を繋いだり腕を組んだりしたことぐらいはあるんじゃない? ふざけてキスとか一回もしていない?」

「それぐらいなら」

 高校は女子校だった。

 生徒が全員女子だったので、体育祭では女子同士で手を繋いでフォークダンスを踊ったことがある。

女子ばかりという気軽さもあって、休み時間に膝の上に座ってくる子もいたし、ノリで友だちと抱き合ったり軽いキスをしたこともあった。

「そのとき、いやだとか気持ち悪いとか思った?」

 私は首を横に振った。

 抱き合ったりキスしたりするのは仲のいい友だちとのちょっとしたおふざけだから、気持ち悪いとかそんなことを思ったことはない。

「やっぱり、亜希はレズっ気があるわ。その気のない子は同性と手を繋いだりするのを気持ち悪いって言うわよ」

「嘘です。それぐらいなら、女子校出身ならみんなしています」

 みんなしているかどうかは分からないが、少なくとも私の周りの人たちはそれぐらいはしていた。

「強情ね。じゃあ、亜希に素質があるかどうか調べてあげる」

 ナオミさんの指が胸の先端にある小さな膨らみをいきなり揉むようにして摘んだ。

「あーっ」

 体の中を電流のような快感が走った。

 ナオミさんの指が膨らみを増し始めた蕾をしつこく揉んだり摘んで引っ張たりする。

「そんなに気持ちいいの? でも、そんな大きな声を出したらビックリして子どもたちが下りてくるわよ」

 ナオミさんの指の動きはあまりにも巧みで、甘美な痺れが体中に広がっていく。

 なんとか声を押し殺そうとするが、気持ちよすぎて勝手に口が開いてしまい、夫との夜の生活でも出したことがないような声が出てしまう。抑えようとしても抑えきれない。

 私は手で口を塞いだ。


「よっぽどいいのね。じゃあ、ここはどうかしら。どんないい声を聞かせてもらえるのかな」

 ナオミさんの片手がショーツの中に潜り込んできた。私は口から手を離して、ショーツの上からナオミさんの手を必死に押さえつけた。

「そこは絶対ダメです。私には夫がいるんです」

「それがどうしたの?」

 ナオミさんは不思議そうな声を出した。

「こんなことしたら、不倫になってしまいます」

 夫や恋人に触られることがあっても他人に触らせるようなところではない。

 女同士でも不倫というのかどうかは知らないが、たぶん言うだろと思う。

「いいじゃない。男でも奥さんがいても不倫をする人もいるんだから女がしても悪いことじゃないでしょ」

 ナオミさんは悪びれる様子はない。

「私は夫を愛しているんです。こんなことできません」

 セックレスとはいえ、私の夫への愛情が冷めたわけではない。

 当然、今でも夫を愛している。

「それがどうしたの? 夫を愛してたらほかの人とエッチはできないっていうの?」 

「女は愛していない人とエッチなんかできません」

 女は好きではない人とエッチをしても感じないが、男はそうではないと心理学者だったか、脳科学者だったかがテレビで言っていたような気がする。

「じゃあ、これはどういうこと? ここはどうしてこんなに熱いのかしら?」

 ショーツの中で、私が最も恐れているところにナオミさんの長い指が伸びて侵入してくる。

「いやあー」

 また大きな声を出してしまう。慌ててナオミさんの手を押さえていた手を離して口を覆う。

 自由になったナオミさんの指が縦横無尽に動き回って私を虐める。

「好きでもないわたしに、いじられているのに、どうしてここはこんなふうになっているわけ。すごく熱くて気持ちよさそうよ」

 ナオミさんの指は早く動いているが決して乱暴ではない。ちゃんと私の気持ちいいように動き回っている。

 背骨から頭のてっぺんまで電流のような快感が駆け抜けていく。

「ぐふううー」

 声が漏れないようにするので精一杯になった。

「ほら、ほら。たまらないんでしょう。どうせ頭の古い学者かなんかが言ってたことなんでしょう。男女同権とか言って古いことばっかり言っているんだから呆れるわ」

「ううーっ」

 激しく動く指に一番気持ちいいの部分を刺激される。気持ちよすぎてまともな言葉が出ない。大声で泣き叫びたくなってしまう。

「どうすごく感じるでしょう。男も女もみんなスケベなのよ。好きとか嫌いとか関係ない。気持ちいいところを責められたら感じるようにできているのよ」

 ナオミさんは休むことなく女のもっとも感じる部分を指で責め続けた。

「もう本当にやめてください。おかしくなってしまいます」

 力が抜けて口も抑えられなくなってきた。これ以上のことを責められたらどんな醜態をさらけ出してしまうかわからない。

「おかしくなっていいのよ。おかしくなった亜希がどんな顔をするか見てみたい」

 ナオミさんは楽しそうに指の動きを早める。このままこの快感に浸ってしまいたくなる。

「あー、やめてください。いやです」

 もう声を気にしている場合ではない。私はナオミさんの手首を掴んでショーツの中から引っ張り出そうとした。

 だが、レズの経験が豊富なベテランのタチであるナオミさんのテクニックはすごい。

 私の感じるツボを素早く見つけては、的確で絶妙な強弱をつけて責めてくる。

 抵抗はすぐに弱まってしまい、啜り泣くのが精一杯になってきた。

「ほら、ここをこうすればもっと感じるんじゃない」

 胸と下半身の女がもっとも気持ちいいところを私が一番感じるやり触り方で同時に嬲ってくる。

「いゃ〜ん。許してください」

 上と下を同時に責められて、恥も外聞もなく泣き叫んだ。

 ナオミさんは上手すぎる。

 このまま責め続けられたらナオミさんの前で確実に狂態を晒してしまうことになる。

 それは夫への裏切り行為だろう。そんなことになったら夫に合わす顔がなくなってしまう。

 気持ちいいと思うから感じるんだ。気持ちいいと思わなければ……。

 なんとかナオミさんの愛撫に溺れまいと必死になって何も感じないと思い込もうとした。


 そんな私の苦悩を知ってか知らずか、ウフフッと含み笑いをしながらナオミさんは指での虐めを続ける。

「そんなに気持ちがいいの? もう我慢できなくなってきたんじゃない?」

 指の動きがさらに巧みさを増して責め苛んでくる。

「あーん」

「そんな大きな声を出したら、奈々ちゃんがビックリして見にくるわよ。いいの? ママの恥ずかしい姿を奈々ちゃんに見られても」

「だって、だって」

 私は鼻にかかった甘えた声で駄々をこねるように言って、顔を上に向けて恨めしい目をナオミさんに向けた。

「しかたないわね」

 ナオミさんの口が口を塞いだ。舌が口の中に入ってきて舌を絡めとられる。

 絶妙な舌捌きで私の舌も虐めてきた。私が感じていると思えば、その箇所を集中的に舐めたり吸ったりしてくる。唾液が流し込まれてきたら、私はそれを躊躇いもなく飲みくだした。

 夫を含めても片手の数ほどしか男性経験のない私がいつまでもプロのようなナオミさんに抗し続けられるわけがない。

 体はもうドロドロに溶けたようになり、ショーツを足首まで引き下げられて裸同然の姿でナオミさんの好き勝手に痛ぶられる。

 ナオミさんの責めは、男たちがよくやるようながむしゃらに頂上へ上らせようというものではない。

 ゆっくりゆっくりと階段を一段一段上っていくようにゆっくりと上昇させられる。

 体に与えられる快感に酔いしれ、私はすっかり抗うことを諦めた。

 愛撫に身をまかせ、全身から汗を噴き出しながら体を震わせて嬌声をナオミさんの口の中に響かせるだけになっていた。




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