第四話 不敗の王者
「いちごビックスペシャルパフェのお客様」
「はーい!」
2人前くらいはあるだろう大きな容器にたっぷりの生クリームといちごが盛り込まれたパフェが目の前に現れる。
目をキラキラさせてパフェスプーンをゆっくり差し込み、生クリームをすくって口に運ぶ。
「はあ〜♡めちゃくちゃ幸せ♡」
「………………。」
「マスター食う?」
「……いらねぇ」
「あそう。うめぇのに」
「それで最後にしろよ。」
「えー。まだこのダブルショコラいちごクリームバニラアイス添えも食うつもりだったのに。あと、こっちのムースいちごのキャラメルショコラ」
「いい加減にしろ。見てて気持ち悪くなる」
「ちぇ。分かったよ。」
ムスッとした表情をしながらも甘い物を頬張ると幸せを感じるこの青年。
真っ赤な髪色が静かに揺れる。
「ご馳走様でした!」
満足そうな顔をして合掌すると、静かに椅子から立ち上がった。
「マスター、今日どうするの?」
「アイツに頼まれた物があるから、先ずはそれを済ませる」
「あぁ~♪アレか!」
にししと笑う青年。
会計を済ませ、店の外に出ると、眩しく照りつける太陽に、爽やかな風が頬を優しく撫でる気持ちの良い昼時であった。
「
「ん?何?」
呼ばれて振り向くと、タバコの箱を見せる。
「え?ヤダよ。」
「買って来い」
「はあ?ちょ、マスター!!!」
財布を投げつけ、飛龍の言葉を無視し、マスターと呼ばれてる男は目的の場所へ向かう。
飛龍。
それは、唯一、動物を使わずに生まれたと言われている、NAPで生まれた戦闘機の名前。
「ったく。マジで人使い荒いっつーかさ、タバコ吸いすぎなんだよ。最近ぜってーまた本数増えたよなぁー。あ、これ2箱クダサーイ。」
ブツブツ独り言を言いながら、店に入り、定員にタバコの箱を見せて言う飛龍。
店から出ると、飛龍の目の前に小柄な少年が立っていた。
「見つけた、飛龍。」
「ん?何お前?」
「勝負だ!お前を倒して、僕がトップに立ってやる!」
少年は、そう吐き捨てると、手から電気を発し、飛龍に突っ込んでくる。飛龍は面倒臭そうに溜息を吐いて、身を交し、回し蹴りを喰らわす。少年はそのまま壁に吹き飛ばされ、身体を地面に叩き付けられた。
「ユウ!!!」
「あ?何?あんた、コイツのマスター?」
「クッ…。あぁ、そうだよ!」
「C-4…か。」
ポツリとそう口にする飛龍。
ポケットに手を突っ込んでユウと名乗る少年にゆっくり近付いた。
「まだ殺るって言うならマジで始末すっけど?俺も暇じゃねーし、時間無駄にしたくねーんだよね。」
「う、うるさい!!!言っただろ!お前を始末して僕がトップに立つんだ!!やるよ!マスター!!」
「うん。分かった。」
「はあ…。ダリィ…」
「キミのマスターはどこなの?」
「俺のマスターはココにいないよ。」
「呼びなよ。マスターが居ないと、勝負にならない。」
「いや、もう勝負付いてる」
そう言うと、飛龍は指を鳴らす。飛龍が指を鳴らすと、ユウという少年は赤い炎に包まれる。
悲鳴なのか呻きなのか、苦しむ声が響き渡る。ユウのマスターである青年は慌てるが、飛龍が人差し指を左に振った瞬間、炎が踊るようにマスターである青年の方へ移動し、そのまま燃え上がり、灰となった。
「C-4…コードナンバー8529。消滅っと♪」
クルッと踵を返し、自分のマスターの元へ向かう。
NAP
それは、1人の研究員の手によって生まれた戦闘機を作るプロジェクト。
この戦闘機は全てSからDまでランクが付けられており、戦闘機同士を戦わせることによって、ランクを上げることが出来る。
戦闘機は相手の戦闘機のランクが分かる。
そのため自分と違うランクの者と戦う方が、効率良く戦闘レベルを上げる事が可能と言われているため、相手のランクを見て戦いを挑む事が多い。だが、ただ戦うだけではなく、マスターとの相性も関わってくるため、マスター選びも戦闘機にとって大切と言われている。
戦闘機とマスターは互いに同意した上で契約を交わす。
契約を交わすと、マスターは戦闘機の
そのため、戦闘機はマスターを全力で護り、戦うのだ。
「あ、マスター♪」
「遅せぇ。」
「仕方ねーじゃん。勝負吹っかけられたんだもん。ほらよ。」
「………。」
「え?なに?」
「カートンじゃねーのか。」
「うん。マスター、あればあるだけ吸うだろ。たからカートンじゃねーよ。」
「……チッ。」
舌打ちをして受け取ると、端末に着信が入る。
「…もしもし」
『あ!
「今度はなんだ。」
『帰りにさ、お砂糖買って来て貰える?後ね、
「切るぞ」
そう言って、電話を切る。
この飛龍のマスターは
煙草に火を付けると、煙を吐き出し腕時計に目をやる。
「
「あぁ。」
「なんだって?」
「帰りに砂糖買って来いだとよ。」
「ふーん。」
歩きながら祐政は情報屋に足を運びながら用事を済ませていく。
夕方になり、自分の家に帰るとパタパタ走ってくる少年が元気よく御出迎えしてきた。
「飛龍!!!おかえりー!」
「ただいまバカ猫。ほらよ!」
「ん?あれ?チョコレートは?」
「はあ?ねーよ。そんなもん。シュークリームで我慢しろ。」
「おかえり、祐政くん。あれ?どうしたの秋毅?」
しょんぼりする表情を見て、響夜は首を傾げる。
「チョコレートがね、無かったの。」
「祐政くんが人の話を聞かないで電話を切っちゃうからだね。可哀想な秋毅。」
「うぅ…。もういいもん。」
プイっと不貞腐れながら秋毅はリビングへ戻っていく。
秋毅はS-2というランクを持っており、子猫の遺伝子を組み込まれ作られた戦闘機だからか、猫の習性を持っていたりする。
「今日の収穫は?」
「ゼロって言いてぇところだな。」
「ゼロだけどゼロじゃないって事かな?ってことは、何か掴めそうなの?」
「研究所にいるのは間違えなさそうだな。」
「ほぉー…そうなんだ。」
「おそらく、〝箱〟もそこにある。」
祐政がそう言うと、響夜も目を見開く。
「弥生の家宝とされてる箱…だね。」
「表ヅラは…な。アレを家宝って本気で言ってるのか知らねぇがな。」
「……ふふっ。まぁ、そうだけど。」
コーヒー飲む?と優しく微笑みながら言う響夜に、祐政は頷く。
「
「ん?あぁ〜、まだかな?夕飯には帰ってくるって言ってたよ〜」
「そうか。」
「優愛ちゃんも強いから大丈夫だよ。祐政くん、本当心配性なんだから☆」
そのため、外出をすると他の戦闘機から戦いを挑まれることも多く、優愛もよく戦って帰ってくることも多い。
「…大体ここも治安が悪いだろうが。」
「まぁ、ここD地区寄りのC地区だからね〜。それに、不敗の王と言われてる飛龍くんと祐政くんの身内って知られたら、余計目を付けられちゃうから危ないね?」
「響夜、てめぇ…何が言いてぇんだ。」
「あはは☆怒らないでよ、祐政くん!確かに、女の子がフラフラと遅くまで外出は良くないもんね!日が落ちるの早くなってきたし!秋毅ー♪」
「なぁに、響夜!」
ひょっこり顔を出すと、響夜は「優愛ちゃんと珠菜ちゃんをお迎えに行って」と言う。
秋毅は「はーい!」と笑顔で返事をして、優愛を探しに行った。
「なに、アイツ…また携帯忘れたの?」
出て行く秋毅を横目に飛龍は口を開く。
優愛は、すぐそこまでだし、直ぐ帰るから!という理由でよく端末を置きっぱなしで出ていく事が多かった。
不敗の王者
祐政と飛龍のペアは、周りからそう呼ばれていた。
飛龍は唯一動物の遺伝子を組み込まれずに作られた戦闘機、いわば研究員側から見ると、成功作品であった。
飛龍がどういう形で今この場にいる事になったのかは、研究所側からは明らかにされてはいないが、1つ言えるのが、飛龍は他の戦闘機と比べて、桁違いにレベルの差があるということだった。
そして、マスターとして坂藤祐政がついている。
坂藤祐政は、始末屋として有名な人物であった。その坂藤祐政が飛龍のマスターとなり、戦闘機同士のランク争いをしている。
そのため、誰もが飛龍を倒したがっていた。
戦闘機のトップに立つために。
「お兄ちゃん、ごめんなさい」
「端末は絶対に置いていくなって言ってるだろ。」
「うん。でも、お菓子買ったら直ぐ帰るつもりだったの!ね、珠菜?」
「うん…」
しゅんとしてる珠菜と優愛を見て、溜息をする祐政。
そんな祐政を見て、響夜は夕飯をテーブルに並べながら優しく微笑む。
「まぁ、まぁ、祐政くん。そんな怒らないで、ほら!ご飯食べよ。」
「わぁ〜!美味しそう。いただきまーす!あ、珠菜コレ食べる?取ってあげるね!」
「ありがとう、優愛さん!」
パア〜と目をキラキラさせて優愛が取ってくれたサラダを見つめる。
賑やかな食事の時間が過ぎ、みんな寝静まってた時間。
祐政はベランダでタバコを吸いながら遠くを見つめていた。
「マスター、冷えるぜ?寒くねーの?」
そう言いながら飛龍は羽織を祐政の肩にソッと掛ける。
「…………あぁ。悪い」
「西條…だっけ?」
「………」
「マスターが探してるの。」
「…あぁ。まぁな。」
「マスター。そろそろ教えてくれよ。その西條ってなに?」
「…………」
「マスターのなんなんだよ。」
「うるせぇ。さっさと寝ろ。」
「あ……」
フイっと祐政は部屋へ戻っていく。その後ろ姿を見て、飛龍は深い溜息を吐いた。
西條家と坂藤家は繋がりがあったのを飛龍は知らないでいた。
そして、その2つの家系の繋がりが切れてしまったのには、弥生家が家宝として大切にしていた〝箱〟が関係していたのである。
「・・・・ばか祐政。」
ムッとした顔をし、吐き捨てる飛龍。
「祐政くん。」
「…今度はてめぇか。」
「酷いな~。」
コーヒーを片手に話しかける響夜。自室に戻ろうとする祐政の手首を掴み引き留めると、祐政はその手を強く払い除ける。
「そろそろ、飛龍くんに話しても良いんじゃない?飛龍くんだって関係ないわけじゃないんだしさ…」
「・・・・」
「そうやって一人で抱え込むのも、祐政くんの昔から悪い癖だよね。」
「うるせぇ。黙ってろ」
そう吐き捨て、部屋に戻る祐政。その閉まる扉を見つめ、一つ溜め息を漏らした。
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