月明かり

 悪い、夢を見ていた。


 男は目を覚ました。

「う、うぅん」

目を開けたのにも関わらず、視界は黒に染まっている。

しばらくぼぅとしたのち、布団に包まれながら体を伸ばす。

バキバキ、という音が鈍く体に響いた。

男は微かな月明かりを頼りに、手を伸ばし、眠る前に傍に置いていた眼鏡を探した。

しばらく指先を動かしていると、カチャ、と音がなった。

眼鏡のフレームに触れた音だ。

男はそのまま指先で探りながら、眼鏡を取った。

「はぁ」と男はため息を吐いた。


 昼夜逆転が日常となり、何年経ったのか。

もうしばらく、朝日なんて見ていなかった。


 ふと、窓を見る。

相変わらず外は暗い。

しかし、月明かりが思いの外輝いて見えていた。

男にとっては、月明かりが朝日のように思えた。


 その光景を眺めながら、

本物の朝日を浴びてしまえば灰になって消えてしまいそうだ、と男は思った。

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